【第7回】家族とは何か?

私たちは、自分の生まれ育った家族を「普通」の家族と思っている。

それゆえに、家族について語ることが難しいのではないだろうか。

今日は、異文化の家族の事例を見ながら、家族の本質を定義するのが難しいことを学ぶ。

また、家族の形態が時代によって移ろうことにも触れる。

<51〜58頁>




映画

『東京物語』
(小津安二郎監督、1953年)

・尾道の周吉とみ夫婦は、東京に暮らす子どもたちの家を訪ねて旅行に出かけた。
・長男の
幸一、長女のしげも仕事が忙しくて両親の相手をしてくれない。
・両親の面倒を見てくれたのは、戦死した次男の妻
紀子だった。
・尾道に帰った
とみは数日後に死亡するが、幸一しげは悲しみながらも、そそくさと東京へ戻る。
紀子が東京へと戻る日、周吉は彼女の優しさに対する感謝の気持ちとして、とみの形見を分ける。
・『東京物語』では、
家族のきずな、親子、老いと死などのテーマが描かれる。





0.結婚と家族

いまからおおよそ14億年前に「性」が誕生した。
その後、生き物は「出会って」はじめて生殖することになった。

人が「結婚する」とは、いったいどのようなことなのか?
男と女はどのように出会い、結ばれるのだろうか?

まずは、
<出会い>







いずれにせよ、男と女は、まずは、出会わなければならない。



1.家族の解剖学

そもそも家族とは何か?

その最小単位を見つけだすことで、家族について考えてみたい。

核家族(nuclear family)】

・一組の結婚した男女
(性に基づく関係)とその子どもから成る家族のこと。
・複婚家族、拡大家族(直系家族、合同家族)には、核家族には隠れている。



「核家族はすべての家族形態の基本であり、普遍的である
マードック


<52〜53頁>


はたして本当にそうなのだろうか?

その反証例として、性関係をともなった夫婦関係によって成り立っていないタラヴァードがある。



【インドのナーヤルのタラヴァード】

タラヴァード
には母はいるが、父(=母の夫)という地位はなかった。

つまり、タラヴァード内では、夫婦の性生活が営まれてなかった。

いったいどういうことなのだろうか?

ナーヤル/ナーイル(nayar/nair)の母系制について

【母系制】
母方の血筋によって家族や血縁集団を組織する社会制度であり、子は、母方から地位を受け継ぎ、財産を相続する。女性が男性よりも優位とは限らず、地位や財産の支配権は、母の兄弟、長女の夫などに与えられている場合が多い。



1.ターリ儀礼

(10年に一度の結婚儀礼)


・初潮を迎えた少女はターリ(ひも)をかけた男性と3日間一緒に過ごす。
・儀礼中の性関係の有無は問われない。
・儀礼の男は夫といえるが、タラヴァードの成員にはならなかった。
・儀礼後、少女と男が再会することはない。


2.サンバンダム

(性関係)


・ターリ儀礼後、女性は複数の男性と性関係(サンバンダム)をもつ。
・女性が妊娠すると、サンバンダムの男性は妊娠を認めた。



父親はいったい誰?


性関係をむすんだサンバンダムの男性では?




・サンバンダムの男性は、
「アチャン」(リーダー)と呼ばれるだけで子に対しては責任はない。
・じつは、
子の父(「アッパン」)は、ターリ儀礼の男性。
・しかし、アッパンもまた、タラヴァードの成員ではない。
・アッパンが死ねば子は喪に服するが、アチャンの場合には服喪の義務はなかった



ナーヤルのタラヴァードに対して、マードックの想定した分析概念である核家族は役に立たない
タラヴァードは、性関係をともなった夫婦関係によって成り立っていなかった。


<54〜56頁>


他方で、母と子を家族の基礎とする見方もある。

しかし、家族の基礎を追い求めることによって、いったい何が理解できるであろうか?
(何ももたらさない)



