動物殺しの比較民族誌研究

科研費基盤研究(A)(海外学術調査)動物殺しの比較民族誌研究(平成24年度~平成28年度)

KAKEN 科学研究費助成事業データベース

本研究プロジェクトは、科研費・基盤研究B(海外学術調査)『人間と動物の関係をめぐる比較民族誌研究:コスモロジーと感覚からの接近』(平成20~23年度、代表:奥野克巳)を引き継いでいる。その研究は、現代産業社会における人と動物の関係の土台にある「人間中心主義」を見つめ直すために、地球上の諸社会において、人間中心主義には回収されない、人と動物の関係を探ることを目的としていた。感官をつうじて、人がいかに動物と接触し、動物がコスモロジーのなかに、どのように位置づけられているのかに関して、現地調査研究を進めてきた。加えて、人と動物の間にはコスモロジーには還元することができない、「ままならぬ他者」としての動物との、身体を介した「いまとここ」における、一回的な身体的な相互交渉を「駆け引き」として捉えることを試みた。その成果は、『人と動物、駆け引きの民族誌』(PDF)(はる書房、2011年9月)として、すでに刊行されている。

人と動物の「駆け引き」の多くは、狩猟・供犠・闘牛・動物実験などの「動物殺し」を伴うものである。ここに、人間と動物の関係のなかに、動物殺しが主題として浮上する契機が準備されていたのだといえる。動物殺しの現場では、動物は、絶叫・流血・悶え・泡吹きなどの反応を示し、それを人は五感を以って体感し、その体感は、人に何らかの情動を惹き起こす。狩猟や屠畜など動物利用のうちの少なからぬ様態は、そのように、動物殺しを伴うものである。しかし、人と動物の関係に関して、これまで膨大な研究蓄積を行ってきた生態人類学でさえ、動物殺しそのものには、特段の注意を払ってきたとはいえない。さらには、動物殺しを扱った研究は、文化人類学においても乏しい。本研究プロジェクトの目的は、とりわけ、動物殺しに焦点を当てて、人と動物の関係に関して、比較民族誌の観点から研究することである。