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宗教系高等学校の入学者と卒業者の傾向についての一考察



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             I.はじめに

             II.入学者の傾向

             III.卒業者の傾向

             IV.おわりに



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I はじめに

 大学生を対象に毎年実施されてきた「宗教意識調査アンケート」では,96年度からは卒業した高校名と公立・私立の別,所在する都道府県を聞いており,回答者が宗教系高校出身かどうかや,それがどの宗教系であるかが判別できる。本稿では,宗教系高校を「神道」「仏教」「カトリック」「プロテスタント」「新宗教」の5つに分類し,1)これを他の質問項目のいくつかとクロスさせることで,各宗教系高校出身者の回答傾向や,どのような回答傾向の人たちのなかに宗教系高校出身者が多い(少ない)のかを調べてみた。前者の分析の関心は,宗教系高校の出身者はどのような人たちか(卒業者の傾向)ということにあり,後者の分析の関心は,どのような人たちが宗教系高校を選ぶのか(入学者の傾向)ということにある。
 卒業者の傾向には,高校での宗教教育の結果が反映されていると考えられる。ここでいう宗教教育は,授業や学校行事などフォーマルな教育から,信仰をもつ教員による指導や友人との日常的な接触といったインフォーマルな教育まで含むものである。ただし大学生を調査対象としているため,高校卒業から長くても4〜5年程度しか経過しておらず,ここでみられた傾向が,さらに年数を経ても残るかどうかは分からない。しかし逆に言えば,高校教育の結果を捉えるには適した条件で調査を行っていると言うことができる。
 また入学者の傾向は,生徒本人や父母などが宗教系高校にどのような期待を抱いているかをさぐる手がかりとなり得る。言うまでもなく,入学先の高校選択で考慮される要因は宗教だけでない。信者のなかでも,大学進学実績をはじめ宗教以外の学校の特色をより考慮する者は少なくないであろう。逆に宗教系でもいわゆる「受験校」の場合には,信者が入学を望んでも,入学試験で不合格となることもある。高校選択をめぐる今日のこうした状況のなかで,宗教という要因のもつ影響度を検証したい。
 本稿では特に,本人の宗教への関心や信仰する宗教,父母の宗教などに焦点をあて,これらの回答と出身高校の宗教別とをクロスさせた。以下 II と III で,入学者の傾向と卒業者の傾向について順にみていきたい。


