第45回マルチスピーシーズ人類学研究会(オンライン研究会



人類学とマンガ
~民族誌における文字とイメージの覚醒に向けて~
 

日時 2020年6月12日(金)20:00~22:00
形式 オンライン研究会(Zoomによる)
申し込み ・受付 2020年6月8日(月)10:00~
・定員 30名
・Google Formに所定事項を記入の上、お申し込みください。

https://forms.gle/eULQLKumgKPYJU5r9

【趣旨】
東南アジア・ボルネオ島の混交フタバガキ林であるブラガの森に暮らす狩猟民プナンとともに私は、夕闇めがけてアブラヤシ農園に出かけた。獲物は捕れず、森を彷徨った我々は火を焚き、その場で夜を明かすことになった。眠くて仕方がない私は地べたにへたりこみ、枕大の石の上に頭を置き眠ろうとすると、無数の大きな蟻が体の上を這いまわっていて、なかなか寝付けなかった。レインコートで頭からすっぽりと全身を覆って蟻たちの侵入を遮って、何とか眠りに陥ると、どれくらいの時間が経過しただろうか、焚火はまだチョロチョロと燃えていたように覚えているが、夢とうつつのはざまで、シャカシャカシャカシャカという蟻の音が頭の中に大音響で響き渡り、私の瞼には触角を揺すりながら蠢く巨大な蟻たちが映し出された。その時、私は蟻の世界の一員となっていたのである。研ぎ澄まされた夜の聴覚。瞼の奥に映る蟻たち。目を開けていないので、正確にはそれは視覚ではない、人間大の蟻の残像。人類学者のフィールドでの現実とは、多かれ少なかれそのような音やイメージの断片からなっている。

ティム・インゴルドが言うように(『人類学とは何か』)、こうした「取るに足らない」経験を切り捨て、論文執筆に有用なデータだけを取り出して、純化した上で、文字をつうじて語ることに慣れた私たち人類学者は、とても大切なものをフィールドに置き去りにしてきてしまっているのではないか。フィールドでの現実や経験そのものをいかにして語りうるのか、語りえないものを含め、いかに取り上げるのか。そのために、文字だけではなく、他のメディアの可能性を検討しながら、その力を引き出しつつ、来るべき人類学を考えてみようではないか。

 人類学者でありマンガ家でもある、マンガ人類学のパイオニア・都留泰作は、エンタメ作品に触れて、読み手や聴衆が、描かれた世界の特定の断片が心地よいと感じることが、リピート力の高いマンガを生み出す原因であると述べている(『<面白さ>の研究』)。マンガ家にとって、人類学者にとって、世界ははたしていかに描かれるべきなのだろうか。その問いを、根源にまで立ち戻って考えてみたい。マンガと人類学の融合は、いかにして可能なのだろうか。

 この鼎談では、『心の問題』『鈴木先生』『古代戦士ハニワット』などのヒット作品を次々と世に送り出し、『漫画訳 雨月物語』や『火花』などの文学のマンガ化を精密に手がけてきた武富健治を迎え、『あふりこ』(川瀬慈編)で民族誌小説を公表し、『im/pulse 脈動する映像』で印象深い作品を発表してきた映像人類学者・村津蘭、ボルネオ島で30年以上にわたってフィールドワークを行ってきた奥野克巳が、人類学とマンガについて語りあう。司会進行は、ボルネオ島のプナンにも行き、人類学マンガを描き始めたMOSAが務める。

【プログラム】
鼎談:武富健治(マンガ家)×村津蘭(東京外国語大学)×奥野克巳(立教大学)
司会進行:MOSA
(マンガ家)





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