理学部化学科 研究室紹介冊子2021
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9いた図)。本技術によって、固体基板への配向処理は一切必要とせず、塗るだけで液晶光配向が可能となります。湾曲した部分や様々な基板に塗るだけで液晶配向が可能であり、「液晶配向インク」と呼べるプロセスを提案しました。[Nat. Commun., 5, 5124(1-8) (2014)]■空気界面からの液晶高分子の光配向制御液晶表示素子には、液晶物質を配向するプロセスが不可欠です。通常、固体基板に機械的なラビングや光反応を用いて配向情報を書き込んだ配向膜と呼ばれる高分子膜を設け、液晶物質を挟み込む手法がとられています。本研究グループでは、高分子薄膜中にて表面張力の低い高分子が自発的に空気界面(表面)に偏析する性質(表面偏析)を用い、光液晶配向性を持つ高分子化合物を液晶性高分子に添加、加熱するだけで、液晶光配向が可能となるプロセスを開発しました。空気界面に形成される光配向性高分子層への偏光照射により、液晶分子を自由な方向に光配向、書き換えが可能であり、塗るだけで液晶光配向デバイスとなります。運動性が高く、低表面張力のポリ(ブチルメタクリレート)と光応答性分子であるアゾベンゼン基を持つ高分子からなるブロック共重合体(PBMA-b-PAz)を合成し、これを光応答性のない液晶性高分子に数パーセント添加した膜を用意しました。この添加膜を液晶性高分子の等方点温度の約120℃に加熱処理を行うと、PBMA-b-PAzのPBMA層が選択的に表面に偏析し、空気界面を覆います(スキン層)。液晶性高分子の単独膜では、液晶基は基板に対して垂直に配向(ホメオトロピック配向)しますが、興味深いことに、添加膜では水平配向(ランダムプレーナー配向)することが明らかとなりました。この添加膜に直線偏光を照射すると、アゾベンゼンの偏光応答性により液晶高分子の面内一軸配向を任意に制御でき、様々な描画が可能となります。また、このスキン層の形成は、インクジェット印刷を用いても行うことができます。高分子液晶膜にPBMA-b-PAzをインクジェット技術によりオーバーコートし、高分子液晶の液晶温度にて偏光を照射すると、塗布部のみ液晶の面内一軸配向を誘起でき、様々な描画が可能です(富士山を描2020年度にスタートした新しい研究室です。現在11名の学生と研究を着実に進めています。筋肉に代表されるように、分子の一つ一つは非力であっても、正しく集まって集合状態となると大きな力を発揮します。分子の集合状態を取り扱うソフトマテリアル分野は新しい学問分野であり、合成、集合構造構築、構造解析、機能評価のすべてを総合的に駆使し、学びながら新しい分子機能の発現を目指します。研究も、チームで一緒に取り組むことで大きな仕事ができます。ぜひ一緒に研究しましょう。構成メンバー博士前期課程1年:5名 学部4年生:6名卒業生の進路 民間企業(化学、IT)、大学院進学(立教大、東工大)from labo.■まとめ紹介した光配向システムを利用し、現在は、次世代誘導自己集合材料やプロトン伝導、熱伝導を制御する分子システムに展開しています。ソフトマテリアルの協同的なふるまいを設計、機能化することにより、生体系にて行われている優れた分子機能を人工的なアプローチにより実現することを目指します。

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