II 入学者の傾向

 本人が信仰をもつ場合,入学する高校の選択にどのような傾向があるかをみてみたい。
 96年度〜99年度の4回の調査とも「あなたは宗教にどの程度関心がありますか」という質問があり,これに「現在,信仰をもっている」と答えた場合,サブクエスチョンとして,信仰する宗教名を聞くほか,「その宗教にいつごろ入信しましたか」とたずね,「生まれたときから」「小学校卒業までの時期」「中学のとき」「高校のとき」「それ以降」という選択肢がある。最初の3つまでを選択した者を,高校入学の時点で信仰をもっていた者とみることとし,これらの回答者を高校と同様の5つの宗教別に分類した。2)そのそれぞれについて,各宗教系と非宗教系(公立学校と宗教系でない私立学校)の高校出身の割合を調べてみた。99年度の結果が図1である。なお回答者の高校入学年度は同じでないが,ばらつきの幅は4年程度と考えられるので,その間に大きな変動がなかったと仮定するなら,図1は近年の入学者の傾向を反映していると考えられる。
 いずれの宗教を信仰する場合も,非宗教系高校に入学した割合が最も高い。これは回答者全体の傾向と同じであり,宗教系高校の絶対数の少なさによると思われる。
 ただし信仰する宗教によって,この割合に差があった。カトリックを信仰する場合が最小で,信者全体の半数をこえる程度である。これは以下でみるように,カトリック信者がカトリック系をはじめいくつかの宗教系高校に入学する割合が高いことと表裏をなす。3)逆に非宗教系高校に通う割合が最も高いのが神道である。これも後述するように,神道の生徒が神道系高校に通う割合が高くないことなどと表裏の関係にある。ただし神道やカトリック信者の回答者は絶対数が少ないため,さらに調査を重ねて確認する必要がある。
 次に宗教系高校への入学をみてみよう。本人の宗教と同じ宗教系高校へ入学する割合が最も高い。自分の信仰する宗教の学校への入学を望むことは理解でき,容易に受け入れられる結果といえよう。なお宗教系高校には同じ宗教系の小学校や中学校から進学する者が少なくなく,そのなかには小学校や中学校で宗教教育を受けて高校入学以前に入信する者もいる。この割合にはそうしたケースが含まれている可能性がある。
 なかでもカトリックの一致する割合(カトリックの信者のなかでのカトリック系高校出身の割合)がもっとも高かった。回答者全体のなかでカトリック系高校出身者が比較的多いことも影響していると考えられるが,仏教系高校出身者の方が多かった97年度と98年度も,一致する割合はカトリックの方が高かった。ただし先述のようにカトリック信者の絶対数がどの年度も20〜50人程度と少ないので,さらに調査を重ねて確認する必要がある。
 逆に図1で一致する割合が最も低いのは神道である。97年度と98年度の調査でも,神道の信者のなかに神道系高校出身者がいなかった。ただし神道の信者数は97年度には25人,98年度には13人と少ないため,さらに調査を重ねる必要がある。
 仮に神道の一致する割合が他の宗教に比べて低い傾向があるとしたならば,その理由として,神道系高校が少ないことによる入学機会の面での地域的制約も考慮に入れる必要がある。通学可能圏に神道系高校がないことが多いため,他の宗教の場合に比べ,信者の入学希望が実際の入学実績に反映されていないのではないかということである。4)逆にカトリック系高校は比較的広く全国に存在しており,信者の入学希望により応えていると考えられる。
 次に,生徒の信仰する宗教と異なる宗教系高校への入学をみてみよう。こちらは回答者全体での割合より低いことが多い。自分と異なる宗教の学校を避けているわけで,これも受け入れやすい結果といえよう。
 ただしこれには例外がある。カトリックの信者のなかでプロテスタント系高校へ入学する割合と,プロテスタントの信者のなかでカトリック系へ入学する割合は,回答者全体での割合よりも高いことが多い。同じキリスト教ということで,相異点よりも共通点の方がより強く意識されているためではないかと推察される。
