マルチスピーシーズ人類学研究会第14回研究会 2017.12.25.立教大学 池袋キャンパス


第14回研究会
二元論を考える


日時 12月25日(月)10:00~17:00
場所 立教大学12号館2階
ミーティングルームA,B MAP
備考 クローズド研究会です。
奥野克巳 katsumiokuno[]rikkyo.ac.jp
     []を@に代えてください。

趣旨
「種」の問題を考えるにあたっては、人間/動物、文化/自然といった二元論思考に深く囚われているということが、これまで多くの研究者によって指摘されてきている。人間を主体、動物を客体として位置づけるデカルト主義的な二元論は、例えば、ウィラースレフによるユカギールの狩猟民族誌(『ソウルハンターズ』亜紀書房・近刊)の中で徹底的に批判されている。狩猟者が、世界の中に被投された「世界―内―存在」として、狩猟実践の過程で、人間が「動物でもなく、動物でもなくはない」事態を経験するさまが描きだされている。人々の日常の実践的な関わりにおいては、自己と世界は切り離すことはできないのではないか。二元論思考は、主/客、心/身、生/死、聖/俗、男/女など、私たちの身の回りに広く、深く浸透している。本研究会では、二元論思考をめぐって、倫理学、宗教学、人類学、アート、演劇、文学などのさまざまな分野から意見を出し合って、問題の広がりを確認し、課題を掲げ、それらを究明するための手がかりを探ってみたい。

10:00~10:20 イントロダクション~古典的二元論、身の回りの二元論 奥野 克巳(立教大学・教授)
10:20~10:40 環境倫理学から二元論を考える            戸張 雅登(一般社団法人・日英協会のジュニア・コミッティ
10:40~11:00 沖縄の民間巫者の世界から二元論を考える       佐藤 壮広(立教大学・兼任講師)
11:00~11:20 性風俗世界から二元論を考える            熊田 陽子(首都大学東京・客員研究員)
11:20~11:40 道具から二元論を考える               山崎  剛(南山大学・非常勤研究員)
11:40~12:00 仏像から二元論を考える               君島 彩子(としまコミニュティー大学講師、仏教文化資源研究会事務局長)
12:00~12:45 昼食 休憩
12:45~13:05 制作から二元論を考える               上妻 世海(文筆家・アートキューレーター)
13:05~13:25 ファシリテーションから二元論を考える        佐々木 薫(INTEG・代表)
13:25~13:45 演劇から二元論を考える               嶽本あゆ美(メメントC・劇作家・演出家)
13:45~14:05 反奴隷制思想から二元論を考える           山本 洋平(明治大学・専任講師)
14:05~14:25 文学の言葉から二元論を考える            山田 悠介(東洋大学・非常勤講師)
14:25~14:45 休 憩
14:45~15:30 質疑応答                      参加者全員
15:30~17:00 総合討論                      参加者全員


第14回研究会レポート


 最初に、二元論思考の枠で拾い集めた思想の断片が紹介され、その後、各発表者から順に話題提供がなされた。戸張氏は、環境倫理学の観点から、創世記を経てギリシア哲学の流れにおける自然と人間の二元論を取り上げた上で、ダーウィニズムによって自然と人間の連続性が発見された後の、20世紀後半のアメリカにおける環境倫理を論じた。佐藤氏は、医者半分、ユタ半分とされる沖縄の病いをめぐる二元論を取り上げ、ユタには治す、治されるという二項の関係ではとらえきれない部分があることを強調した。性風俗それ自体は、こちら側の日常に対する向こう側の世界なのか、また、性風俗は「善悪」という単純な二元論に回収されえないと論じたのは、熊田氏である。続いて山崎氏は、二元論で考えるのが有効である面と、二元論を考えずにたんに用いるだけの面がある(ハイデガーの「用具存在論」のようなもの)という二元論の二面性に着目した。君島氏は、宗教性と物質性が切り分けられないという問題構制を、にぎり仏の制作の中に見ようとした。上妻氏は、近代絵画や小説を取り上げて、近代に公と私が切り分けられたことと、逆に、そもそも公と私が分けられるものでないさまを、人類学や人間の情、演劇に影響を受けた移人称小説などを例にあげて説明した。佐々木氏は、ファシリテーションとは、あれかこれかという合目的的な活動ではなく、第3の道、第4の道を見いだす活動であることを示した。虚構とリアル、演者と観客という演劇の二元論を主題化したのは、嶽本氏であった。アメリカは、南北戦争の時代に、奴隷制と反奴隷制、白人と黒人と二項によって二元論の王国として誕生したと見る山本氏は、19世紀に政治論と自然描写でそれに抵抗したヘンリー・ソローの思想に着目した。山田氏は、石牟礼文学に焦点を当てて、表現形式という仕掛けによって、現実から文学テキストの中へのトランスポジションが可能になり、ことばによって文学が力になりうることを示した。全員の発表後、それぞれの発表についての質疑応答がなされ、活発な討議が行われた。



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