理学部化学科 研究室紹介冊子2021
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14スーパーコンピュータ(神戸にある「富岳」が代表的)までを問題規模や近似方法に応じて利用しています。最近では、FMO計算はナノスケール(10のマイナス9乗メートル程度)の原子/分子単位を対象としますが、メゾスケール(10のマイナス6乗メートル程度)に粗視化されたシミュレーションとの連携も図っています(マルチスケールシミュレーション)。また、演算加速器(XeonPhi)でのベンチマークテストや機械学習・深層学習による計算結果の自動解析などの情報科学的な内容も扱っています。■フラグメント分子軌道法計算化学の中で、タンパク質のような巨大分子系に適用出来る手法として近年注目を集めているのがFMO法(フラグメント分子軌道法)です。FMO計算では、タンパク質をアミノ酸単位などのフラグメントに分割し、ある種のポテンシャル条件を課すことで並列処理を駆使して精度を保持しつつ高速に全系を扱うことが出来ます。私たちの研究室では、FMO法に基づいた理論体系の構築と共に独自のプログラムシステム(ABINIT-MP)の開発を行っています。[S.Tanaka,Y.Mochizuki,Y.Komeiji,Y.Okiyama,K.Fukuzawa,Phys.Chem.Chem.Phys.16(2014)10310.]■研究背景大学に入るとすぐに、化学を系統的に理解していくには電子に関する知見が不可欠であることを学びます。分子は、原子核と電子の集合体ですが、こうした微視的な世界は量子力学によって支配されており、高校の物理で習う古典力学での記述は有効ではありません。質量の軽い電子は質点的な“粒子”ではなく広がりを持った“波”として捉えないといけない、ということです。量子力学は、“波”の数学的な表現である波動関数とエネルギーの関係を規定するシュレディンガー方程式を基礎とします。シュレディンガー方程式の解をいかに数値的に精度良く、またコスト的にリーズナブルに解くかが分子を理論的に扱う計算化学の中心的な課題となっています。波動関数は、原子核の間に分布する軌道(分子軌道と呼びます)を構成要素として得られますので、個々の分子軌道に関する知見は分子全体を理解するのに本質的な情報となります。現在では、多数の計算手法が開発され、コンピュータの性能も飛躍的に向上していますので、分子の性質や反応性を理論的に調べることが十分に可能です。■計算化学の専門研究室本研究室では、理論化学における電子状態計算の中心的な役割を果たしている非経験的分子軌道法の研究開発と応用計算を、学内に留まらず外部の研究グループとの交流を図りながら展開しており、特に下述するFMO法に関しては世界の最先端を走っている研究室の一つです。活動の中では、①応用計算、②分子軌道理論の定式化・理論構築、③プログラム開発、の三位一体を意識しています。コンピュータとしては、パソコンから小規模の計算サーバ、そして科学技術用の専用計算機である望月研究室Mochizuki Laboratory

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