更新日:2006年05月16日 Version 7.0
社会科学における文献検索法
村瀬 洋一
研究を始めるには、まず、先行研究にどのようなものがあるか把握するために文献検索をして、学術論文について、文献リストを作ることが必要である。すでに研究されつくされた分野を、また研究しても無意味なので、まず、研究の最前線が何かを把握せねばならない。
効率よく文献検索をするには、現在では、文献データベースの使用が不可欠である。他人の論文末の引用文献一覧を見て芋づる式で探す、などの旧式な文献検索法では、良い研究成果は期待できない。最低限、雑誌記事索引とWebcatは使用すべきである。以下で、いくつかの文献検索法についての解説と、データベース使用法の簡単なマニュアルを提示する。
なお、以下の記述は、雑誌に掲載されている論文の検索法が主だが、単行本については、インターネット上でかなりの程度検索できる。村瀬リンク集にもいくつかを紹介してあるので、ここも見て、Webcatなどを操作してみるとよい。webcatは、雑誌内の論文名までは分からないが、単行本や雑誌名はかなり詳しく検索可能である。以下の日本社会学会の「社会学文献情報データベース」もホームページ上で無料で検索が可能である。これは論文も多数掲載されている。
1.雑誌記事索引
日本の雑誌記事のリストである。以前は3ヶ月に一度冊子で発行されていたが、1996年度で廃止され、その後はCD−ROMしか出ていない。最近の検索ソフトは、検索語を入れて「検索」ボタンを押せば結果が表示されるので、操作は簡単である。学術雑誌以外の記事も多数表示されるので、自分に必要なものをよく見分けること。
最近は、多くの大学図書館のweb上で、雑誌記事索引を利用可能。
また、国立国会図書館のホームページで、無料で雑誌記事索引を利用可能。ここも使いこなすとよい。結果を自分のパソコンに保存するとよいだろう。
雑誌記事索引の問題点
雑誌記事索引は、国立国会図書館で編集しているが、予算不足のため新しい雑誌に関しては情報が少なく、比較的、古くからの雑誌についてしか収録されていない。情報を増やすために予算を増やすよう、みんなで政府に働きかける必要があるだろう。また、SSCIと同様、引用文献リストを情報に含み、どんな文献を引用しているのかについての情報を掲載すれば、日本の科学研究はとても発展するだろう。
2.国立情報学研究所のデータベース(NACSIS IR)
文部省の外郭団体だった学術情報センターは、国立情報学研究所と名前を変え、数十種類のデータベースを提供している。WebcatやCiniiはインターネット上で無料で検索できる。その他の多くは、申請してIDを取る必要がある。大学院生や大学関係者ならば、比較的容易にIDが取れるので問い合わせると良い。国立大学の大型計算機センター(多くは共同利用機関なので私立大学の教員なども使用可能)や、私立大学の図書館などで、申請法を教えてくれる。
このデータベースはおすすめ。とくに、社会科学を研究する人はSSCIを使うべきである。これを使わずに良い研究をするのは無理。文献検索の効率が飛躍的に上がり、作業に使う時間が少なくなる。
2.1.Webcat: 総合目録データベース
大学図書館の目録検索。これを用いると、本や雑誌がどこの大学図書館にあるか分かる。実質的に、日本に存在するほぼすべての本のタイトルを検索することが可能。これだけは、IDがなくても無料で使用可能。
ここをクリックして、キーワードを入れ、検索してみると良い。前方一致検索は「社会階層*」のように、キーワードの後に*をつける。
2.2.学術雑誌目次速報データベース
値段は安い(1回の接続30円で使い放題)が、できたばかりのデータベースで情報は少ない。大学の紀要などの目次を収録している。雑誌記事索引が多くの学術雑誌を収録しているならば、こんなものはなくてもよいはずなのだが。雑誌記事索引も、これと同様の操作法で使用できるが、値段が高いので、図書館などでCD−ROMが使えるならばそちらの方がよいだろう。
2.3.SSCI Social Science Citation Index
値段は高いが情報が多い。冊子版も多くの大学や図書館にあるが、字が細かいし情報を把握するには時間と手間がかかる。オンラインデータベースでこれを使いこなせば、研究がはかどることは、間違いない。オンラインで使えない人は、頑張って冊子版を使うべし。使う価値はある。
NACSIS-IR 簡単な操作法 (旧)
村瀬の経験にもとづく簡単な使い方です。国立情報学研究所の利用資格(ID)を
取り、telnetで ir.nii.ac.jp に接続すれば、簡単に使えます。
