高エネルギー天文学/宇宙物理学 内山研究室
研究内容の紹介

銀河系の星間空間は「宇宙線」と呼ばれる高エネルギーの粒子(相対論的な粒子)に満たされている。そのエネルギー密度は恒星からの光の密度に匹敵し、銀河系の重要な構成要素と言える。また、ブラックホールのようなコンパクト天体の近傍や、銀河団のような宇宙最大の天体においても、高エネルギー粒子が重要な役割を果たしている。しかし、その生成機構はほとんどの場合よくわかっていない。
本研究室では、主にX線とガンマ線による天体観測を通して、宇宙における様々な高エネルギー現象(特に宇宙線の加速)の解明を行っている。X線ガンマ線は大気で吸収されるため、人工衛星を用いた観測を行う。例えばガンマ線観測には日米欧の国際協力で2008年に打ち上げられたフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡 (右図)を用いている。(注:超高エネルギーガンマ線の観測では、天体からのフラックスが非常に小さいため、大気での吸収に伴う空気シャワーを地上に置いた望遠鏡で観測する手法がとられる。)

超新星残骸

右図は超新星残骸カシオペアAの疑似カラーX線画像である。星の最期を飾る大爆発、超新星、の持つ莫大な運動エネルギーによって、星間空間に高速で膨張する衝撃波が形成され、X線源として輝いている。このような超新星残骸は銀河系に200個以上、確認されている。カシオペアAは、西暦1667年頃に発生した超新星の残骸であり、その直径はおよそ10光年、地球からの距離は約1万光年である。
超新星残骸の衝撃波は、最も有力な銀河宇宙線の起源として注目されている。衝撃波統計加速(フェルミ一次加速)というメカニズムによって、ベキ関数型のエネルギースペクトルを持つ高エネルギー粒子が加速されると考えられている。フェルミ加速は宇宙で普遍的な重要性をもち、その機序を理解する上で、超新星残骸は最も良い実験場である。
最近のわれわれの主要な成果を簡潔にまとめると以下の通りである。

時間変動するシンクロトロンX線放射の発見
チャンドラ衛星による超新星残骸のX線観測により、シンクロトロンX線の年スケールでの時間変動という、それまでの常識を覆す新現象を発見した(Uchiyama et al. 2007; Uchiyama & Aharonian 2008)。 この現象は衝撃波統計加速に伴う乱流磁場の増幅で説明が可能であり、関連する理論研究の発展を促すことになった。
  1. "Extremely Fast Acceleration of Cosmic Rays in a Supernova Remnant"
    Uchiyama, Y., Aharonian, F. A., Tanaka, T., Takahashi, T., Maeda, Y.
    Nature, 449, 576-578, 2007

  2. "Fast Variability of Nonthermal X-ray Emission in Cassiopeia A: Proving Electron Acceleration in Reverse-shocked Ejecta"
    Uchiyama, Y., & Aharonian, F. A.
    The Astrophysical Journal, 677, L105-L108, 2008
超新星残骸からのGeVガンマ線の発見
フェルミガンマ線宇宙望遠鏡による観測で、超新星残骸からのGeVガンマ線を初めて明確に検出し、様々なタイプの超新星残骸からのガンマ線検出を報告した (Fermi-LAT Collaboration 2009,2010,2011)。内山は国際フェルミチームの「超新星残骸グループ」のリーダーを務めている。「分子雲と相互作用する超新星残骸」が高いガンマ線光度をもち、ガンマ線スペクトルは数GeVのエネルギー付近から「柔らかく」なること(=エネルギーが高くなると放射強度がより急激に弱くなること)がわかった。また、カシオペアAのような若い超新星残骸において、超新星爆発の運動エネルギーの数パーセントが、宇宙線のエネルギーに移行していることを示した。
  1. "Observations of the Young Supernova Remnant RX J1713.7-3946 with the Fermi Large Area Telescope"
    The Fermi-LAT Collaboration (including Uchiyama, Y. as a corresponding author)
    The Astrophysical Journal, 734, 28, 2011

  2. "Fermi-LAT Discovery of GeV Gamma-ray Emission from the Young Supernova Remnant Cassiopeia A"
    The Fermi-LAT Collaboration (including Uchiyama, Y. as a corresponding author)
    The Astrophysical Journal, 710, L92-L97, Feb 2010