 この他に特筆すべきなのは,神道以外の宗教を信仰する者に,神道系高校出身者がほとんどおらず,同様に新宗教以外の信者に新宗教系高校出身者がほとんどいないことである。他の宗教系高校の場合には,回答者全体での割合より低くとも,仏教の信者でカトリック系高校に入学する者や,カトリックの信者で仏教系高校に入学する者などが一定の割合でみられた。しかし神道系と新宗教系の高校には,それぞれの宗教以外の信者が入学することがほとんどない。(4回の調査を通して0人ないし1人)新宗教系には,創価学会系や天理教系のように学生のほとんどがそれぞれの宗教の信者である学校が含まれており,そうした特徴と表裏の関係にある傾向とみることができる。一方,神道系高校にはそうした特徴はない。むしろ上述のように神道の信者からの入学率が低いうえに,他の宗教の信者もいないわけである。
 なお,「あなたのお父さんは個人で信仰をもっていますか」と問い,「はい」と回答したら,さらに宗教名を記入してもらう質問項目が毎年の調査にあり,同様の方法で母親の信仰についても聞いている。これらの回答結果に基づき,父親や母親が信仰をもつとき,その宗教と回答者本人の出身高校の関係も検討したが,本人の信仰する宗教の場合とほぼ同じ傾向がみられた。5)ただし父親や母親の宗教が仏教で神道系高校に入学した者が,生徒本人が仏教を信仰する場合に比べやや目立ち,少数ながらほぼ毎回の調査で確認された。これに対し父親や母親の信仰する宗教がカトリックやプロテスタント,新宗教で,神道系高校に入学する者はほとんどいない。(ほぼ毎年0人か1人)
 また「あなたの『家の宗教』がありましたら・・・書いて下さい。2つ以上ある場合は,すべて記入して下さい。」という質問項目もある。その結果に基づき,家の宗教と生徒本人の出身高校の関係も検討した。回答欄にカトリック,プロテスタント,新宗教のいずれかを記入した者の場合,上でみてきたものとほぼ同じ傾向がみられたが,神道か仏教を記入した生徒の場合はこれと異なり,カトリック系とプロテスタント系高校出身の割合が高くなった。99年度には,それぞれの宗教系高校出身の割合よりもカトリック系とプロテスタント系の方が高かった。これは,家の宗教を神道や仏教と回答した者の多くが,判断や行動への宗教の影響が相対的に小さいためではないかと思われる。他の宗教分類では,例えば家の宗教がカトリックと回答した人数は,本人がカトリックを信仰する人数の2倍程度であり,プロテスタントや新宗教でも2倍以内であるのに対し,神道では11倍,仏教では22倍を超えており(99年度),本人,父母とも宗教意識の希薄なことが多いのではないかと考えられる。この場合,むしろ回答者全体に占める各宗教系高校出身者の割合の方が反映されているかもしれない。99年度でみると,回答者全体と,家の宗教が仏教の者のどちらでみても,仏教系高校出身者はカトリック系高校出身者の約8割である。
 次に,高校入学者のなかでの信者の割合をみてみよう。宗教系高校出身者のなかで,高校入学時に信仰をもっていた者の割合を99年度についてまとめたのが表1である。宗教ごとに信者数や宗教系高校出身者数が一様でないため,図1とは数字が異なっている。
 特に注目されるのは,新宗教系高校に入学する信者の割合の高さである。これは創価学会系や天理教系の高校などの傾向を反映したものと考えられる。
 これ以外の宗教系高校では,それぞれの宗教の信者の割合は,1桁代のパーセントにすぎない。信者のなかだけでみると,同じ宗教系の高校に入学する者が多くても,信者の人数自体が少ないため,入学者全体のなかでは信者はごく一部にすぎないわけである。表1には,宗派を問わず高校入学時に信仰をもっていた者の割合の欄も設けたが,新宗教系の高校をのぞくと,この数字は全体と大差ない。(カトリック系とプロテスタント系では全体の数字よりも小さいが,他の調査年度では,逆転していることもある)これらの宗教系高校は,信者のための学校とはなっていないのである。
 ただし入学する信者の割合に目立った差がなくとも,その内訳には違いがあり,それぞれ一致する宗教の信者が多数派となっている。新宗教系高校ほどではないにしても,こうした信者の偏りは,各校独自の宗教的雰囲気を構成する要素の一つとなっているのではないだろうか。なお例外として,先述のように97年度と98年度には神道系高校出身の神道信者がいない。


