理学部化学科 研究室紹介冊子2024
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 「ブドウの房」を語源とする「クラスター」と呼ばれるナノ物質は、構成原子数が2〜100個程度の超微粒子です。とりわけ、有機配位子で保護された金属クラスター(=配位子保護金属クラスター)は、溶液中で精密合成が可能な安定かつ低毒性な有機-無機複合ナノ物質であり、構成原子数の違い・金属コアの合金化・配位子交換などによって、物性のチューニングや表面の機能化が可能といった拡張性に優れた特徴をもっています。例えば、チオラート(SR)で保護された金属クラスターは、金属原子のみから成る金属コア(Mn)とそれを取り囲むように結合した金属-チオラートオリゴマー(MmSRl)から構成されており、通常の分子のように明確な幾何構造と組成を持っています。構成金属原子数が極めて少ないため、その数や種類が1個違うだけでも性質が劇的に変化します。 当研究室では、白金1原子をドープしたチオラート保護銀クラスター[PtAg24(DMBT)18]2-(DMBT= 2,4-dimethylbenzenethiolate)を近赤外光(785nm)で励起すると、ペリレンなどの蛍光性分子のT1状態を効率よく増感できることを見出し、液体および固体状態でエネルギーシフトが+1eVを超える近赤外光-青色光アップコンバージョンを実現しました(Angew. Chem., Int.Ed. 2021)。構成メンバー 博士後期課程1年生:1名 前期課程2年生:2名 前期課程1年生:1名 学部4年生:3名 研究実験生:3 名卒業生の進路立教大学大学院、SanDisk、SONY、日立製作所、日産自動車、三菱自動車工業、スタンレー電気、ソーラーフロンティア、J-POWER、日立システムズ、東陽テクニカ、東京大学大学院など このように当研究室では、無数の種類が存在する配位子保護金属クラスターが、TTA-UCの三重項増感剤として機能することを世界で初めて見出しました。配位子保護金属クラスターを用いたTTA-UCに関する我々の最近の研究成果は、高いインパクトファクターを誇る国際論文誌に次々と掲載されており、様々な学会で学生が発表賞を受賞しています。例えば、【最近の学生の受賞】・2023年 第17回分子科学討論会 分子科学会優秀講演賞・2023年 光化学討論会 優秀学生発表賞(ポスター)・2023年 ナノ学会第21回大会 若手優秀ポスター発表賞(2件)・2022年 光化学討論会 優秀学生発表賞・2022年 ナノ学会第20回大会 若手優秀ポスター発表賞【最近の論文・解説】・J. Am. Chem. Soc. 2024 表紙に選出・J. Phys. Chem. Lett. 2023 表紙に選出・Nanoscale 2022 “2022 Nanoscale HotArticle Collection”、 表紙、Editorʼs Choiceに選出・J. Mater. Chem. C 2022「熱活性化遅延蛍光および三 重項融合アップコンバージョン」特集号の招待論文、表 紙に選出・Angew. Chem., Int. Ed. 2021, 60, 2822. “Hot paper”と“Frontispiece”に選出・PtAg24クラスターによる近赤外―青色光変換の成果  に関するプレスリリース(2021/2/18)などの成果があります。詳しくは三井研究室のホームページのQRコードを読み込んでご覧ください。77■ 配位子保護金属クラスターfrom labo. 当研究室では、ナノ物質の合成(make)・計測(measure)・理論計算╱シミュレーション(model)の全てを行っています。化学というと“物質を作る(合成)”ことが真っ先に頭に浮かぶと思いますが、当研究室では“物質を調べる”ための計測装置の開発も行っています。このような研究活動を通じて多彩なスキルや高度な思考力を身に着け、社会で活躍しているOB・OGが沢山います。人類の未来へとつながる(かもしれない)基礎研究にぜひ我々と共に挑戦しましょう。

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