  3. "Fermi-LAT Discovery of Extended Gamma-ray Emission in the Direction of Supernova Remnant W51C"
    The Fermi-LAT Collaboration (including Uchiyama, Y., as a corresponding author)
    The Astrophysical Journal, 706, L1-L6, 2009
超新星残骸からのパイ中間子崩壊ガンマ線放射の同定
宇宙線の主成分である陽子に起因するガンマ線放射(中性パイ中間子崩壊ガンマ線)は、パイ中間子の質量を反映した特徴的なスペクトルを持つ。われわれは、最もガンマ線光度が高い「分子雲と相互作用している超新星残骸」のスペクトルが そのような特徴的なスペクトルを持つことを示した (Fermi-LAT Collaboration 2013)。これは宇宙線の起源が超新星残骸であることの重要な証拠の一つとなった。
  1. "Detection of the Characteristic Pion-Decay Signature in Supernova Remnants"
    The Fermi-LAT Collaboration (including Uchiyama, Y. as a corresponding author)
    Science, 339, 807, 2013
超新星残骸からのガンマ線放射モデル(Crushed Cloud model)の提唱
R. Blandford とL. Cowie が1980年代に提唱したモデルを発展させ、分子雲と相互作用する超新星残骸からの予想外に強いGeVガンマ線放射を説明する理論モデルを提唱した (Uchiyama, Blandford et al. 2010)。これは、分子雲中に伝播する衝撃波において、放射冷却の効果により宇宙線が磁場とともに強く圧縮されることで、ガンマ線光度が高くなるというモデルであり、「Crushed Cloud model」と呼ばれるようになっている。
  1. "Gamma-ray Emission from Crushed Clouds in Supernova Remnants"
    Uchiyama, Y., Blandford, R., Funk, S., Tajima, H., Tanaka, T.
    The Astrophysical Journal, 723, L122-L126, 2010
超新星残骸の周囲の宇宙線ハローを発見
フェルミ衛星による超新星残骸W44の観測から、衝撃波から脱出した宇宙線が作る「宇宙線ハロー」を、超新星残骸の周囲にはじめて明確に捉えることに成功した (Uchiyama et al. 2012)。衝撃波加速の機構において本質的な役割を果たす、宇宙線の脱出過程の研究が可能になり、加速された宇宙線の総量や星間空間の拡散係数を推定できることを示した。
  1. "Fermi-LAT Discovery of GeV Gamma-ray Emission from the Vicinity of SNR W44"
    Uchiyama, Y., Funk, S., Katagiri, H., Katsuta, J., Lemoine-Gourmard, M., Tajima, H., Tanaka, T., Torres, D.
    The Astrophysical Journal, 749, L35, 2012
活動銀河核の相対論的ジェット

銀河宇宙線起源の標準パラダイムとして超新星残骸におけるフェルミ加速が確立されつつある一方、 銀河系外から来る宇宙線の起源についてはまだほとんどわかっていない。ガンマ線バーストや銀河団衝撃波と並び、 銀河の中心に鎮座する超重ブラックホールが射出する相対論的ジェットは、銀河系外の宇宙線源の重要な候補である。特に母銀河を超えるスケールの大規模ジェットは、超高エネルギーに粒子を加速できる可能性がある。われわれはハッブル宇宙望遠鏡(可視光), チャンドラ衛星(X線), スピッツァー宇宙望遠鏡(赤外線) を駆使して、活動銀河核の大規模ジェットの多波長撮像観測を行った(Uchiyama et al. 2005,2006,2007)。下図にクェーサー3C273のジェットの観測結果を示す。
この一連の研究では、クェーサージェットを赤外線で撮像することにはじめて成功した。また多波長スペクトルが2成分を持ち、その2成分ともシンクロトロン放射であるとする考えを提示した。
  1. "An Infrared Study of the Large-scale Jet in Quasar PKS 1136-135"
    Uchiyama, Y., Urry, C. M., Coppi, P., Van Duyne, J., Cheung, C. C., Sambruna, R. M., Takahashi, T., Tavecchio, F., Maraschi, L.
    The Astrophysical Journal, 661, 719-727, 2007

  2. "Shedding New Light on the 3C 273 Jet with the Spitzer Space Telescope"
    Uchiyama, Y., Urry, C. M., Cheung, C. C., Jester, S., Van Duyne, J., Coppi, P., Sambruna, R. M., Takahashi, T., Tavecchio, F., Maraschi, L.
    The Astrophysical Journal, 648, 910-921, 2006

  3. "Spitzer IRAC Imaging of the Relativistic Jet from Superluminal Quasar PKS 0637-752"
    Uchiyama, Y., Urry, C. M., Van Duyne, J., Cheung, C. C., Sambruna, R. M., Takahashi, T., Tavecchio, F., Maraschi, L.
    The Astrophysical Journal, 631, L113-L116, 2005
ガンマ線連星

To be described.