III 卒業者の傾向

 宗教系高校出身者のなかで,在校中や卒業後に入信する者が特に多いのかどうか,またそれがどの宗教系かによって差があるのかどうかを調べてみた。具体的には,本人の宗教への関心をきく質問に「信仰をもっている」と答え,かつ「その宗教にいつ頃入信しましたか」という質問に「高校のとき」か「それ以降」と答えた者をピックアップした。6)これらの者について,信仰する宗教と出身高校の対応などを調べてみた。ただし高校以降に入信した者は,多い年でも100人を超える程度にすぎず,宗教系高校出身に限ると10〜20人程度であり,この結果だけをもって断定的な結論を導くことはできない。ここでは今後の検討の手がかりとして,注目する価値があると思われる点をまとめておきたい。
 まず,高校のときかそれ以降に入信した者の割合を,回答者全体と,宗教系高校出身のみの場合とについて算出したのが表2である。在校中の入信の方に,よりはっきりした差があり,宗教系高校出身は全体の1.5倍から3倍程度となった。また在校中とそれ以降に入信した者をあわせても,4回の調査とも宗教系高校が全体を上回った。
 上の数字には,出身高校とは異なる宗教への入信も含まれたが,それぞれの高校の宗教に入信した者に限定し,宗教別に整理したのが表3である。複数の宗派をひとまとめにしている新宗教系を別にすると,4回の調査を通じ神道系の入信がない一方,プロテスタント系高校では4回とも,仏教系とカトリック系も98年度をのぞく3回は在校中か卒業後に入信した者がいる。98年度は,理由は不明であるが,回答者全体のなかでも高校以降の入信者が少なかった年である。このようにみると,神道系と,それ以外の宗教系高校とで対照的な結果といえよう。
 神道以外の宗教系高校出身の入信者をみると,高校卒業後よりも在校中の入信が多いようにみえる。7)
 一方,新宗教系高校では98年度の1人は創価学会系であり,残りの96年度と97年度はすべて天理教系である。96年度と97年度の調査には天理大学が含まれ,その後は含まれなかった。天理教系高校から天理大学へ進学する者が少なくないことから,天理大学が調査に含まれたかどうかが天理教系高校出身者の人数に影響し,それが表2の結果に反映された可能性がある。天理教系高校の傾向を判断するためには,さらに調査を重ねなければならない。同様なことが創価大学にもあてはまるが,96年度以外の調査には,創価大学が含まれていた。
 なお先述のように,同じ宗教系の小学校や中学校からの進学者で高校入学以前に入信していた者もいると考えられるが,そうしたケースは今回の調査データから拾い上げることができない。高校以前の段階での宗教教育による入信まで視野に入れると,表3の人数はさらに上積みされるかもしれない。
 次に入信の動機に関するデータをみてみたい。「信仰をもっている」と回答した者には「その宗教を勧めた人は誰ですか。次から選んで下さい」とたずねていて,選択肢は「祖父,祖母,父,母,兄弟姉妹,友人,職場の人,布教に来た人,街頭で声をかけた人,自分から進んで,その他」である。「その他」には具体的に記入する欄が設けられている。表3のなかには,「その他」を選んで「学校」などと記入していて,学校での宗教教育の影響が確認できる者もいる。これ以外に,「自分から進んで」と回答した者の場合も,他の選択肢を選んだ者よりも,学校での宗教教育が一定の影響を及ぼした可能性が高いと考えられる。
 表3の仏教系のなかでは2人が「その他」で「学校」と記入していた。「自分から進んで」と回答した者はなく,4人が「祖父母」や「父」「母」など親族の選択肢を選んでいた。これ以外には,「その他」で「研究して」「ボーイスカウト」と記入した者が1人ずつで,残り2人は未回答であった。なお未回答の2人とも,父,母,家の宗教はすべて仏教と答えており,家族から影響を受けた可能性がある。
 カトリック系のなかでは,1人が「その他」で「中高の先生(シスター)」と記入していた。また9人が「自分から進んで」と回答しており,そのうちの2人が家と母親の宗教をカトリックと答えていた。残りの1人は「勧めた人」を「母親」と答えていた。
 高校での宗教教育の影響を確認できるケースがもっとも多かったのがプロテスタント系で,「その他」で「学校」や「高校がミッション・スクール」と記入していた者が4人(高校以降に入信した者の4分の1)いた。また「自分から進んで」は11人であった。ただしそのなかには母親がプロテスタントの者が1人いた。残りの1人は「勧めた人」を「父親」と答えていた。
 以上みてきた3宗教系の高校では,高校での宗教教育によって入信したことが確認できるケースや,その可能性のあるケースがあった一方で,それらの割合は必ずしも大きくない。逆に家族の勧めなど,宗教教育以外の要因によって入信したケースもみられた。宗教系高校で入信する者が多い理由は,そこでの宗教教育のみに求めるべきではなく,父母をはじめ家庭からの働きかけなど複数の要因を想定する方がよいようである。8)
 最後に,入信者の性別にふれておきたい。宗教によって傾向が異なり,仏教系では男性が多く,表3の9人中7人であったのに対し,カトリック系とプロテスタント系では女性の方が多く,カトリック系では全員が,プロテスタント系でも16人中15人が女性であった。
 絶対数が少ないとはいえ,対照的な数字である。宗教系には男子校・女子校が少なくなく,生徒の男女比そのものに偏りがあるが,それだけでは説明することができない。(99年度には回答者全体のなかでの各宗教系高校出身者の男女比は,仏教系で男性が50.4%,カトリック系の女性は75.2%,プロテスタント系の女性は74.4%であった。また出身高校を問わず,高校在校中か卒業後に仏教に入信した者のうち男性は60.0%,カトリックに入信した者のうち女性は83.3%,プロテスタントで女性は70.4%であった。)
 同じ宗教系であっても,男子校と女子校で宗教教育のあり方が異なっていることなども考えられるが,現段階では結論をだすことができない。さらに調査を重ねるにあたり,注目していきたい。
 次により広く,宗教系高校を卒業した者のなかで,宗教に対する姿勢に特徴的な傾向があるかどうかをみておきたい。
 すでに取り上げた「あなたは宗教にどの程度関心がありますか」という質問の選択肢は,「1.現在,信仰をもっている」のほか,「2.信仰はもっていないが,宗教に関心がある」「3.信仰はもっていないし,宗教にもあまり関心がない」「4.信仰はもっていないし,宗教にもまったく関心がない」の4つである。この回答結果を宗教系高校ごとにまとめたのが図2である。
 出身高校と本人の信仰がすべて一致しているわけでない。また宗教への関心には否定的な意味も含まれると考えられるので,必ずしも完全ではないが,宗教教育の影響で宗教への関心が増すことがあると仮定するなら,「1」と「2」を合わせた割合は,高校での宗教教育の影響をみる一つの目安となると考えられる。
 新宗教系高校出身者のなかでは,この割合がきわめて高いが,その大部分は「信仰をもっている」と答えた者であり,他の宗教系高校の場合と大きく異なる。これはIIでみた入学者の傾向が卒業後まで存続しているためとみられる。
 仏教系とカトリック系,プロテスタント系高校では,「1」と「2」を合わせた割合が,回答者全体と比べて高くなっている。また「2」のみを比べた場合も同様であり,入信しなかった生徒に対しても,宗教教育が一定の影響を与えているようである。なお3つの宗教系の間での数値の大小関係は,4回の調査を通じて一様でなく,これまでのデータだけからは宗教系ごとの差をみきわめることはできない。
 一方,神道系だけが,「1」と「2」を合わせた割合が回答者全体より低くなったが,これは99年度だけのことであり,他の3回の調査では全体より高かった。このため現段階では神道系の場合についても傾向をみきわめることができない。ただし神道系では,まったく関心がない「4」の割合が,4回の調査とも回答者全体より高かった。この点にも注意を払いつつ,さらに調査を重ねる必要がある。


