更新日:2021年10月21日  Version 3.0

全学共通カリキュラム2021秋学期 現代社会の解読

―個人行動と社会構造―

立教大学社会学部 村瀬洋一



 授業支援システム ブラックボードと立教時間も使います。

 立教スピリットはこちら


  調査票と調査結果速報の例 2015年 福島市調査

  調査票とコードブックの例 大坂大学SSP調査

  調査票とコードブックの例 日本版総合社会調査 JGSS


日本社会の特徴とは何でしょうか。各自で考えてみましょう。

 マディソン市での生活の写真

 マディソン市 冬の写真

 カナダ モントリオールでのアメリカ社会学会

 台湾での写真


掲示板

  ご意見はこちらへ

  講義について質問や意見を自由に書き込んでください。アドレスをkodo2011 に変えると見えます。変な業者の書き込みが増えるので、このアドレスに直接リンクはしないでください。



昨年度の世田谷区調査の様子






シラバス  FB123

個人行動と社会構造 ―格差と社会階層研究

授業の目標CourseObjectives

社会の特徴を分析するための実証的な社会学について,研究内容を学ぶとともに,理論や仮説の考え方を習得し,分析の考え方を理解することを目的とします。生きている現実の社会からデータを取って分析することは,難しくもあるが楽しいことです。ただ,分析の前に,自分で理論や仮説を書くことができるでしょうか。日本社会の特徴とは何か,説明できるでしょうか。大学での学問は,正解を暗記するのではなく,自分で真実を見つける能力が重要です。建設的な批判的精神を身につけてほしいと思います。

The purpose of this course is learning the contents of empirical sociology and sociology research for analyzing the characteristics of the actual world, as well as learning the ideas of theory and hypothesis, and to understand the idea of analysis. Before beginning analysis, it is important to make your own theory. However, it is difficult for many students to write their own theories and hypotheses. It is also difficult but fun to take an original data from a living society and to analyze it. Can you explain what is the characteristic of Japanese society? The ability to discover the truth by yourself is important in academic research. I would like to acquire student having a constructive critical mind.

授業の内容Course Contents

世の中には様々な違いや格差があります。社会の構造は,人々の日常生活や行動にさまざまな影響を与えます。ミクロな個人行動はマクロな社会現象と関連があるでしょうか。例えば,人々はどのような場合に社会に問題を感じ行動を起こすでしょうか。また豊かな社会では人々の価値観は変わるでしょうか。政治や環境に関心を持つのはどのような人でしょうか。個々人が便利さを追求すると,社会全体では混雑現象や,汚染や環境問題が起きることがあります。このような問に対して,個人の行動をもとに,大規模な社会現象に取り組む研究は,行動科学と呼ばれます。世の中には様々な格差や違いがありますが,それを実証的に分析し,曖昧で抽象的な社会学でなく,科学的な分析法や研究法について理解することを重視します。科学的な社会調査についても解説します。

There are various differences and inequality in the world. The structure of society has various influences on people's lives and behaviors. Is micro-individual behavior associated to macro-social phenomena? For example, under what situation do people feel problems with society? Will people's values change in a affluent society? Who is interested in politics and the environment and takes action? If individual pursuit convenience it could lead to pollution and environmental problems in macro level society. Research on these questions of a large-scale social phenomenon based on individual behavior is called behavioral science. There are various inequalities and differences in the current society. We analyze it empirically. It is important to understand scientific analysis and research methods, not vague and abstract sociology. We will also understand the scientific social research methodology.


授業計画 Course Schedule
1. 	社会とは何か ―秩序問題と社会構造 
2. 	社会構造の研究対象と研究法 
3. 	理論や仮説の考え方 
4. 	社会変動と価値観の変化 
5. 	社会階層と不平等 
6. 	社会移動と閉鎖的な社会 ―世襲や二世問題 
7. 	社会的公正と衡平理論 
8. 	集合行為とオルソン問題 
9. 	環境問題と社会意識 
10. 	エスニシティ、異文化と社会構造 
11. 	社会的性差と性別役割意識 
12. 	政治意識とは何か ―各種の価値観と無関心 
13. 	宗教と日本社会の変化 
14. 	社会科学研究の問題点とは何か 

