

Look29 最期の選択
Designer 児玉耀
私は服を作るという行為と医者が人間を手術するという行為は非常に似通った点があると感じた。服を作るためには布をハサミで裁ち、針と糸で布を縫い合わせ新しい命を布に吹き込む。人間を手術する時もメスで皮膚を切り、処置を施し、糸と針で切開部分を閉じ、人間の命の自然な死に反し新たに命をつなげることが可能だと思った。
そうした服との関係からこのコンセプトを選んだ。服の縫製技術も医療技術も格段と進化し、新しい服が生まれバリエーション豊富になる。医療も昔に比べ治る病気も増えている。しかし私はこういった風潮が必ずしも良いとは思えない。服で言えばバリエーションが増え、服の選択肢は増える。しかしものが大量に溢れて本質的に何が自分にとって良いものだったのか霞んでしまうのではないか。医療では病院で管をつながれ点滴で栄養を摂取してまで延命することが果たして患者本人の最善なのだろうか。家で家族とともに過ごした方が幸せかもしれない。何が正しい答えなのかは分らない現代ならではのシビアな問題を取り入れてみた。
白いコートは白衣のイメージで、銀色のビーズ刺しゅうは一粒一粒糸と針で縫いつけ、服と医療の作業の類似を表現している。ビーズの配置は人間の血管をイメージしている。銀色ということで生命の暖かさは感じられず、生命の終盤といったイメージをもたせた。
裾からのシフォン素材は人間誰しも最新医療に頼りたいわけではないのではないか?という考えから医療からの解放、軽やかな布の動きで表現した。