立教大学 心理学研究科

都築研究室

認知構造 cognitive structure (都築,1992)

 外界から情報を収集し処理する際に,生体が用いる構造化された知識表象をさす.ゲシュタルト学派のレヴィンの場理論によれば,認知的環境の構造に即して行動が生起されると主張され,また,同学派のケーラー(Kohler, W.)は,洞察のような急激な行動変容は認知構造の再構造化に起因することを示唆した.こうしたゲシュタルト学派の理論では,認知構造は媒介概念にすぎず,その動的なメカニズムや構成要素については言及されていない.一方,バートレット(Bartlett, F. C.)は1932年に,過去の経験から体制化された抽象的な認知構造(図式;schema)が,人間の記憶において重要な役割をはたすこと指摘した.また,ピアジェ(Piaget, J.)は,群性体の概念を用いて,図式の発達的な構成過程と,同化及び調節という機能的要因について記述しており,その発生的認識論は発達心理学に決定的な影響を及ぼした.

 認知心理学や認知科学においては,1970年代以降,認知構造の問題は,知識がいかに表現され,組織化され,利用されるかという知識表象の問題として,主要な研究テーマとなっている.こうした研究領域では,構造化された知識表象を用いた情報処理に関する詳細なコンピュータ・シミューレーション・モデルが作成されると共に,その心理学的妥当性が実験的に検討されている.代表的なモデルとしては,アンダーソン(Anderson, J. R.)のACT,ラメルハート(Rumelhart, D. E.)のスキーマ,ノーマン(Norman, D. A.)らの活動的意味ネットワーク,シャンク(Schank, R. C.)らによるスクリプトと,その発展形であるMOPs(Memory Organization Packets)などをあげることができる.

 近年,社会心理学の領域においても,スクリプトやスキーマといったモデルが導入され,実証的に検討されている.また,対人認知における認知者側の特性の研究においても認知構造が問題とされており,ケリー(Kelly, G. A.)の個人的構成体理論に基づく,ビエリ(Bieri, J.)の認知的複雑性の概念,スコット(Scott, W. A.)らによる,多次元的な認知空間を仮定する認知構造モデルなどがある.こうした研究が発展してきた背景には,多次元尺度構成法(MDS),因子分析,クラスター分析といった多変量解析技法の普及があり,社会心理学だけではなく,認知心理学においても,多変量解析技法を用いて,人間の知識構造に関する研究が行われている.

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