授業時間外(予習・復習等)の学習
社会調査結果のグラフなど資料をブラックボード資料ページで事前に配布するので,読んだ上で出席すること。授業内の提示資料は配布はしないので集中して取り組み,自分でノートを取ること。自分の手でノートを書くことはとても重要。また,新聞やニュース番組などを積極的に見て,現実の社会問題に興味を持ち,日頃から幅白く情報収集をすることを強くおすすめする。 

成績評価方法・基準Evaluation 
筆記試験(Written Exam) 	70  % 	 
平常点(In-class Points) 	30  %

 

調査法と職業分類について解説

      職業分類作成のためのSPSSシンタックス見本   ここをクリック



        クロス集計と残差の見本シンタックス

        ロジスティック回帰の見本シンタックス

        ロジスティック回帰の見本シンタックスその2



社会構造の測定 −とくに職業分類

 社会調査とその他の調査は何が違うだろうか。社会調査では、性別や年齢だけでなく、学歴や職業を正確に把握することが重要である。職業は「地位と役割」を表す総合的な指標である。例えば、ある男が40歳の銀行勤務の事務職員、ということが分かった場合、普段の生活や家族構成や収入や時間の使い方や住宅の様子などが、概ね推測可能である。つまり、社会全体では、人々の社会的地位により、収入や情報など各種の社会的資源が配分されている。その意味で、職業とは、本人の社会的地位を表す指標であり、職業を質問していない調査は、社会調査としては役に立たない。また、巨大な現代社会の中で、人々は役割分業を行っている。しかし職業と言っても、ホワイトカラーとブルーカラーに大きく2分する事も可能だし、数百の分類に分けることもできる。職業と産業は違うが、回答者の職業を定格に把握していない調査は多い。以下の「職業の4次元」をよく理解することが重要。現代日本社会には、人種による社会的亀裂や、公式な身分制度やカーストはない。しかし、医者の子が医者になり、先生の子が先生になり、各分野で二世が目立つなど、何らかの社会階層構造があることはよく知られている。これらの構造を把握するためにも、調査において職業を的確に把握することは重要である。
 多くの調査では、職業の問が不十分だったり、本人の仕事内容が不明だったり、従業上の地位を質問していないので、どのような人が答えたのか良く分からない結果になっている。回答者が自営業なのか事務員なのかまるで不明というのは、大きな問題である。とくに職業分類や産業分類の理解は重要である。日本には、国勢調査の職業分類とは別に、労働省や総務省(旧行政管理庁)の職業分類がある。国際標準職業分類も存在する。日本の社会調査では、国勢調査の分類が、全国サンプルの結果と比較可能で使いやすいだろう。これをもとに簡略化したものがSSM調査職業分類であり、職業小分類は200近くある。社会調査においてよく使われる。

 例えば、金融業、サービス業、自由業、教育関係、などの回答が職業だろうか。銀行勤務でも、事務員やガードマンもいれば、コンピューターの操作をする人もいる。また、的確に調査しないと、多くの人が専門職と答えるが、大卒以上の資格を持たない職は、ふつうは専門職と分類しない(専門職とは何かについては原・海野『社会調査演習 第2版』p.106参照)。機械修理の熟練工などを的確に分類することは難しい。また、管理職とは何かという定義も、調査によってまちまちでは問題である。社会調査においては、職業だけでなく、地域の都市度、産業構造、学歴などの社会的分布を正確に把握することが、きわめて重要なのである。なお産業分類は、従業先の組織の分類であり、人がやっている仕事の分類ではない。以下に、職業の4次元について解説しておく。

 
職業の4次元  安田三郎・原純輔.1982.『社会調査ハンドブック 第3版』p.87より

 職業が社会調査において重要である理由は、職業が社会的地位と役割を表すからである。職業には貴賤がないが、職業について調査することは重要である。なぜならば、高収入の職とそうでない職が存在するし、時代によって人気がある職とそうでない職もある。また、社会的影響力の違いもあり、巨大な現代社会の中で役割分業を行っている。これらを正確に把握するためには、職業を狭義にとらえるだけでは不十分であり、以下の4次元を調査し、これらを総合する必要がある。


1)産業   −従業先の企業の分野。金融業、製造業など
2)従業先の規模  −大企業かどうかは、日本では極めて重要
3)狭義の職業(本人の仕事内容)  −本人自身が何をやっているか
4)従業上の地位  −自営業か、常時雇用か、臨時雇用(パート、アルバイト、派遣社員など)