NACSIS-IRについての解説本はいくつかあるが、分厚かったり、情報量が少なかった
りで、私の知る限り、分かりやすい本はあまりありません。以下を読めば、ふつうに
使う限り、十分に使えるはずです。
なお、接続時は、ラインモードをおすすめします。ログを保存しておくことを忘れ
ないように!!検索料はものによっては結構高いので、検索したのに結果を保存し
てない、てなことになると悲惨です。
TeratermやWindows付属のtelnet.exe などのソフトで、端末の設定をshift-jisにし
て、接続後、shift-jisラインモードを選択して使えば、ログを保存しておいても文字
化けすることはないです。
なお、IDやパスワードは、原則として半角英数字「大文字」で入力です。
TYPE IN COMMAND と出たところで、s occupation などと打てば、検索できます。
サーチ(s)とディスプレイ(d)コマンドさえ使えれば、とりあえず問題ないでしょう。
目次速報(接続後、sokuho と打つとつながる)は安いので、初めはこれで練習する
のがおすすめ。練習モードを使ってもよい。
以下、使用例。
TYPE IN COMMAND
1/ s social* ←★socialが頭につく文献を検索(前方一致検索)
s social*.and.stratificat* とやると、
←social かつ stratificat を含む文献を検索
* 2 K.SOCIAL ( 1 TERMS COMBINED)
K.STRARIFICAT
100 TERMS WITH YOUR STEM COMBINED SO FAR, CONTINUING
* 545 K.STRARIFICAT ( 166 TERMS COMBINED)
* 89 2/ ("K.SOCIAL"*) AND ("K.STRARIFICAT"*) END NOSAVE
↑検索の結果、89件が表示されている(架空例)。
TYPE IN COMMAND
2/ d m.b ←★モードBで表示。モードZがもっとも詳しい。
d m.zとすればよい。タイトルその他が表示される。
----------------------------------------------------------------------------
( 1)
ACCN:0000034953
TITL:XXXX
TITE:XXXX
AUTH:XXXX
AUTE:XXXX
AFFN:XXXX
CITN:XXXX
NCID:XXXX ISSN:XXXX
VOLN:46(2) PAGE:239-249 YEAR:19960216
INAF:XXXX
----------------------------------------------------------------------------
( 2)
ACCN:XXXX
TITL:XXXX
★s はサーチ(検索)
d はディスプレイ(表示)
ssciで、
s ca.verba s.and.cy.1978 とやると、
verba sが1978年に書いた文献を、引用している文献、について検索する。
これを覚えておくのがこつ。
s actualization.and.y.1990,1991 とやると、
actualizationを含む文献で、1990、1991年に発行されたものを検索。
3.Sociological Abstractやpsychological AbstractなどのCD-ROM
Sociological Abstractなどの冊子版は多くの図書館に入っている。1年間に出された社会学論文の要約が掲載されており、キーワードをもとに索引を引き、英語の学術論文を検索できる。字が細かいし情報を把握するには時間と手間がかかるが、使った方がよい。
しかし、1974年以降の、Sociological AbstractとSOPODA(Social Planning/Policy & Development Abstracts)は、socio fileという1枚のCD-ROMに収められており、435,000件以上の論文要旨が収録されている。これはとても便利である。パソコンで検索語を入力すれば、検索結果をテキストファイルで得ることができる。(なお、最近はなぜかSOPODAは除外され、Sociological Abstractのみの内容でCD-ROMが販売されている。)
丸善か紀伊国屋から、おそらく10万円以下で購入可能である。最近、規格が少し変わり、専用の検索ソフトWinSPIRS v2.1 で検索するようになった。検索ソフトについては、下記のsilverplatter社のホームページのソフトウェアのコーナーを参照。
