マルチスピーシーズ人類学研究会第15回研究会 2018.1.27~28.立教大学 新座キャンパス


第15回研究会
『環境人文学』I,II 合評会・検討会

日時 2018年1月27日(土)12:30~1月28日(日)16:00
場所

立教大学新座キャンパス 太刀川記念交流会館

(最寄り駅:東武東上線志木駅)

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備考 クローズドな研究会です。
問い合わせがある場合は;
奥野克巳 katsumiokuno[]rikkyo.ac.jp
山本洋平 yohei[]meiji.ac.jp
[]を@にかえてください。
趣旨
 <アントロポセン>、<プラネタリティ>、<ディープ・タイム>、<ガイア>など、一昔前の<グローバリゼーション>という言葉に変えて、次々に繰りだされる地球および地球環境をめぐる新しい言葉の数々。それらは、自然科学のみが取り組むべき課題ではなく、今日、人文・社会諸科学が総力を挙げてあたるべき課題として新しい世紀になって急浮上してきたのである。そうした流れと軌を一にして、地球の生態環境だけでなく、私たちヒトが暮らす周囲にある自然や環境をも研究の視野に入れた人文科学の学際的な領域として、「環境人文学(Environmental Humanities)」がゆるやかに形成されてきた。わが国における環境人文学はこれまで、環境文学(エコクリティシズム)の研究によって主導されてきている。2017年4月に、環境文学を中心に、『環境人文学I 文化の中の自然』および『環境人文学II 他者としての自然』が、勉誠出版から刊行された(ともに、野田研一・山本洋平・森田系太郎編)。

 本合評会・検討会では、二日間にわたって、この2巻本をめぐって、意見・情報交換と討議を行う。初日には、ブックレヴューを行う。二日目には、人類学とその隣接領域という外側の視点から評価と展望を示した上で、環境文学を環境人文学の視点から再展望し、最後に、この学際領域の抱える課題とは何か、今後どのような展望が可能かなどに関して、参加者全員で総合討論を行う。

<1月28日:Day 1>
【イントロダクション】
12:50~13:00 趣旨説明 野田研一(立教大学名誉教授)、山田悠介(東洋大学非常勤講師)

【ブック・レヴュー】
第1部
13:00~14:00 チェア:山田悠介  
[1-1]第2巻III 「これからの環境人文学」レヴュワー:豊里真弓(札幌大学)

第2部
14:15-16:45 チェア:結城正美(金沢大学)
[1-2]14:15-第1巻I 「場所と記憶のあいだ」レヴュワー:北條勝貴(上智大学)
[1-3]15:05-第1巻II 「文化と言葉のあいだ」レヴュワー:山田悠介
[1-4]15:55-第1巻III「自然と生きもののあいだ」レヴュワー:中村優子(東京都市大学非常勤講師)
                             中川直子(立教大学大学院)
第3部
17:15~18:30 チェア:浅井優一(東京農工大学)
[1-5]17:15-第2巻I 「人間と動物のあいだ」レヴュワー:山田悠介
[1-6]17:55-第2巻II 「日本とアメリカのあいだ」レヴュワー:戸張雅登(日英協会ジュニア・フェロー)

夕食  19:00
懇親会 20:00~

<1月28日:Day 2>
【人類学セッション】「人類学とその隣接領域(人類学、神話学、地理学、アート)による『環境人文学』の評価と展望」
[2-1] 09:00-12:00 チェア:奥野克巳(立教大学)

ディスカッサント
近藤祉秋(北海道大学)、山田祥子
相馬拓也(早稲田大学)、石倉敏明(秋田公立美術大学)
上妻世海(文筆家、アートキューレーター)、シンジルト(熊本大学)

12:00-13:00 昼食

【環境文学セッション】
[2-2] 13:00-14:00  チェア:山田悠介
13:00-13:20環境文学を環境人文学の観点から再展望する 話題提供:野田研一
13:20-14:00 ディスカッション

