Research
細胞には、オルガネラと呼ばれる膜で囲まれた区画があります。オルガネラは細胞の中で様々な独自の役割を担っていて、細胞の生命活動にとって必須です。また、オルガネラは細胞内で様々な固有の形態をとっています。例えば、核は球状、小胞体は網目状、ミトコンドリアはネットワーク状、ゴルジ体は層板状のように個性溢れる形を観察できます。
では、このような固有のオルガネラの形は
- 「どのように創られているのでしょうか?」
- 「オルガネラの機能にとって重要なのでしょうか?」
私達の研究室では、ミトコンドリアというオルガネラに焦点を当て、その形態の形成機構や生理的な役割を動物細胞と線虫を用いて研究しています。
1)ミトコンドリア形態の形成・維持機構
ミトコンドリアは、細胞のエネルギーであるATPを酸化的リン酸化により産生するオルガネラとして知られています。エネルギー産生の場として以外にも、脂肪酸代謝、リン脂質合成、鉄・硫黄クラスターの形成、細胞内カルシウムイオンの調節、アポトーシス(細胞死)の制御など様々な機能を担う重要なオルガネラです。
そのミトコンドリアの形態は、細胞内に広がるネットワーク状の構造です(図1)。2つのミトコンドリアは融合することで大きくなり、また大きなミトコンドリアは分裂して2つのミトコンドリアに分かれます。この融合と分裂のバランスによって、細胞内のミトコンドリア形態は維持・制御されています。私達はこのようなミトコンドリアの形態に関わる因子を同定し、その機能解析を進めています。
2)クリステ構造の形成・維持機構
ミトコンドリアの内側にはもう一つ膜(内膜)があり、その膜上には多くの呼吸鎖(酸化的リン酸化を司る酵素群)が局在しています。このような場所をクリステと呼んでいます。クリステは内膜がマトリックス側に陥入した構造で、ミトコンドリアの特徴的な内部構造です。しかし、このような複雑なクリステ構造は酸化的リン酸化にとってどのように役立っているのでしょうか?
私達はこのような複雑な膜構造の生理的役割を理解するために、クリステ構造の形成因子の同定・機能解析を進めると共に、クリステ構造の試験管内での再構成に挑んでいます。
3)ミトコンドリアの細胞内運搬機構
ミトコンドリアは細胞内においてダイナミックに動いています。神経細胞の軸索では、細胞体からシナプスへ向かって元気なミトコンドリアが移動し、活性が低下したミトコンドリアは逆に細胞体に戻されます。このようなミトコンドリアの移動には、微小管などの細胞骨格が関与しています。このような細胞内運搬もミトコンドリアの形態を決める大きな要因です。私達は、細胞内でのミトコンドリア運搬に関わる因子の同定とその機能解析を進めています。