使用法は簡単である。CD-ROMをセットし、WinSPIRSを起動する。検索画面が表示されるので、検索語を入れる。「japan networks」などと入力してサーチボタンを押すと、japan and networksで検索され、結果が簡略表示される。要約本文を含めて詳しく表示したいときは、下の方の「all field」ボタンを押す。検索結果をフロッピーに保存することもできる。「downroad」ボタンを押し、オプションボタンを押して、abstractを含めた全情報の保存を選択する。その後、ファイル名を指定して保存すれば、検索結果がテキストファイルで保存される。
Sociological Abstracts Home Page
一橋大図書館の説明
4.日本社会学会 「社会学文献情報データベース」
日本社会学会は、会員からの情報にもとづき、社会学に関する文献情報データベースを構築している。会員の自己申告という限界はあるが、以前、某氏がボランティアで、かなりデータを追加して整備していてくれた時期があり、ある時期から前の情報は充実しているらしい。社会学に関しては、無料でかなりの情報を収集可能。このような試みが増えると良いのだが。
富山大学サイトと東北大学サイトがあり、誰でも自由に使用できる。学会が無料で提供している文献データベースは他にはほとんどなく、かなり画期的。
富山大学サイト
日本社会学会ホームページのデータベース
5.論文集的な本や入門書、レビュー論文の文献リスト
巻末に文献リストがついていることが多いので、それを見れば、手軽に文献を把握できる。だが、適切な本や論文が最近に出ているとは限らないので、多くの場合情報が古いし不十分。しかし、古くてもよいならば、以下のようなタイトルの文献が参考になるだろう。最近出た学術雑誌に、レビュー論文(ある分野についての最近までの研究動向をまとめた論文)が掲載されていれば、それを入手するのがもっとも良い。
6.研究者のホームページ
新しいものが多いが、ホームページを開設している研究者は少ないし、十分な情報が集まるとは限らない。しかし最近は、結構充実しているページもある。運が良ければ、あるいは分野によっては、最新の情報が入手できる。
社会学関係リンク集を作っている人も多いので、そこからたどっていってもよい。村瀬の「行動科学リンク集」にも情報がある。
7.ProQuest データベース
学術雑誌の論文本文などがデータベース化されており、自分のパソコンに論文本文が表示されるので、とても画期的である。年間200万円以上の料金を取られるが、大学で契約してくれれば、使う価値は非常にある。ホームページ上で検索し、論文本文が画面に出る。パソコンの画面にPDFファイルを表示し印刷すれば、論文をコピーする手間もかからない。とても画期的である。紀伊国屋などの業者に問い合わせると、お試し用の期間限定パスワードをくれる。
ProQuest Direct Home Page
★使用法のこつ
ふつうに検索すると、無関係な文献を含めて、膨大な文献が表示されるが、Natural Language Searchは、わりと使いやすい。画面上のsearch methodsをクリックし、Natural Language Searchを選ぶとよい。そしてキーワードとして自分の疑問文や、例えば、公正研究について調べたければ「sociology of fairness」などと入力して、サーチボタンを押す。キーワードを何種類か試してみるとよい。
新聞記事(New York Timesなど)も検索可能だが、表示結果を減らしたいときは、Publication typeボックスをクリックして「Periodicals」を選ぶと、雑誌のみになる。学術目的のときは、こうした方が良いようだ。
8.JSTOR
ジャーナルのストレッジ。社会学に限らず、各種学術雑誌内の論文本文がpdfファイルで入手可能。American Sociological Review やAmerican Journal of Sociologyなどもある。大学が会員になれば利用可能。米国の各種学会では、会員へのサービスとして個人で利用可能(要追加会費)なことも。米国の大規模大学では、ProQuestとJSTORを、誰でも自由に使えるところが多いようである。
JSTORホームページ
9.その他、データ収集のために有用な書籍
マクロデータ(集計レベルでの統計データ)について
『日本統計年鑑』
朝日新聞『民力』
『日本国勢図会(ずえ)』
総務省統計局統計センター
日本統計年鑑に掲載の図はすべてここで入手可能。
『全国市町村要覧』
