マルチスピーシーズ人類学研究会第16回研究会 2018.2.26.立教大学 池袋キャンパス


第16回研究会
インゴルド的なるものの人類学的現在


日時 2月26日(月)13:00~17:30
場所 立教大学12号館2階
ミーティングルームA,B MAP
備考 どなたでもご参加いただけます。
座席と資料配布の関係で、2月23日(金)までにご連絡ください。

奥野克巳 katsumiokuno[]rikkyo.ac.jp
     []を@に代えてください。

趣旨  
人類学者ティム・インゴルドの研究活動は、わが国ではこれまで主に、人類学外の領域の研究会で議論されたり、翻訳されて紹介され、浸透するようになった。一方、人類学の中にもインゴルドの理論や着想に近い立場から研究や活動を行ってきた人たちがいる。本研究会では、そのうち、インゴルドのアイデアに拠りながら調査研究を続けてきた人類学者である古川不可知さんと、インゴルド的な構えをもつ人類学的な活動に従事する実践者である山崎剛さん/木田歩さんに、それぞれの関心領域に関して、順に話題提供をしていただく。インゴルドのいう「4つのA」(『メイキング』)のうち、人類学(Anthropology)は、考古学(Archeology)と同じく、「つくられた事物を読み解く学問分野」だったとされるが、そうした学問の見取り図は、この二つの発表をつうじて、すでに崩壊していることが実感されるはずである。二つのプレゼンテーションを踏まえ、その後、「4つのA」のうち、「事物をつくりだす領域」とされる芸術(Art)と建築(Architecture)をバックグラウンドとする二人の専門家からのコメントを交えて、「インゴルド的なるものの人類学的現在」を、マルチスピーシーズ人類学を含む、近未来の人文知という枠組みにいかに位置づければいいのかについて考えてみたい。

プログラム
13:00~13:05
趣旨説明

13:05~14:05
発表1 「シェルパ」と道の人類学
        古川不可知(大阪大学大学院 博士後期課程)
       
【概要】ネパール東部のエベレスト南麓地域を対象とし、天候に応じて絶えず変動する山岳地域の環境下において歩くという実践のなかに立ち現れる「道」のありかたを、ティム・インゴルドの歩行論および天候世界の概念を援用しつつ考察する。

14:05~15:05
発表2  人類学から「学問」を引いてみる:「研究」することのほかでもありえる人類学の道
        山崎剛(南山大学人類学研究所 非常勤研究員)/木田歩(南山大学人類学研究所 非常勤研究員)        

【概要】発表者が所属するホモ・サピエンスの道具研究会は、人間を超えたものとしてある「道具」に注目することで実践的な活動を始めた。実践をきっかけに、「研究」することそのものを見つめ直すことになったが、この発表では、インゴルドが考える人類学という「(反)学問」との関係についても考えてみたい。

       
休憩

15:20~15:50
コメント1 上妻世海(文筆家、アートキューレーター)

15:50~16:20
コメント2 柄沢祐輔(建築家、柄沢祐輔建築設計事務所 代表)

       
休憩

16:30~17:30
ディスカッション

第16回研究会レポート

 古川氏は、厳しい環境の中で消えては現れるエベレスト地域の山道を取り上げて、人間(シェルパ)と道の関係を調査研究することの意義に触れ、道とは何か、シェルパとは誰か、世界の内にあるとはいかなることかを考察することが研究テーマであることを示した上で、媒質の流れとしての天候世界の中で、道が身体の差異に応じて立ち現われるさまを描きだした。今日トレッキングガイドとして働く「シェルパ」に触れ、人々が流動する環境の中の諸要素と一回的な関係を持ちながら生きていることを明らかにして、道を問うことは自明な世界の成り立ちを問うことであるという見通しを語った。山崎氏からは、生活とともにある研究のあたらしいあり方を探る中で、人類学を中心メンバーとするリサーチ・グループ、ホモ・サピエンスの道具研究会の課題を示した上で、それは、わかりたいというより、わからなくなりたいという動機に基づいて、学問未満のものを対象として、インゴルドよりも、高木正勝や佐藤雅彦に近い活動であるとの考えが述べられた。また、学問とは上の世界であり、その下に広がるのはただ知を用いて住まう者の世界であり、インゴルドに言われなくとも、存在論に実装されるまでもなく、爪を切り、植木鉢を家の中に入れたりするといったかたちで、私たちは日常的に学問の手前で知を用いている。まだ伸びていない人類学の道はいくらでもありうるのではないかという見通しが述べられた。この二つの発表に対して、上妻氏からは、道やインゴルド的なるものというテーマに対して、古川さんのかっちりとした学術発表、山崎さんの学術発表っぽくない何かという、二組のプレゼンテーションが対照的であったという印象が述べられ、それぞれの部分的なつながり状況に目を向けることもできるのではないかという点がコメントされた。柄沢さんからは、そもそも中国の道教的な道の概念と、空間の隙間というほどの意味合いの西洋の道概念は異なるということを視野に入れなければならないというのではないかという点が述べられ、ホモ・サピエンスの道具研究会のやっている試みはすでに美術史の中に事例があり、美術史も取り入れて今後より発展的に活動がなされることが期待されると表明された。口頭発表とコメントを踏まえて、その後、フロアーの参加者と発表者・コメンテータの間で活発な意見のやり取りと議論が行われた。

 第16回研究会には、全部で16名の参加があった。





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