【第17回】地域通貨とは何か?

今日は、お金に関して考えてみよう。

@まずは、地域通貨に焦点をあてる。

その点について考えることは、私たちの経済活動を問い直してみることになる。

Aミヒャエル・エンデに沿って、お金の問題について考えてみたい。



アバ "Money, money, money"

一晩中働いて、一日中働いて、
この払わなくちゃいけない伝票のために
悲しくなんかない
そしてそれでも、私自身のための
雀の涙すら残ったためしがない
これって最悪
夢の中では計画があるの
もしも金持ちの旦那をもらったら
働かなくてよくなるわ、
周りをバカにして舞踏会を開くの

お金、お金、お金
楽しいに違いない
お金持ちの世界の中は
お金、お金、お金
いつだって晴れ
お金持ちの世界の中は
アーアー
あらゆることができることね
もしもちょっとだけお金があったなら
これが金持ちの世界
これが金持ちの世界

そんな男はなかなか見つからない、
でも私は彼のことを頭から振り払えない
悲しくなんかない
そしてもし彼がいつかフリーであっても、
絶対に彼は私を好きにならない
それって最悪
だから私は離れなければ、私は行かなければ
ラスベガスへ、モナコへ
そして、ギャンブルで大勝ちして、
私の人生も全く違ったものになるのよ




そもそも、お金とは何か、お金の何が問題なのか?


お金の問題点



お金を使うことの問題に気づいた人は今、新しい取り組みを始めている。




@地域通貨


地域通貨団体のメンバーが、「提供できるもの」と「提供したいもの」に
関して情報を共有し、交換に際しては、団体独自の「計量単位」を使用して、
それまでになかった
交換の経路を創造することを促す。

地域通貨の仕組みを導入することによって、それまでは流通しなかった
物とサービスが動き出す

市場で売買するのが難しい取引が行われる。

市場では、商品と貨幣の交換が目的となるのに対して、
地域通貨の場では、
価格交渉やちょっとした会話など、
相互の「人格的な交流」が多く含まれるようになる。

地域通貨の実践は
「人格的な交流」を活性化させようという意図を持つ。

それだけではない。

地域通貨は、貯金できない。

通貨が循環するように仕組まれている。



地域通貨
屋久の水



屋久島では、土地の緑を大切にし、
お互い助け合い、つながりを深めてゆく
という理念のもと、地域通貨「屋久の水」を、
通帳形式によって、流通させている。


屋久の水



日本の代表的な地域通貨、アトム通貨

貨幣の単位は、「馬力」。




地域通貨の試み


LETS
(Local Exchange Trading System)



1980年代にカナダ西部・バンクーバー近郊で、
マイケル・リントンによって開始された。

中央銀行によって発行される法定通貨は、
炭鉱の閉山などによって地場産業が無くなると、
地域内での物やサービスをするときに、
法定通貨が不足するという事態が発生する。

