プロジェクト1 マスト細胞における「アクチン障壁」の動的制御と分泌機構
右の図は、マスト細胞が「脱顆粒」を起こす仕組みを簡単に示したものです。
マスト細胞表面の受容体(FcεRI)が抗原によって架橋されると、細胞内に様々なシグナルが伝わります。
これにより、分泌顆粒が細胞膜と融合し、内部の炎症化学物質などが細胞外へ放出されます。
私たちは、これら一連のイベントによって引き起こされる「分泌顆粒と細胞膜の融合」というダイナミックな挙動に強い関心を持ち、その分子メカニズムの解明を目指しています。
特に注目しているのは、細胞骨格の主要成分であるアクチンフィラメントの役割です。アクチンが単なる「構造体」にとどまらず、いかにして高度な制御機能を果たしているのか。
受容体シグナルから顆粒融合に至るまでの詳細なメカニズムの全容解明を進めています。
- 分泌を阻む「アクチンの障壁」
安静時のマスト細胞において、細胞膜の直下(皮質部)にはアクチンフィラメントが緻密な網目構造を形成しています。このネットワークは、化学伝達物質を蓄えた分泌顆粒が不用意に細胞膜と融合しないよう、物理的な「障壁(バリア)」として機能し、細胞の静止状態を厳密に維持しています。
- 活性化に伴う「解放」と「融合」のダイナミズム
マスト細胞が活性化されると、インテグリンなどを介したシグナルがトリガーとなり、このアクチン障壁に劇的な再編成が起こります。 局所的な断片化: 細胞膜直下のアクチンが一時的に分解・消失することで、顆粒が膜に接近するための「ゲート」が開かれます。 膜融合の精緻な制御: このアクチンのダイナミックな挙動こそが、分泌顆粒の膜と細胞膜が融合(膜融合)するための必須条件であり、アレルギー反応の「オン・オフ」を決定づける最重要プロセスの一つです。
- 私たちが目指す研究の地平
この「アクチン障壁の崩壊と再構築」がいつ、どこで、どのように制御されているのか。私たちは、最先端のイメージング技術を駆使して、分泌顆粒が膜を突破し、外部へと放出される一瞬のドラマを分子レベルで捉えたいと考えています。
「細胞内の物理的な壁がいかにして取り払われ、生命応答へと繋がるのか」——。この根源的な問いを解き明かすことで、過剰な免疫応答を制御する新しい医療の可能性を切り拓くことが、私たちの研究の大きな目標です。
プロジェクト2 インテグリンの生理的機能の解明
本プロジェクトでは、リンパ球におけるインテグリンの機能に着目します。リンパ球が血管内皮や細網膜などに接着して遊走する過程、抗原提示細胞や標的細胞との接触、そして免疫シナプス形成における役割を解析し、免疫応答におけるインテグリン依存性の細胞移動・接着・シグナル伝達機構を明らかにします。
プロジェクト3 マスト細胞における脱顆粒制御の計算機科学的解析
マスト細胞のアレルギー応答の中核である「脱顆粒」現象をターゲットとし、生化学・細胞生物学的なアプローチ(Wet、プロジェクト1)と計算機科学的なアプローチ(Dry)を融合させた多角的な解析を行っています。
- 輸送と安定性を司る分子ネットワークの同定
顆粒の輸送に関わるモータータンパク質や、アクチンの安定性を制御するアクチンフィラメント結合タンパク質群が、どのようなPPIネットワークを形成しているのかをインシリコで解析します。
- 互作用の動的シミュレーション
実験では捉えきれない一過性の結合や、活性化に伴うPPIの変遷を予測することで、脱顆粒を制御する未知の「ハブ分子」の同定を試みています。
- 研究の展望
実験と計算のシナジー 私たちは、自ら動かす「ウェットな実験データ」と、計算機が導き出す「論理的な予測」を循環させることで、マスト細胞の複雑な応答システムを精密に記述することを目指しています。
この統合的なアプローチにより、アレルギー疾患の根源的な理解と、新たな治療戦略の提案に貢献したいと考えています。
プロジェクト4 タンパク質チロシンホスファターゼの多様な働き
動物細胞において、タンパク質のチロシン残基のリン酸化が様々なシグナル伝達において重要な役割を担っていることがよく知られている。
当研究室では、チロシン残基のリン酸化に関与する酵素であるタンパク質チロシンホスファターゼ(Protein tyrosine phosphatase, PTP)に関して、以下の研究を進めている。
- 繊維芽細胞の細胞移動を制御するPTPに関する研究
繊維芽細胞の細胞移動などの細胞運動に関して、細胞の細胞外基質への接着、アクチンフィラメントの動的制御等を介して
細胞の移動が制御されている。
細胞質型チロシンホスファターゼであるPTP-PESTがこれらを制御しているが、当研究室はこれらの制御にはPTP-PESTの酵素活性が制御される39番目のセリン残基のリン酸化が重要であることを明らかにしてきた。
そこで、39番目のセリン残基のリン酸化に関与するタンパク質キナーゼ、脱リン酸化するタンパク質ホスファターゼの同定を試みている。
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マスト細胞におけるFcεRI架橋シグナルを制御するPTPの解明
マスト細胞は、高親和性IgE受容体FcεRIを介して抗原(アレルゲン)刺激を受容し、その情報を細胞内へ伝達することで、各種サイトカイン・ケモカインの転写を誘導するとともに、分泌顆粒に含まれる炎症性メディエーターを細胞外へ放出する(脱顆粒)。
これらのシグナル伝達の初期段階では、複数のチロシンキナーゼの活性化により、標的タンパク質のチロシン残基のリン酸化が誘導される。このリン酸化は、下流のシグナル伝達において中心的な役割を担っている。
本研究では、マスト細胞におけるこれらのシグナル伝達を制御するタンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)に着目し、その機能の解明を目的としている。
このようなアプローチにより、PTPの多様な機能の解明を進めていきたいと考えています。