■天然物を基盤とした創薬研究■新規反応開発研究2025年4月設立の新しい研究室です。有機(合成)化学は、一見すると歴史ある分野ですが、今もなお驚くような発見が続く「古くて新しい」魅力に満ちた学問です。私たちは、ここに天然物という「奇跡の分子」を掛け合わせることで、学術の最前線を切り拓き、さらには創薬などの形で社会に貢献することを目指しています。泥臭い努力も必要ですが、自らの手で分子を操り、天然物などの標的分子の合成を達成した瞬間の達成感は、きっと皆さんの想像を超えるはずです。この感動を共に味わいたい皆さん、ぜひ一緒に研究しましょう。 構成メンバー 学部4年生:3名 全合成を達成してもそこで終わりではなく、むしろスタートと言えます。すなわち、全合成研究で培われた高度な合成技術は、天然物そのものだけでなく、その構造の一部を変換した「誘導体」を創出する基盤となります。例えば、天然物の活性部位を特定し、その部分だけを効率良く合成したり、副作用を軽減しつつ薬効を高めるために、特定の官能基を変換したりします。これは、天然物の「良いところ」を最大限に活かしつつ、「改善すべき点」を克服する、まさに新薬創出の第一歩となる極めて重要なプロセスです。 天然物 pyripyropene A の構造簡略型誘導体の創製。Pyripyropene A の全合成経路を応用して、合成低分子化合物として世界初のSOAT2選択的阻害剤となる、A環簡略型誘導体群の合成に成功しました。これらは新規脂質異常症予防治療薬のリード化合物として期待されています。(CHEMMEDCHEM 2018,13, 411.) 全合成研究を進めていくと、予期せぬ新たな反応を見出すことがあります。私たちはこれらの「偶然の発見」を、単なる副産物として終わらせることなく、反応機構の解明から幅広い基質への適用へと展開させます。このように新たな分子変換の手法を開発できると、多様な化合物の効率的な合成が可能となるだけでなく、有機合成化学の発展にも寄与できます。一方、場合によっては標的分子を効率的に合成するための新規反応を設計・開発し、その反応を全合成に応用します。このような全合成と反応開発研究の双方向の相乗効果は当研究室の強みであり、ユニークな研究アプローチです。Bilobalide の全合成で見出した新規反応。ホモプロパルギルアルコールから僅か1工程でγ-ラクトンへと導くことができる効率的な反応です。(Org. Lett. 2021, 23, 2831.)29from labo.
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