【第21回】飲み会、コンパの文化人類学

今日の講義では、

前半で、通過儀礼の<過渡>の側面に着目して、
儀礼について考えてみたい。

後半では、<仮面儀礼>の事例を取り上げて、
そこでいったい何が行われているのかを検討してみたい。



Lionel Richie
All Night Long



【コミュニタス】


ヴィクター・ターナーは、通過儀礼の<過渡>の側面を、
境界状況(liminality)と捉えた。

境界状況においては、日常における秩序がなくなり、
人はあいまいなどっちつかずの状態に置かれる。

そうした状況にある人の特性や存在も、また曖昧で不確実である。

その期間は、
人は、それまでの一切の社会的な地位から
解き放たれて、何者にも拘束されない状態
となる。

固定的な役割や地位などで構成される日常の秩序とは対立する
羽目を外した混沌状況をターナーは、
コミュニタスと呼んで、
儀礼の<過渡>の局面の特徴であると分析した。



ヴィクター・ターナー(1920-83)




儀礼における蕩尽

人は、秩序立った日常だけを生きつづけることはできない。

それは、構造化され、統制化された時空間である。

日常の秩序とは対立する羽目をはずした非日常を経験することで、
ふたたび、活性化した状態で新たな日常を生きることができるようになる。


羽目をはずすとは、エネルギーをとことん溜め込んでおいてから、
あるときに、一気に破壊して、目くるめく陶酔や快楽を味わう、
すなわち、
蕩尽することでもある。


これまでのまとめ

日常の秩序が保たれた状態は継続すると硬直化し、
活力を失って腐敗する傾向がある。

日々のルーティーンワークの繰り返しが続くと、
人は、リフレッシュしようとする。

コミュニタス状態は、日常を破壊するのではなく、
むしろ刺激し、それを再活性化させる。


そうした状況において、通常の社会関係や階層秩序が
一時的にないこととされ、平等で、打ち解けあった人間同士のふれあいの場が生み出される。

なぜ、サークル、ゼミなどでコンパをするのか?

コミュニタス状況をつくりだすため


酒が入ると
非日常がやって来る。




 政治的、法的、経済的に構造化された階級的で体系的な
社会様式を基礎とする日常から解放された
未組織・未分化な社会様式を基礎とする

日常的な時間・空間
を作り出し、
そのことをつうじて再活性化された、
新たな人間関係・社会関係を構築する
ため



中学高校入学後
の集団訓練

中学や高校に入学したてで、だれも新しい環境になじめず、
小学校や中学校のときの楽しかったことや親しかった友人のことが思い出される。

この時期に、寝食をともにし、苦労をともにすることによって
生み出される連帯感は、新しい環境で新しい友人や教師と
関係を取り結ぶ上で非常に効果的である。

大学の新入生合宿






【仮面儀礼】





仮面とは?


・人面、動物面、神面などがある。

コミュニケーションの座としての人間の顔

コミュニケーションするためには、
視線を合わせ、言葉を発し、相手に聞いてもらう

・髪を顔の前に垂らすことが、仮面の起源であると、
レヴィ=ストロースはいう。

・社会的な衣装を脱ぎ捨てた後に、
人は、他界と自由に交信できる状態になる。

・仮面は、人間のコミュニケーションの
方向を替え、聖なるもの、超自然的なものに向かわせる。


そのため、
仮面は、人間が超自然的存在と
接触するための手段
となる。

・仮面とは、生者による装着性を特徴とする。
*装着されない仮面は、偶像・彫刻

・仮面とは、変身のための道具の一つ(仮装・・・)

・仮面の機能

@.防衛手段 霊的な力の侵入を防ぐ超自然的なバリアとして
例)シベリアのシャーマン
A.超自然的存在の化現 神、精霊などを表わす
B.象徴作用 仮面をつけるのは選ばれた者のみ
C.支配の手段 仮面は、恐怖感を他者に及ぼす



【秋田県男鹿半島のなまはげ




【インドネシア・
東カリマンタンのバハウの仮面舞踊】


Dance called the Hudoq Bahau Masked Dance.
Usually this Kalimantan Timur dance is
danced by the Dayak Bahau and Modang
from upriver of Mahakam in Kabupaten Kutai Barat..
This ritual dance is to chase away
the pest that disturb the plantation
in order to receive a good harvesting




【西アフリカ・マリのドゴンの仮面儀礼】

12年に一度祖霊の祭りが行われる。

男たちは、洞窟にこもって仮面を製作する。

その仮面には、死者の霊が宿るとされる。

生者は、その仮面を着用し、死者の霊の力を
利用することで、悪霊を追い払う。

また、創世神話のなかに語られる
神などもまた招かれて、踊りが披露される。

儀礼後、死者の霊たちは、正式に祖霊として祀られる。







マルセル・グリオール
『青い狐:ドゴンの宇宙哲学』



マルセル・グリオール
『水の神:ドゴン族の神話的世界』




【カメルーン・
エジャガム社会の仮面儀礼】
(ビデオ使用)

クロス川流域の熱帯雨林の農耕民、9万人


◆結社(society)の存在

 

ンベ(豹)
という名の結社

もっとも有力な組織
法律もある、階級制

仮面ダンサー
椰子酒の飲み方が違う
秘密を共有することで、結束する。

秘密結社
楽しみを分かち合う場所

他方、
年齢組(age set)は、
全ての人が加入する
=エジャガム社会の社会組織の基礎


◆老人ジェイコブの死

良い死 ・妖術ではない死
悪い死 ・ンジョム(呪薬)にとらえられる=妖術による死=足が腫れて死ぬ。

・ブッシュにおける死、落雷死


◆オクン・ムベ(結社の仮面)
=死の再生を祝う儀礼
葬儀で仮面儀礼のパフォーマンスが行われる
仮面は、社会的重要な人物の場合に用いられる。
(ステータスシンボルとしての意味)


◆託宣(oracle)

パフォーマンス結社による仮面儀礼
=託宣パフォーマンス
(神のお告げ)

オバシンジョム

・仮面を被る人物が秘密ではない

・人の他人への嫉妬から起こる
妖術を探して歩く

・パフォーマンスは、見世物としての側面

 *へたであれば、結社の権威が失墜する

呪術(妖術)信仰、見世物、パフォーマンス
の要素が不可分に結びついている
エジャガムの仮面儀礼は、共同体の安定を目指す。

他人への嫉妬から起こる妖術を統制し、平準化する。

共同体の人間関係を調整し、コントロールする役割








佐々木重洋著
『仮面パフォーマンスの人類学』




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