Wada Laboratory自然界では植物が太陽光を吸収して二酸化炭素と水から酸素と糖を作り出し、好気性生物は糖と酸素を摂取して二酸化炭素と水を排出しながら、生命維持に必要なエネルギーを獲得しています。排出された二酸化炭素と水は再び光合成に用いられ、これらの化学物質はまるで“エネルギーを運ぶ容器”の様な働きをしています。ところが、人工的に行われている火力発電や原子力発電は化学物質を使い捨てにし、環境問題を生み出しています。我々は、自然界のような循環型のエネルギーシステムの構築を目指して、エネルギー変換に関わる化学反応を効果的に触媒する遷移金属錯体の合成を行っています。能を発現させることが可能ですから、白金以外の金属を用いて効果的な触媒を作り出すことが出来ます。私たちは遷移金属錯体の中でも特に1分子内に二つの金属を持つ複核錯体を用いて、単核錯体にはない機能を発現することを目指しています。現在、太陽光を使って水を分解し、水素と酸素を発生する「水の完全分解反応」が大変な注目を集めています。無尽蔵にある太陽光と水から燃料電池の燃料である水素を製造できるのですから、この「水の完全分解反応」が高い効率で実現されれば人類はエネルギー問題から解放されると考えられています。しかし、まだ「水の完全分解反応」を実用可能な効率で達成した研究はありません。その原因は実は水素を発生することよりも、酸素発生反応(式1)に問題があります。従って、式1の反応を効率よく触媒する物質の開発は非常に重要な研究です。私たちは電気化学的な水の酸化反応を効率的に触媒する複核ルテニウム錯体を開発しました。さらに、反応中間体としてRu-O-O-Ru結合をもつ錯体を共鳴ラマンスペクトル法で検出することに成功しました。これまでに水の水の4電子酸化反応を触媒する複核ルテニウム錯体24■電気化学反応を触媒する 遷移金属錯体燃料電池などで注目されている電気化学的な酸化還元反応を出来るだけ余分なエネルギーを使わずに進行させるには触媒が必要です。現状では実用化されている触媒のほぼ全てに高価な白金が用いられています。一方、遷移金属錯体は金属と配位子の組み合わせにより様々な機■水の酸化を触媒するルテニウム錯体■研究背景和田研究室
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