【総合討論】「環境人文学の実践はいかに可能か:「学際」のアクチュアリティをめぐって」
[2-3]14:15-16:00 チェア:山本洋平(明治大学)、奥野克巳、山田悠介

話題提供:森田系太郎(会議通訳・翻訳者)
コメンテータ:小谷一朗(新潟県立大学)
指定発言者:中村邦生(大東文化大学名誉教授)、渡辺憲司(自由学園最高学部長)
討論:鳥飼玖美子(立教大学名誉教授)、宮崎幸子(立教大学大学院)+参加者全員

第15回研究会レポート


 初日は1部から3部に分けて2巻本のレヴューが行われ、多様な論点が取り出された。それらは、以下のようなものであった。エコ・クリティシズムの「波」とは何か、第四波において唯物論的な課題が取り上げられるのはどのような経緯なのか。文芸批評がテキストを扱い、人類学が調査と記述を基礎とする学問だとしても、ものや身体という物質など、人文知はいま同じような課題に目を向けているのではないだろうか。エコ・クリティシズムでは「身体」というテーマは等閑視されてきたが、それは現在「食べる」というテーマとつながることによって、より大きな課題となりつつある。内臓と外臓をめぐる議論。動物から人間、狩猟から農耕・牧畜の食行動。文学において比喩表現とは何か。メタファーやメトニミーが人類にとっていかなる思考かを考えてみることなしに、比喩を含めたレトリックの問題は深めることはできないのではないか。さらに、テキストにおける形式やリズムとは何か。ゲイリー・スナイダー的な惑星思考とアメリカ文学はいかなる関係にあるのか。惑星思考を含め、人新世や地質学的時間は、今日、地球環境を考える時の人文知を大きく方向づけている。人類学では、宇宙人類学も登場してきた・・・というような論点が、順に討議された。

 二日目の午前中の「人類学セッション」では、ディスカッサントのそれぞれの関心や専門領域から論評がなされた。石牟礼道子・野田研一対談の「亡所」が、アンナ・ツィンらによる『傷ついた惑星の生きる技芸』論集との関係で取り上げられ、ジオス、ビオス、アントロポスという「三つの自然」に基づいて今日の人類学や哲学などの議論が整理され、イマニュエル・カントの相関主義批判との関連で「もの」をめぐる問題から出発して今日の人文知の問題が俎上に載せられ、自然科学的な知と人文知の交差が検討された。また、バイオアートの今日的限界、均一化されたナラティヴや環境決定論をめぐる諸問題などが検討された。

 二日目の午後からは、まず、環境人文学という新領域の中で環境文学が再展望され、文学固有の問題を検討することの重要性が指摘され、その後、現在の環境人文学の研究や教育をめぐる欧米の動向が整理・紹介された後に、総合討論が行われた。総合討論では、1980年代に「私」をめぐる問題が大きくクローズアップされた後、今日、その検討がどのようになっているのかというというのが人文知をめぐる大きな問いであるという点が発せられた。議論を世代によって括る世代論は不毛であり、全世代の真正面から行われる議論が重要だという意見も出された。

全体のまとめとして示されたのは、まずは、環境人文学の学問横断的な試みにおいて生じる学問間の「違和感」は実は大切なのではないか、隣接学問と接することで自学問を問い直す機会になるのではないかという点であった。考古学者によって提起された環境人文学の見取り図(IIの結城論考所収)は再検討の必要があるとの意見が多く出された。また、自然や環境と人間という環境人文学のテーマを考える上では、私たちの社会が深く依存している西洋思考の問題、哲学的な課題を掘り下げて検討する必要があるという意見が述べられた。さらには、人類学と文学の間で、R.ネルソンなどを取り上げて共通テーマを追究することや、同一のフィールドを複数の研究者が経験し、互いの感性や知の交差を行うことを今後やってはどうかという提言もなされた。

 この研究会合宿には、全部で26名の参加があった。



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