生体の認知を情報処理過程として把握する際には,異なるタイプの処理を区別することが必要である。第一に,ボトムアップ型処理とトップダウン型処理とが区別される。前者はデータ駆動型ともよばれ,視覚や聴覚からの入力データにもとづいた,分析水準が低次から高次へと向かう情報処理をさす。これに対して,後者は既存の知識や期待といった認知構造にそってなされる情報処理であり,概念駆動型とよばれる。
ノーマン(Norman, D. A.)の指摘によれば,ボトムアップ型処理とトップダウン型処理間の相互作用の発生が,人間の情報処理の一般的原理である。第二に,注意を人間の情報処理システムにおける有限な処理資源(processing resource)としてとらえた場合,注意に依存しない自動的処理過程と,心的努力に依存する制御的処理過程とが区別され,訓練によって後者は前者に移行することが知られている。第三に,人間の認知過程における系列的処理と並列的処理の問題は,最近の研究における重要な論点の1つである。