今日、COVID-19の感染拡大防止のための社会的距離化、外出自粛の要請によって、これまでオフィスで行ってきた業務、学校で行ってきた授業をオンライン上で行う、リモートワーク、リモート授業が、にわかに一般化しつつあります。一方で、こうした社会活動のオンライン化、対人機会の減少に伴い、これまで以上に人々の「心のケア」が重要な問題となってくるだろうという予測もあります。しかし、その「心のケア」を行う精神医療の現場にもまた、オンラインカウンセリングなど、ICTを利用した遠隔診療が導入され始めています。ケアを「開く」時代から、ケアが「閉じる」時代へ。対面診療が現実的に困難なものとなった今日、「心のケア」のオンライン化は果たしてどこまで可能なのでしょうか。そして、もしそれが可能だった時――つまり心の治療に物理的な対面が必ずしも必要ではないということが明らかになった時、逆照射されることになる私たちの「身体性」とはなんでしょうか。
精神科医であり、ラカン派の精神分析の研究者として、『人はみな妄想する』、『享楽社会論』、『創造と狂気の歴史』など数多くの著作を持ち、時にラカニアンレフトとして、精神分析理論を駆使した社会批評をも展開する松本卓也。ユタ、魔女、占い師など“野の医者”たちへの人類学的フィールドワークを通じて近代精神医療を相対化した『野の医者は笑う』、デイケアの現場経験の試行錯誤からケア論の新たな地平を切り開いた『居るのはつらいよ』など、ユーモア溢れる筆致で、しかし鋭利に心の問題に迫った数々の著作で知られる臨床心理士・東畑開人。「心のケア」の現場にて「心」の問題を実践的な考察を続けるお二人の対談から、ケアが「閉じる」時代の精神医療の行方、心と身体の「あいだ」についてを学びたいと思います。
【プログラム】
対談:松本卓也(京都大学)×東畑開人(十文字学園女子大学)
司会進行:辻陽介(HAGAZINE編集人)
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