全国3000以上の市町村について、人口や産業構成などの情報がある。年1回発行。
『世論調査年鑑』
これまでに行われた世論調査について総理府が把握した分を掲載。回収率が7割を越える調査については質問文や主な結果も掲載されており参考になる。
『平凡社 世界大百科事典』
意外と馬鹿にできない。平凡社のものは情報量が多くて有用。
講座や叢書などのシリーズも、新しいものは、巻末文献リストが活用できる。
『社会学講座』
『リーディングス日本の社会学』
『政治社会学リニューアル』
『現代日本の階層構造』
10.論文での引用文献リストの形式について
文献リストの形式を整えることはとても重要である。日本の文献は、引用文献や文献リストの形式がまちまちで読みにくい。注の中に引用文献の情報を含めることも多いが、いちいち注に移らなくては内容が分からないし、本文の情報量も少なく読みにくい。
文献リストの形式は、以下のような、著者名と発行年を初めに必ず書く形式(俗に言うハーバード方式)がもっともよい。この形式に統一すること。
★★ 文献リスト形式の基本 ★★
1)必ず初めに著者名を書き、次に、年号を半角数字で書く。
2)2行以上になるときは、2行目以降冒頭を、以下の例のように全角スペース2文字分あける。
3)論文名は「」、単行本や雑誌名は『』でくくる。
4)著者のアルファベット順に文献を並べる。
秋元律郎.1985.「概説 日本の社会学 政治」.『リーディングス日本の社会
学14 政治』3-15.東京大学出版会.
Moore, Gwen. 1990. "Structural determinants of men's and women's personal
networks." American Sociological Review 55:726-735.
村瀬洋一.1999a.「有力者とのネットワーク保有の規定因 −関係的資源を指標
とした政治的影響力の社会階層構造」.『社会学評論』50:21-40.
村瀬洋一.1999b.『民主主義社会における政治的影響力の不平等 −関係的資源
の階層間格差と政治意識との関連』.東北大学大学院文学研究科博士論文.
直井優他編.1990.『現代日本の階層構造 1 社会階層の構造と過程』
東京大学出版会.
大谷信介.1995.『現代都市住民のパーソナル・ネットワーク』ミネルヴァ書房.
Portes, Alejandro. 1998. "Social Capital: Its Origins and Applications in
Modern Sociology." Annual Review of Sociology 24:1-24.
盛山和夫.1991.「社会移動研究における安田の開放性係数の意義」.『理論と方
法』6:106-114.数理社会学会.
高橋和宏・大西康雄編著.1994.『自己組織化過程のネット分析 −地域権力構造の比
較研究』八千代出版.
Verba, Sidney, Norman H. Nie & Jae-on Kim. 1978. Participation and Political
Equality: A Seven-Nation Comparison. Cambridge University Press.
=三宅一郎・蒲島郁夫・小田健訳.1981.『政治参加と平等−比較政治学的分析』
東京大学出版会.
★論文中での引用法
このことについては、青木(1991:112)によれば、「・・・」である。
このことについて、Verba et al.(1978 =三宅他.1981:72-75)によれば、・・・
どこが引用部分でどこが自分の意見か、明確に分ける。
他人の意見を自分の意見であるかのように不明確に書いては絶対にいけない。
★注意点
著者名.発行年.「論文タイトル」.『本タイトル』巻号:ページ数.出版社.の順で書く。
文献リストでの順序は、著者名アルファベット順に。
年号の後に:をつけ、ページ数を書けばよい。たとえば、vol.55の726-735ページに掲載されている
論文は、55:726-735 と書けばよい。
日本語訳があるときは、=のあとに書く。
英文の単行本名は、イタリックにするか、下線を引く。
日本語の論文名は「」、単行本名や雑誌名は『』をつける。
欧文共著の場合、第一筆者のみ、姓を初めに書く。第二筆者との間はカンマで区切り、最後の筆者との間には& をつける。
American Sociological Reviewや、数理社会学会機関誌の『理論と方法』は
文献リスト形式が整っている。参考にすると良い。
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