所有権擁護論

ノリシゲ、深田、府内、大川


自己所有権からの私的財産理論

◎ ロックの所有権理論の骨子
すべての人が自分自身の身体に対して所有権を持っている。彼の労働はまさしく彼の物である。そのため、自然な状態から労働により彼が取り出したものは彼の所有物となる。

☆ 狭義の自己所有権

‥‥自己の身体や自由への権利

正当化根拠

・人々が持つ道徳的直感
 cf.ハリスのくじ

・自分の身体はほかの物体と異なるユニークな特徴がある
1、 身体の直接支配
 →身体の大部分は意思のみによって媒介なしに動かせる。
2、身体に関する観察によらない知識の可能性
 →目を閉じていても私はいすに座っていることを知っている。
3、感覚のプライバシー
 →ある人の感覚や思考は本人によってしか直接感じることはできない。他人のそれは、間接的にしか知ることができない。

 (批判)才能や環境は偶然によるもので、それによる所有権は道徳的に恣意的である
 (反論)そのような特徴は個人的な人格の一部である。恣意的かもしれないが不正とはいえない

☆広義の自己所有権

 →狭義の自己所有権とそこから導出される財産権

正当化根拠

☆価値の創造
 →無主物に働きかけて、価値を増進させたならばその対象物は当人のものである。財の価値を作り出すのは人間の労働である。

☆功績
 →労働は辛く苦しいものだから、その労苦に応じた報酬を受けるに値する。
  ⇒ロックにおいては副次的要素

☆人格の拡張
 →労働という自己の所有物を対象に混合することにより、行為者の精神的人格というべきものがその対象にも拡張される。かくして、そのものは身体が本人の所有に属すると同じように所有物となる。

☆生存と繁栄
 →自分の生命の保全のためには被造物に対する所有権が不可欠である。労働による私的所有権を認めることが、結局はほかの人々の暮らしを向上させることになる。

☆財産権は自然権である
 「財産権はこれを侵してはいけない」
 財産権は自然権であって、法律で内容をどのようにでも規定してよいものではない。

自然権〜森村進〜
1、 国家の庇護なしにも習慣法上存在しうるし、現に存在した。
2、 法はそれを尊重すべき道徳上の理由がある。(事故所有権テーゼ)
  →「自然の与えた権利」ではなく「自然に生じる自然な権利」


自己所有権テーゼへの批判

☆自己所有権の観念は意味を成さない
・ ロックによると人間は神の所有物であるとされるのに、各人が自分自身の所有者とされるのは矛盾ではないか
・ 自己所有権テーゼは精神あるいは自己意識が身体を所有するという精神優位の身体二元論の前提に立っているが、心が進退を所有するというのは誤りで、むしろ身体は自己の一部である。

☆自己所有権が財産権ではなく人格的権利である
・当人の人格と密接不可分に結びついている生命、自由身体は財産的取引の対象になりえない。
→自己所有権テーゼの批判者―自己の生命、身体、自由を本人が処分したり譲渡したりすることの禁止に寛大である。モラリスティックな理由、パターナリスティックな理由から自己の身体等の処分権を認めるべきではないという主張する。

→自己所有権テーゼをとる側―自己の身体、生命、自由を本人が処分したりすることを禁止するためには強力な理由が必要である。自己の身体への支配権は、原則としてリベラルな所有権に近い全面的なもの。身体の処分への制限が許されるのは例外的な場合のみ。
⇒加害原理から見る臓器移植

☆子供は親のものか?
・「創造者は自己の創造物への所有権を獲得する」という広義の自己所有権テーゼによると、どんな人も両親によりこの世に生み出されたという事実を考えると、親が子供を所有していることになってしまう。

☆生産の主体は社会である

生存権と公共財による制約
・自己所有権テーゼは他の規範的要請と衝突しないのか?
 〜万人に対する最低限度の生活の保障(生存権)〜
  →外物に対する市場的財産権に優越する要請
   ⇒自己所有権テーゼは各人にとって人身の自由が最も基本的な権利だと主張するが、最低限度の生存が保障されていなければ人身の自由を行使することもできない。また、人道的考慮によっても正当化される。

 〜公共財供給〜
  →国家による公共財の産出は万人にとって有益だから正当化できる。十分な補償がなされる限り広義の自己所有権を制約することも認められる。(土地の公用収用や自己所有権の一部である財産権を課税対象にすること等)だが、森村が正当化できると考えるのは現在の福祉国家をはるかに下回る小さな政府である。

リバタリアニズムからの議論

☆刑事制度☆
・刑罰廃止論
→犯罪を犯したものは、社会一般や国家に害を与えたのではなく、あくまでも被害者の権利を侵害したのである。それゆえ、その行為への対応として要求されるのは、被害者の権利の救済、具体的には損害賠償である。また、賭博や売春や薬物犯罪などの「被害者なき犯罪」は、そもそも誰の権利を侵害するわけでもないので、その処罰は不法である。

