【第24回】呪術とは何か?
今日は、呪術について学ぼう。
呪術は、恨みや妬みといった強い情念、何かを何としても叶えたい
という深い欲動と関わる人間=文化の発するじつに興味深い現象である。
以下では、
@
呪術とは何かを示した上で、
A
呪術を分類しながら、その特徴の面から検討し、
B
ブードゥー邪術との関わりからゾンビについて紹介する。
コメント パラノーマルの映像(超常現象)を見て、「夜寝れなくなったらどうするんですか(泣)」、あれは見る必要があった映像なのかどうか、説明が欲しかったというコメントがありましたので、再度、説明しておきます。 まず第23回で、いわゆる霊経験というものが、人間が認知進化の過程で獲得した能力であり、それは、ある種の危険を察知する能力でもあり、また、人間は、目に見えない存在や力との関係において世界を組み立ててきたという話をしました。向こう側の世界、他界というのは、したがって、私たちの人間が感知する能力に他なりません。何か見えないものが見えたという経験は、その意味で、「積極的に」評価してみる必要があるということです。裏返して、怖い、恐ろしいということだけで閉じこもっていれば、宗教の世界に入り込むことはできません。それは、要は、神がいる世界、死んだ人々が住むと想像される世界、通常は目に見えない存在が跋扈する領域です。 第24回で取り上げたのは、怪奇現象、心霊写真です。これは、見せる前に述べたように、あちら側の存在や現象が映し出されているように見えます。怖いと感じるかもしれないし、私たちは、そうした感情をすぐに克服することは難しいかもしれないですが、とりあえず、括弧に括ってみるようにしてみてください、と述べたように記憶しています。そうして眺めた場合には、それをどういうふうに捉えているのかということが見えてくるはずです。映っているはずのものが映っていることに、私たちは背中がぞっとするかもしれません。私たちはそのときどうするでしょうか?起こるはずがないものとして、それは、合成された映像だとして、科学的な証拠立てをするかもしれません。そうして、「ないものだ」と蓋をしてしまえば、恐怖心は克服できるのかもしれません。しかし、もう一方の心霊写真はどうでしょうか?川面に人面が映った写真のなかで、人面の隣にいる人の家は水浸しになったと言います。その後、祈祷師にお祓いをしてもらって、今は何の霊障もなくなったのだとも言います。こうした心霊写真をめぐる信仰や信念が共有されているという事実こそが、ここでは、重要なのです。文化人類学の宗教研究が取り組むのは、そういう事実なのだから。 |
【呪術とは何か】
呪術を駆動させる人間の感情
妬み、恨み(あるいは愛おしさ)などの感情が呪術の背景にある
‖
社会関係のもつれ、乱れがあることが、呪術という文化を支えている。
「その出来の悪いアシスタントは、あなたを怨んでいたのだ、たぶん。」
呪術 magic
定義
ある目的のために人間をこえた力に働きかける方法・技術
=特定の対象にはたらきかけて望ましい結果を手に入れようとする行為
MAGIC
因果連関のなかで、望ましい結果を得るために行われるものは、
すべて呪術
わたしたちの身の回りには、呪術のなんと多いことか!
呪術は、悪い結果だけではなく、良い結果をもたらすために行われることもある
日本語の「呪」の字は、その意味で、問題含み。
因cause | → | 果effect |
除夜の鐘 | → | 罪業消滅 |
初詣 | → | 開運 |
塩を玄関に盛る | → | 縁起をかつぐ(幸運) |
血液型・星座占い | → | その日の幸運のアドバイス |
芸名を変える | → | 運の向上 |
合格祈願グッズを身につける |
→ | 受験校合格 合格祈願お菓子 |
授業で、一種の呪術が横行している。
因 | → | 果 |
今、地球環境が危ない!! | なるほど、なんとかせねば! | |
社会に出たら、英語は必要だし、コミュニケーション能力はすこぶる大切だ! | うわ〜、英語頑張ろう、コミュニケーション勉強しよっと。 |
その意味で、優秀な教師とは、
現代の呪術師
である(のか!)。
図書館には、たくさんの本が並んでいる。
本には、人の心に突き刺さる
呪文
が詰まっている。
図書館は呪術の館ではあるまいか!
愛の呪術 「仕事&恋愛に効く魔法の言葉60」 『SPA!』 ↑ 呪術 呪詛(curse) |
After one whole quart of brandy
Like a daisy I awake
With no Bromo Seltzer handy,
I don't even shake.
Men are not a new sensation;
I've done pretty well, I think.
But this half-pint imitation
Put me on the blink
I'm wild again
Beguiled again
A simpering, whimpering child again
Bewitched, bothered and bewildered am I
Couldn't sleep
And wouldn't sleep
Until I could sleep where I shouldn't sleep
Bewitched, bothered and bewildered am I
Lost my heart but what of it?