IV おわりに

 これまでの分析結果を整理しておこう。
1.信者は自分の信仰する宗教系の高校へ入学する傾向がある。なかでもカトリックでその傾向が強く,神道では弱い。
2.神道系と宗教系の高校には,それぞれの宗教以外の信者はほとんど入学しない。 3.カトリック系とプロテスタント系の高校には,お互いの信者が入学する傾向がある。
4.宗教系高校に入学する信者の割合は,宗教系でない高校と大差ないが,内訳ではそれぞれの宗教の信者の割合が大きい。ただし新宗教系高校だけは,入学者の多くがその宗教の信者で占められる。
5.絶対数は少ないが,仏教系とカトリック系,プロテスタント系高校では在校中・卒業後にそれぞれの宗教へ入信する傾向がある。仏教系では男子,カトリック系とプロテスタント系では女子の入信が多い。
6.仏教系とカトリック系,プロテスタント系高校の卒業者のなかでは宗教に関心をもつ者が多い。神道系の卒業者では関心のない者が多い。
 すでに述べたように,該当する件数や母集団の規模が限られるため,これらの傾向が完全に確認できたとは言いがたい。引き続き調査を重ねることが求められる。
 また今回の分析事項は本人と父母の宗教への関わりに限られた。日本の公教育のなかでの宗教系高校の役割や位置づけを考察するためには,さらに様々な側面からの分析が求められる。今後の検討課題である。


1)「新宗教系高校」に含まれる創価学会系や天理教系の高校は,それぞれ別個の分類とする方が望ましいとも考えられる。しかし新宗教系高校出身の回答者数は40〜60人程度の年度が多く,データの信頼度という点から,これ以上の細分化は望ましくないと判断した。このことをふまえ,必要に応じ「新宗教系」の宗派別の内訳に言及している。なお出身高校がどの宗教系であるかの判断は,國學院大學日本文化研究所編『宗教教育資料集』すずき出版,1993年によった。ただし高校名の記入が不完全な場合は,宗教系である可能性があっても除外した。これらの回答者も「全体」には含めてある。また海外の高校は,日本人学校など宗教系かどうか分かるものもあるが,不明な方が多い。海外の場合は,学校教育以外の条件が大きく異なることなどを考慮し,すべて宗教系には含めないことにした。
2)少数ではあるが複数の宗教を書いた回答者がいる。これは両方の欄で数えた。また96年度の調査だけは入信時期について「その宗教には何歳のとき入信しましたか」とたずね年齢の数字を記入してもらうようになっている。そこでは15歳以下の回答者をピックアップした。
3)私立志向によって公立学校への入学者が少ないために非宗教系出身が少なくなっている可能性も考えられるが,それだけでは説明できないようである。カトリック信者で公立学校出身の割合は99年度は48%で,回答者全体(62%)との差は14%である。これに対し非宗教系高校出身の割合はカトリック信者が58%で全体(88%)との差は30%と,はるかに大きい。
4)神道系と同様に校数の少ない新宗教系高校のいくつかは,寮制によってこの制約をある程度解消しているものと推察される。
5)父親と母親に関しては入信の時期をきいていないため,調査時に信仰をもっていても,生徒が高校へ入学したときにはまだ入信していない可能性もある。この点で,本人の信仰の場合に比べるとやや厳密さに欠ける。
6)注2)と同様に,96年度は16歳以降に入信した者をピックアップした。
7)高校卒業後に入信した者については,大学も同じ宗教系に進学し,そこでの宗教教育が影響した可能性も考えられる。表3では,カトリック,プロテスタント,創価学会がそれぞれ1人ずつ,大学も同じ宗教系であった。ただしカトリックの1人は,「勧めた人」を「中高の先生」と答えていた。
8)親が同じ宗教の場合,親の影響や勧めで入信したケースのほかに,次のようなケースも考えられる。すなわら,学校での宗教教育を通じて生徒が入信し,その影響で親が入信する場合である。管見の範囲で,カトリック系の高校で複数の事例がみられた。


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以上は,科学研究費補助金 研究成果報告書 のための最終ドラフトにもとづき,ウェッブ上での掲載のために若干の加筆・修正を行ったものです。刊行された論文とは異なるところがあります。また図表は掲載されていません。

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