しかし、LETSでは、
地域内で生産できる物やサービスに関しては、
地域独自の交換手段を用いることで、
自給自足できると考えた。



交換クラブ



アルゼンチンで1995年に誕生した。

かつては、日本のフリーマーケットのような形であった。

その後、現金収入に乏しい人たちの生活向上の手段として急速に発達し、
一時期は600万(総人口の6分の1)のメンバーに膨れ上がった。






A問題としてのお金

これとは別の観点から、地域通貨について迫ってみよう。

そのことは、お金について、私たちの経済について、考えてみることに他ならない。



NHK
特集から学ぶ




エンデの遺言
〜根源からお金を問うこと〜




337 KA95(本館4階和)


パート1


・ドイツの作家エンデは言う。

環境、貧困、戦争、精神の荒廃などの現代の問題の根源に、お金の問題が潜んでいる

お金は、最初は交換手段として発達したが、
資産としてのお金は流通せず、それが投機対象となり、
実態がなくなる
という多機能性を帯びている。

・お金は、鉛から金を作る錬金術のやり方に似ている。

通貨を印刷し、利子がそれを増やし、それが独り歩きして、環境やモラルに影響する

・いいものを作りだすことにコストの阻害があり、
すべてがお金によって支配されている。

・かつての教会に変わって、銀行などのビルがそびえたつように、
お金が神に変わった。

マネーゲームを正当化することに対して、いま、正面から問題が付きつけられている。




パート2

シルビオ・ゲゼルは、お金は老化し、消え去らなければならないと主張した。



・彼は、貨幣制度と社会秩序には深い関わりがあると主張し、
「自由貨幣」を提起した。

・オーストリアのヴェルグルでは、世界恐慌時代に財政破綻から自由貨幣を採用した。

お金はため込まれ滞っていたため、町議会は、地域通貨を発行することを決めた。

・「労働証明書」(流通し続ける通貨)が作られ、住民に与えられ、経済が再活性化した。

・その後、1933年9月になると、オーストリア政府は自由貨幣を禁止した。

・アメリカでも1930年代に、3000以上の地域通貨が作られた。





パート3

・通貨とは、
私たちの使っている政府発行の通貨だけではない。

・1930年代のアメリカでは、
地域通貨が用いられて、経済が活性化した。

・いま、共産主義も市場競争原理主義もともに袋小路に入り込んでしまっている。

・ゲゼルの自由貨幣の実験精神を考え直さなければならない。

・『モモ』のなかで、
灰色の男たちは、時間を貯蓄することを主張し、
人びとから豊かさを奪っていった






「時間貯蓄銀行」の灰色の男たちによって、
人びとの時間が盗まれてしまい、余裕を失う。

少女モモは、奪われた時間を
取り戻し、人びとを幸せにする
不思議な力を秘めていた。


ミヒャエル・エンデ『モモ』




働いても働いても豊かにならないという現代社会の現実がある。

・イサカでは、1991年からイサカアワーという地域通貨を発行している。

・住民は、ドルと並行して、イサカアワーを使っている
(1アワー=10ドル)。





パート4

・ドルは資本家に取られてしまうけど、イサカアワーは自分たちのもとに戻って来る。

・行政も、地域経済を支えるイサカアワーの価値を認めている。

・ジョンとタリは、地域の人びとの出資(地域通貨含む)によって、
農業経営を成功させた。

・スミス氏は、お金のために時間をかけるのではない生き方を追求できると言う。






ふたたび、「贈与の霊」について

地域通貨
は、「贈与の霊」のようなものを伴っているのではないか?

それは、一ヶ所にとどまって、富の蓄積を生み出すことがない。

貨幣が循環することで、人と人のつながりをつうじて、幸福が生まれる。

地域通貨だけが、「贈与の霊」ではない。

プナンのシェアリング(共同所有)もまた、「贈与の霊」的な考え方に基づく。





そこには、個人所有の考え方は希薄である。

人は、もらったものを惜しげもなく誰かに分け与える。

私がお土産として買っていった時計は、すぐに別の所有者に渡される。

さらには、別の所有者に・・・

プナンのモットーは、

「ケチはダメ
(amai iba)

つまり、寛大であることが重要なのである。

贈与されたら、惜しみなく分け与えなければならない。

そのことを最も実践した人が、最も尊敬される。

その人は、ふつうは、最も質素だし、もっともみすぼらしい。

彼は、人びとの尊敬を集めて、リーダー(ビッグマン 
lake jaau)となる。

金ピカの車に乗り、いい背広を着ている日本のリーダーとなんとちがうことか!

プナンには、「贈与の霊」の考え方はない。

しかし、彼らのやり方もまた、物に「贈与の霊」があるかのように、
物を滞らせることなく、循環させるやり方なのである。



まとめにかえて

現代の問題の根源に、
お金の問題がある。

お金が資産価値となり、投機対象となり、マネーゲームが横行する。

ため込まれ、滞っているお金を流通させるために考案されたのが、自由貨幣であった。

自由貨幣の理念を受け継いで、現在の地域通貨が作られた。

地域通貨は、お金を循環させることで、地域の経済を滞ることなく活性化させ、人と人のつながりを取り戻す。

私たちは、いま、なぜ仕事をするのかとういうことを自ら問うとともに、

交換のうちにある「贈与の霊」
について深く考えてみなければならないのではないだろうか。



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