・問題点 1、 社会、国家に対する犯罪として分類されるいくつかの犯罪は結局諸個人が被害者となる。
Ex)贈収賄

2、 個人の権利を侵害する行為でも、単に直接被害者に損失を与えるだけでなく、社会を構成するほかの人々にも損害を与える場合がある。
Ex)連続殺人犯

3、 行為者が権利侵害を試み、その結果を実現できなかった未遂の処罰が問題となる。

4、 金銭の形でもそれ以外でも、損害賠償しがたい不法行為も多い。物損でさえ、それが代替困難なものであると金銭的評価は難しい。人身に関わることであればなおさらである。特に難しいのは、人を死なせた場合である。この場合、いかなる方法でも被害者本人に対して賠償はできないが、刑事制度があれば加害者はともかく刑事罰を受けることになる。しかし、刑事罰が廃止されると、加害者は被害者の家族への返金ですんでしまう。
5、 刑事罰における犯罪予防効果の無視

☆リバタリアニズムの観点から刑罰はどうあるべきか
・ 本当に罰する必要がある刑事罰に対してだけ刑罰が行わなければならない
・ 国家が処罰できる理由はあくまでも不法行為の防止であるので、その目的を超えた行動の制約は認められるべきではない
・ 社会一般の利益保護よりも、被害者の権利侵害を優先させるべきである

◎論点◎

刑事制度はどうあるべきか
  
☆環境問題☆
私的所有権による解決
 ・大気や水の汚染は、その空間や水面の利用者の人身と財産への侵害
  →最善の公害対策・・・私的所有権、特に不動産所有権の厳格な執行―侵害行為にたいする事前的な差し止めと事後的な損害賠償

・資源が使用されず無主物として扱われるとその資源は濫用されやすい
  →環境汚染をもたらすのは私的財産制度ではなくその不徹底である。

・自由市場経済は人々をいっそう豊かにすることによってよりよい環境を享受できるようにする
→経済的に余裕のない人は環境にかまっていられない。人々が豊かになるにつれて環境への配慮が共有されるようになる。

◎論点◎

私的所有財産権の理論によって環境問題は解決できるか

☆税制☆
〜税制の公正の内容〜
  ・国のサービスのおかげで受け取る権利

〜相続税〜
・ リバタニアニズムから一番正当化しやすい税金
・ 目的は税の再分配ではなく国の財源の調達
・ 死後まで遺産の処分権を持つべきだと考える理由がないから、生きている人に税を課すより存在しなくなった人の財産を取り上げるほうがマシ
→大幅に引き上げるべき、その代わり贈与税を廃止する

〜所得税〜
・累進課税は公正か?
支持派・・・金額には比例しないが効用はほぼ比例。限界効用減法則が貨幣についても当
てはまる。

森村・・・効用の比例性が金額の比例性より重要と考えることに疑問。特定の評価の仕方を、一般的だという理由で万人当てはめることは個人の選択の自由を否定。金額は客観的なものだから、各人の金銭使用方法を等しく尊重。
→比例課税にすべき

〜法人税〜
・目的や課税の基準を見出しにくい。
「担税力」論者・・・法人も社会的な実態である以上利益に応じた税金を納めるべき

 森村・・・法人の権利は構成員個々人の基本権の実現。法人税は所得税だけでは本当に回避されてしまう利益への課税として正当化される。所得税の抜け穴を補う程度の低い税率にすべき。

〜固定資産税〜
・ 不動産という蓄積されたストックへの課税
・ 所有者本人が利用している不動産へは生存権の一部
・ 地価税は<効用と効率の議論>と<再分配的考慮>のよって正当化されるかもしれない→保留

〜消費税〜
 根拠・・・高齢化社会では巨額な財政需要が必要になる。あらゆる世代から撤収できる点。
   ↑
 森村・・・高齢者の自助努力に委ねるべき

 根拠・・・中立性があり、簡潔で、把握されていなかった所得にも負担が及ぶ利点
   ↑
 森村・・・弱い

 根拠・・・誰もが市場のゲームに参加→手数料として消費税
   ↑
 森村・・・<利益に応じた負担>の原則を取れば支出段階ではなく所得段階で課税する所得税のほうが筋が通っている。
       ⇒認められる余地はある

☆結論☆
現在の税金は必要以上に高い。小さな国家を目指すべきである。

◎論点◎

1、 相続税はどうすべきか?
2、 所得税は累進課税と比例課税どちらがよいか?


参考文献

「財産権の理論」森村進  弘文堂  1993
「ロック所有論の再生」森村進  有斐閣  1997
「自由はどこまで可能か」森村進  講談社  2001
「市民政府論」ジョン・ロック  岩波書店  1968


Copyright (C) 2000-2005 大阪市立大学法哲学ゼミ
http://www42.tok2.com/home/takizemi/

2003年度スケジュールに戻る