Miyabe Laboratory界面や表面は化学機能発現の作用場であり、HPLC系では固定相表面での化学反応(分子間相互作用)やカラム内における物質移動現象の無数の繰り返しにより分離が達成されます。また、CE系内に分離媒体(シクロデキストリン、ミセルやリポソーム等)を共存させる導電クロマトグラフィー(EKC)系でも、化学反応(包接反応や可溶化等)や物質移動現象(溶質の界面透過等)が自動的に繰り返されます。そのため、HPLCやCE(EKC)実験で観測される溶出ピークは分離系内における化学反応や物質移動現象の固有の化学情報を表わしています。当研究室では、「モーメント理論」を利用して溶出ピークの形状的特徴からこれらの化学情報を定量的に求め、主に速度論的観点からその化学特性を解析しています。HPLCやCE(EKC)のように分離系内において「摂動」と「緩和」が自動的かつ無数に繰り返される流通式分離系は化学情報の積分型増幅検出系であり、特に化学反応や物質移動現象の速度論的解析に適しています。また、主に分光法に基づく既往の解析法とは化学情報解析の基本原理が異なるため、化学反応や物質移動現象の多角的な解析が可能になります。なお、既往の解析法では、実験の際に分子の固定化や化学修飾(蛍光標識化)が必要であるため、解析結果に対するそれらの影響が懸念されます。これに対してCE(EKC)系では、分子の固定化や化学修飾が不要であるため、遊離状態の非化学修飾分子間における本来の分子間相互作用に関する情報を正確に得ることが出来ます。化学反応や物質移動現象に関する化学情報を既往の方法よりも正確に解析することが出来ます。しかし、多くの重要な化学情報が溶出ピーク上に表われているにも拘らず、従来の古典的な解析理論(段理論と速度論)を利用する限り、これまで我々はそれを十分読み取ることができませんでした。HPLCやCE(EKC)系の分離挙動を解析する基礎理論もまた現在、従来の古典的な枠組みから脱却して新たな段階へと展開すべき時期にあります。分離系における分子間相互作用や物質移動現象の詳細な解析を行うことなくその分離機構を議論する時代はもはや過ぎ去っています。そこで当研究室では、解析情報の種類や定量性の点で既往の段理論や速度論よりも優れている「モーメント理論」に基づき、流通式分離系の基本原理の解明とその本質的理解に資する解析基盤(解析理論と実験操作法)の構築に関する研究を行っています。モーメント理論では溶出ピークの一次絶対モーメント(μ1)と二次中央モーメント(μ2ʼ)を解析します。ガウス分布曲線に対応させれば、溶出ピークの位置および分散が各々μ1とμ2ʼに対応します。当研究室では、図1に示す定義に基づき溶出ピークからμ1とμ2ʼの値を求め、それらの値を解析して化学反応や物質移動現象の平衡論的、速度論的および熱力学的な化学情報を定量的に求めています。おそらく我が国の分析化学関連分野では、当研究室だけがモーメント理論を適用して流通式分離系内における化学反応や物質移動現象の詳細な解析化学的研究を行っています。図1 溶出ピークのモーメントの概説10■ 研究背景当研究室では、高性能分離分析法として様々な分野で幅広く利用されている高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やキャピラリー電気泳動法(CE)を利用し、化学反応や物質移動現象に関する化学情報の(特に速度論的)解析を行っています。■モーメント理論に基づく流通式 分離系の分離挙動解析基盤の構築上記のように、流通式分離系で観測される溶出ピークの形状的特徴を解析することにより、分離系内における宮部研究室
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