My mistake I agree.
he's a laugh, but I like it
because the laugh's on me.
A pill he is
But still he is
All mine and I'll keep him until he is
Bewitched, bothered and bewildered
Like me.
【呪術の分類】
@
エヴァンズ=プリチャード
による呪術の分類
(人間の意志の有無による)
妖術 witchcraft | 邪術 sorcery |
本人の知らないうちに危害を加えてしまう呪術 | 道具や技術を用いて行う呪術 |
妖術師 witch | 邪術師 sorcerer |
自分の体内に持っている生得的なもので人を呪う者 | 意図的になんらかの道具や技術を使って人を呪う者 |
中東の邪視(evil eye)信仰は妖術
その能力を持っている人が凝視するだけで食物を腐らせたり、人を病気に至らしめる
Aジェイムズ・フレイザー
による呪術の分類
(形態による区別)
@ 類感呪術 homeopathic magic 模倣呪術 imitative magic |
A 感染呪術 contagious magic |
現実のものの代わりに、 似たものを持って来て それを操作する呪術 (似たものは似たものを生み出す |
かつて接触したり、 全体の一部であったり、 あるいは、 原因になっていたものは、 そうでなくなった後も、 効果を及ぼし合うと考えられる呪術 |
例1) 黒い煙を出すことで 雨雲を発生させよう とする雨乞い |
例) 相手を傷つける目的で 毛髪や爪を燃やしながら 呪文を唱える |
例2) 恨みを持つ相手のような ワラ人形に釘を打ち込んで 相手を病気にしようとする呪術 |
フレイザーは、『金枝篇』のなかで、
呪術師は誤っていると述べている。
呪術を信じている人たちは、類似にせよ、接触にせよ、
いずれも観念上で連想を引起すに過ぎないものを
因果関係ととり違えているのだと。
しかし、呪術師は類似と接触を因果ととり違えているのだろうか?
↓
類似するとされるものは実物とは似ていない、
もっと似せられるはずだ。
『地獄の黙示録』 『金枝篇』は、 フランシス・コッポラ監督の映画 『地獄の黙示録』(1979)の進行に大きなヒントを与えた。 ベトナム戦争の時代、ウィラード大尉は、 カンボジアで王国を築いたカーツ大佐の暗殺の指令を受ける。 熱帯のジャングルのなかに カーツを探索するウィラードは、 次第に、カーツの思想に揺さぶられてゆく。 映画はコンラッドの『闇の奥』を 下敷きにしながら、王殺しという 『金枝篇』のテーマを取りいれている。 カーツの住まいに入ってゆくシーンでは、 『金枝篇』が床に置かれている場面を 見逃さないようにしよう。 ウィラード大尉は、森の王国に幽閉され、 逡巡を繰り返した後に、 やがて、カーツ大佐の殺害を決行する。 カーツにマーロン・ブランド、 ウィラードにマーティン・シーン、 デニス・ホッパーもいい味出している。 ベトナム戦争映画としては、 『ディア・ハンター』と並ぶ傑作。 私はこれを少なくとも5回は観た。 |
なぜ畑で糞をしてそのまま しておいてはいけないの? 妖術師は家を焼かれて、 そのまま葬り去られる 彼女は魔女なのか 中世の魔女裁判 日本の呪術 ワラ人形で人を呪う |
【ブードゥー教のゾンビ】
White Zombie(1932)
A young man turns to a witch doctor
to lure the woman he loves,
but instead turns her into a zombie slave.
ウェイド・デイヴィス
『ゾンビ伝説』
ウェイド・デイヴィス
『蛇と虹』
ハイチでは、ヴードゥー教の邪術に
よって死んだ人間が墓から生き返らされ、
ゾンビにされ、奴隷として売られるという信仰がある。
いったん死んだ人間がどのようにして生き返るのか、
ゾンビとは何かの謎を探るべく、ウェイド・ディヴィスという
人類学者兼民族植物学者がハイチに赴いた。
彼の結論は次のようなものだった。
ヴードゥー教の邪術師は、死体の一部や動植物を混ぜ合わせて
テトロドトキシン(フグ毒)を含む毒薬を調合し、
狙った犠牲者の傷口や口から体内に入り込むようにする。
フグ毒は身体の新陳代謝を極度に低下させるため、
犠牲者は死んだものとして埋葬される。
その後、犠牲者は墓から掘り起こされ、
記憶喪失を起こす薬物を与えられゾンビにされる。
一連のゾンビ化は無秩序な犯罪行為ではなく、
ハイチ社会の規範を破った者への共同体の制裁の意味がある。
(松岡悦子「ヴードゥー・デス」
『文化人類学 最新熟語100』より)
|