2.家族の歴史

<ヨーロッパ>


今日、家族の親密さや情愛が大事とされる。
歴史研究は、その形成過程を研究。


フィリップ・アリエス<子供>の誕生
…ヨーロッパにおける子どもの歴史





【17世紀以前】

・大人によって保護、教育される「子ども期」不在。
・親ではなく、共同体が子に情愛を注いだ。

【17世紀以降】

・学校教育制度の整備とともに子どもの教育機関が長くなる。
・家族が子どもに情愛を注ぐ 
<子ども>の誕生




エドワード・ショーター『近代家族の歴史』

中世ヨーロッパの家族は、農民にとって、生きてゆくために必要な結びつき
「家族の愛情」のようなものは見られなかった

子どもを里子に出すことが多く、親が手元で育てることは少なかった
家族の内と外の境界はなく、人びとは家族よりも村落共同体に愛着を感じていた



欧米に見られる家族は近代の一時期に生まれてきた

近代家族:「性=生殖=愛情」

・愛情によって結婚した夫婦と、彼らの
性愛関係から生まれた子どもは血縁で結ばれ、全体として愛情という情緒でつながっている。



<56〜57頁>



<日本>

現在、ノスタルジーの中で語られる大家族は決して多くはなかった。

地域や階層によって様々な家族のあり方


北関東や南東北
第一子が女子であれば彼女が家を継ぐ(姉家督)

西日本
末子相続の慣習

1920年代の国勢調査
54%が核家族直系家族は31%



【明治時代】
(日本が近代国家への道を歩み始めた)
・国家が家族の形態、機能に直接関与するようになった。
・明治民法の戸籍制度が施行=「家」制度がつくられた。
・戸主(家長)に強い権限が与えられ、戸籍が作られた。
 

【第二次大戦後、高度経済成長の時代】
・都市に人口が集中。
・男性:給与所得者、女性:家内労働に従事。
 
夫婦間分業が生まれて日本の近代家族が形成された。


<57〜58頁>




サザエさんに見る日本の家族
 

ナミヘイ、フネ夫婦、その娘サザエとその婿養子夫のマスオ、
その子タラ、カツオとワカメ
太平洋戦争後の日本の都市の典型的な家族のあり方の一つ。

磯野家=大家族
内海家=核家族




石立鉄男ホームドラマ

1970年代初頭、戦後家族を継承して、変則的な家族を題材としたドラマが生まれた。
気になる嫁さん


 
↓パパと呼ばないで 
独身男性・右京は亡くなった姉の娘・千春を
引き取り、井上精米店の二階に下宿する。
その後、右京は千春を、パパとして育てる
決心をする。




雑居時代




クレヨンしんちゃんに見る日本の家族

ひろし、みさえ、しんのすけ、ひまわりという父母と子からなる家族。

現代日本の典型的な家族のあり方。

https://youtu.be/gf6tZFELbS8

*家族の姿は、時代によって移ろう。


<藪入り>
落語 三遊亭金馬

男親がソワソワしています。
前の晩からです。

男親は奉公に出た一人息子が帰ってきたら、ああしてあげたい、
こうしてあげたいと女房に言って寝かせません。

暖かいおまんまに、納豆を買ってやって、
海苔を焼いて、卵を炒って、汁粉を食わしてやりたい。

刺身にシャモに、鰻の中串をご飯に混ぜて、
天麩羅もいいがその場で食べないと旨くないし、
寿司にも連れて行ってやりたい。

ほうらい豆にカステラも買ってやれ。
「うるさいね、もう寝なさいよ」、
「で、今何時だ」、
「2時くらいですよ」、
「昨日は今頃夜が明けたよな」、
「冗談いっちゃいけないよ」・・・




江戸時代の長屋住まいの町民をテーマにした江戸落語に出てくる家族には、核家族が多いようである。

一概に、時代によって、大家族から核家族に変化したということはできないのかもしれない。

落語を聞きに行こう!

池袋演芸場
新宿末廣亭

文化人類学の授業のページへ