次の大会が現役最後ですね、と聞くと佐藤(コ4)は、いつものようにふんわりと笑って答えた。 「いやだー(笑)。そうですね。最後ってちょっと信じられないというか、あんまりそういう実感はないんですけど…。でも今までずっと小2からフェンシングやってて、こういう大会がなくなるんだと思うとすごく寂しい。後から振り返ったら最後があれだったのか、ってなるんじゃなくて、やり切ったなと思えるぐらいにはやっていきたいと思います」。 だが、信じられない結末が待っていた。 予選プールこそ突破したものの、結果はまさかの決勝トーナメント2回戦敗退。その瞬間、我が目を疑った。彼女がこんなところで負けるなんて――。 「緊張とかもあったりして、調子がずっと上がり切らなくて。動いていてこれじゃないこれじゃない、なんか違うっていう感じで。そっちに気がいってしまってあまり集中できなくて。ちょっと思い切りできたとは言えない感じでした」。 確かに彼女にとって、「緊張」は常に敵だった。この日に限らず大事な試合のあとに話を聞くと「緊張してしまって…」という前置きがよくある。 それでも予選プールは全体の9位で通過。動きが悪いようには見えなかったが…。 「予選は尻上がりでしたけど、最後がちょっと良かったくらい。勝ち方もそんないい勝ち方じゃなかった。すごく集中してると突く瞬間に声やガッツポーズが出るんですけど、(今日は)『あ、突いた。よし』っていう感じになってしまって、全然集中できなかったのが心残りです」 決勝トーナメントはシードとなり、2回戦からの出場。相手は関学大の渡辺。格上の相手ではなかった。試合は先制こそされたものの、相手の出ばなを狙うなどで逆転に成功。だが5−4の場面から相手に立て続けにポイントを奪われ、ブザーが鳴るまでひっくり返すことはできなかった。 「最初に相手を見ていた感じではすごく簡単に勝てそうと思ったんですけど、実際やってみたら結構やりづらくて。脚が最初すごく開いていたので、これ脚1本目取って最初にリードしちゃおうと思ったんですけど、緊張して最初3本くらい外して、それで読まれて。あそこで突いとけば…って感じだったんですけれど…。気持ちが緊張しているから体が動かないんですけど、動かないからもっと緊張しちゃって、悪い循環で。制御が効かない感じと言うか。集中してなかったのがダメだったと思います」 「なんかこう、達成感より、後悔と教訓というか、そういうのが残った感じで、やり切ったという感じはそんなに無い。やっぱり後悔しちゃうんですよね。夏合宿ちょっとサボったかな―とか、そういうことを思い返しちゃった。負けたけど良かったって言えるふうになれない、今はまだなれないです。今まで妥協したところの後悔と、あとはなんだろうな…うーん…、自分自身のことはもう、わーってなっちゃっていて、ちょっと今はまとめられないんですけど」 選手生活最大の悔しさを今、佐藤は感じているのかもしれない。あふれ出る感情が、言葉よりも速く彼女の頭を駆け巡る。言葉にできなくても良かった。思いは伝わってきた。言葉にするよりも強く伝わってきた。 これまで彼女が歩んできた道は平たんなものではない。女子部員が圧倒的に少なく、人間関係ではさみしさを覚えることもあった。女子特有の試合の流れやペースは本番で思い出すしかなく、調子の管理も楽ではなかった。そんな孤独の中で4年間ずっと戦ってきたのだ。 それを踏まえて聞いてみた。「どんな4年間でしたか?」 「色んな人にすごく支えてもらったので、OBの先輩もそうですし、1年の時の現役間での先輩方もそうですし、後輩もそうですし、応援してもらったし教えてもらったし…、支えられていたから…できたんだなーって思います」 佐藤の瞳に涙があふれる。 この4年間、苦しいこともたくさんあり、恵まれない展開もたくさんあった。しかし、彼女は1人で戦ってきたわけではなかった。脳裏に浮かぶのは、今までお世話になってきた人たちの顔。彼女が一番強く持っていた思いは「感謝」だった。 この日の結果は喜べない。だが振り返れば、多くの人の手を借りながらも決して歩を止めず、何度も壁を乗り越えて築いた道がそこにはある。それは誰にも負けない長さと堅さを持った道だ。どうか自信に変えてほしい。最後まで戦い抜いたことを。最後まであきらめなかったことを。 最後に、後輩へのメッセージをお願いした。 「本当にやる気次第な部、誰かが引きあげてくれるような部じゃないと思うので、多分その分どんどん弱くなるとも思うし、外部に出てどんどん自分から学ぼうとしたら強くなると思う。自分で学んでいくのがすごく大切だと思います。今まで男子を見ていて団体戦でのまとまりが出できたと思うので、団体戦の1人1人が自由すぎてまとまってない感じだったんですけど、最近は後輩たちが頑張っている。そんな感じが後輩に受け継がれていったら、士気的にも良くなると思います」 「ありがとうございました」。別れ際の佐藤の目はもう濡れていなかった。これまでの全てを糧にして、新たなフィールドで活躍してくれることを祈りたい。 佐藤さん、4年間お疲れさまでした。 (2月7日・小野錬)
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