Fujiwara Laboratory薄膜試料の作製に用いるスパッタリング装置。プラズマで気化した原料を基板表面に供給して薄膜を成長させる。nm単位で厚みを制御した積層構造を作製することもできる。クロムとルテニウムから成る新規酸化物混晶物質。真空成膜プロセスを用いることで、酸化物であまり報告されていないRu3+を安定化することに成功(Chemistry of Materials (2020))。4■研究背景現代社会は、鉄鋼、半導体、磁石、セラミックスなど、無機物質から成る多彩な固体の材料によって支えられています。固体には様々な試料形態(例:単結晶、粉末、多孔質体)がありますが、スマートフォンなどの先端デバイスや機能材料の高性能化・多機能化の発展に大きく寄与しているのが、厚さ100 nm(ナノメートル)にも満たない「薄膜(はくまく)」です。nmスケールの薄膜では、二次元性や薄膜を積み重ねたときに生じる界面の効果により、薄膜ならではの相(新物質)や性質(新物性)が生じることがあります。さらに、省エネ化・軽量化・省資源化(SDGs への貢献)などの応用上のメリットも豊富に存在します。このような視点の下、私たちは、理学から次世代エレクトロニクス・マテリアル産業へのブレークスルーを生み出すことを目標に、薄膜の基礎研究に取り組んでいます。 当研究室では、真空中で原料を供給して試料の組成や厚みを精密に制御する真空成膜手法を駆使して、電気・磁気・光学・電気化学的特性を含む機能物性の発現が期待される無機固体物質—合金、金属酸化物・化合物—の薄膜化を進めています。このような合成手法では、非平衡プロセスが関与するため、熱力学的平衡条件が支配的なバルク試料(ミクロン以上のサイズの粉末や焼結体)の合成とは異なる、薄膜ならではのケミストリーの探求が可能になります。バルク不安定な相の安定化による新物質創製や積層構造における界面物性制御を通して、無機固体の物性を人工的に拡張・増強するための学理を構築するとともに、見出した物質や機能を各種材料やデバイスへと応用することにも力を入れています。■薄膜新物質の物理化学真空成膜では、蒸着粒子のもつ高いエネルギー、結晶成長における動力学的プロセス、基板からの界面応力などが協奏的に働くことで、バルクでは不安定な相を安定化できることがあります。このようにして安定化した薄膜試料を用いて、これまで評価の進んでいなかった物質の結晶構造や電子状態、それらに特徴的な物性を解明することを目指しています。藤原研究室
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