立教大学

理学部化学科 和田研究室
Wada Laboratory, Department of Chemistry, College of Science, Rikkyo University

研究テーマ

エネルギー変換を指向した錯体触媒の開発

 深刻な環境・エネルギー問題に直面している現在、火力や原子力にかわる新たなエネルギー変換システムの構築が求められています。火力や原子力発電は石油やウランを使い捨てにして環境問題を引き起こし、石油資源の枯渇の一因にもなっています。化学物質を使い捨てにする事にない「循環型」の発電システムを構築しようとするとき、自然界で行われている「光合成」と「呼吸」は最高のお手本であると言えるでしょう。
 光合成では太陽光のエネルギーを用いて二酸化炭素と水からグルコースと酸素を作り出しています。我々人間を含めた好気性生物は、グルコースと酸素を摂取して生命維持に必要なエネルギーを取り出し、二酸化炭素と水を排出しています。これらを化学反応式で表すと式(1)のようになります。

 光合成と呼吸は順逆反応の関係にあります。これを見ると、呼吸で獲得しているエネルギーは、もとをただせば太陽光のエネルギーであることが分かると思います。すなわち光合成とは太陽光のエネルギーを化学物質(化学エネルギー)に変換する過程であり、呼吸は化学物質からエネルギーを取り出す過程です。化学物質は化学反応により形を変えながらも使い捨てにされる事はなく、あたかもエネルギーを運ぶ容器の様な役割をしています。
 この様な仕組みを人工的に構築する事が出来ればエネルギー環境問題の根本的な解決に繋がると考えられます。現在、植物の光合成のように人工的に太陽光エネルギーを利用して水を電子源とし、光エネルギー物質を合成することは人工光合成と呼ばれ、大変に注文暮れています。例えば、光エネルギー物質を太陽光エネルギーで二酸化炭素と水からメタノールと酸素を作り出し、メタノールと酸素を燃料として燃料電池で発電すれば、循環型のエネルギーシステムが構築されます(図)。そのためには「二酸化炭素からメタノール合成」「水からの酸素発生」「メタノールの酸化」「酸素還元」を促進する触媒が必要です。
 我々はこのような”エネルギー変換反応”について研究することは、環境問題の解決につながるばかりでなく、生物が生命を維持できる仕組みの一端を解き明かし、「化学エネルギーとは何なのか?」という本質的な問題に踏み込むことが出来ると考えています。
 本研究室では、「エネルギー変換反応」を平衡電極電位に近い電位で触媒する新規な錯体を合成し、その反応機構を解明する事を目標とします。

錯体化学で挑むエネルギー変換反応

 広い意味で、遷移金属に金属以外の元素(分子)が結合した化合物を遷移金属錯体と呼びます。その性質は、中心金属と配位子の相互作用により大きく変化します。これを利用することにより遷移金属錯体は様々な機能を発現することが可能であり、この多様性こそが錯体化学の魅力です。事実、遷移金属錯体を用いた研究は、触媒化学、磁性化学、光化学、超分子化学、生物無機化学など多岐にわたります。有機合成と無機合成を駆使することにより遷移金属錯体は精密に設計することが出来ます。我々の研究では、エネルギー変換反応を触媒する錯体を合成することが目的ですので、それぞれの反応に適した構造と電子状態を有する錯体を合成します。ある程度の予測のもとに錯体を合成しますが、ほとんどが世界中の誰も合成したことの無い物質ですから、合成してみないことにははっきりとした性質は分かりません。時には目標とする反応に触媒活性を示さないこともあります。しかし、逆に思いもよらない性質が明らかになり、別の反応が効率よく触媒されることもあります。研究では、予想通りに進まないことにがっかりするより、その錯体の性質をよく見極め、錯体に適した反応を見つけることが大切です。そのチャンスを逃さないためにいつも準備を怠らないことです。準備とは常に可能性を考え続けることです。準備をしている人にしかチャンスは訪れません。