 これらの他に、役職、つまり係長、課長、部長などの組織内の職位も測定することが多い。通常、日本では、課長以上を管理職とする。しかし実際に本人がやっている仕事が、管理よりも、他の仕事が多い場合は、管理職ではなく、各自の職業コードをつける。例えば、飲食店の店長といいつつ、本人が料理もやっており、仕事の大半が調理である場合は、管理職とは言えない。このため、社会調査データを処理する場合、まず管理職について、プログラム上で職業コードを修正した上で、職業分類を作ることが多い。具体的な考え方を理解するためには、原・海野『社会調査演習 第2版』2.5のコウディングの章などを、よく読むこと。『SSM調査職業分類95年版』は、501から691までの職業小分類がある。以前の日本標準職業分類には数百の職業があったが、現代日本では、炭鉱での労働者や、工場労働者などが減っており、それらを細かく分類する必要はないため、小分類の数は減っている。具体的な調査票については、SSM調査や、『社会調査演習 第2版』の巻末資料を見ること。

 以下の問はaが従業上の地位、bとcが産業、dが従業先の規模、eが本人の仕事内容である。

  図1. 1995年SSM調査A票 本人現職

コウディングとは 原・海野『社会調査演習 第2版』p.100

 社会調査において、個々の回答を記号化する(コウドをつける)という作業。社会調査では、可能な限り選択回答法(プリコウディング)で行う。しかし、職業について、100以上の選択肢から1つを選んで○をつけてもらうのは、現実的ではない。したがって、自分の職業を答えてもらい、その内容を調査後に分類してコウドをつける(501から691までの数字にする)ことになる。つまり職業については、回答の文を見てアフターコーディングする。文中に「米」や「保育」など、分かりやすい単語がある場合、コウドを間違うことはないが、現実には、分類が難しい回答もある。
 社会調査において、多くのコウドは数字である。分類カテゴリーの設定は、1)カテゴリー全体が、回答の全範囲を網羅し、かつ、2)各カテゴリーは排他的でなければならない。例えば、職業(本人の仕事内容)について、501かつ524という回答はない。また、分類不能の職業(そのほとんどは回答内容不十分)は、できる限りなくすべきである。3)分類カテゴリーの区別は、合理的で明快でなくてはならない。4)分類カテゴリーの数が少なすぎると、異質の回答が混在してしまうので注意すべきである。5)他の同種の調査結果と比較できるよう、分類カテゴリーは、過去の優れた調査と類似のものを、なるべく採用すべきである。

職業の決定方法(詳しくは『社会調査演習』p.105

 個人が複数の仕事をしている場合、1つの分類項目に決定する。

1)2つ以上の勤務先がある場合
 ア 職業時間のもっとも長い職業。
 イ アにより決めがたい場合は、収入のもっとも多い職業。
 ウ 上記により決められない場合は、調査時の最近に従事した職業。

2)1つの勤務先で各種の仕事に従事しており、複数の仕事内容がある場合
 ア 就業時間の長い仕事(総合判断をする)。
 イ 技能が必要なもの。修理と販売なら修理にする。

 現実のコウディング作業は、総合判断をどうするかが問題である。学歴や就業先規模や年齢なども見て、実際に本人がどんな仕事をしているのか、推測する必要があり、そこが難しい。


クロス集計について

 社会調査を実施後に、データファイルが完成したら、データ分析をすることになる。もっとも基本的な分析は男女別や年代別のクロス集計である。これは、男女別に、2つの集計結果を出すことになる。性別は2つだが、変数によっては3つ以上のカテゴリーもある。

 以下のグラフは、とある社会調査における「従業上の地位」(3分類)と「情報不信」(4段階回答)のクロス集計表を横棒グラフにしたもの。

  
 従業上の地位は、人数が多いもの3つに絞った。また分析全体を、女性で、ある年齢に絞っている。これは、性別と年齢によって働き方が異なることが予想されるからである。各カテゴリーに、1, 2, 3,と番号がついているが、これは名義尺度であり、量的意味はない。つまり、3は1の3倍の意味がある、ということではない。このような変数を質的変数という。職業や地域、都道府県(JISコード)などに番号があったとしても、量的な意味はなく、質的変数である。
 質的変数間の関連係数にはいくつかのものがある。2×2表(4セル)については、原・海野(2004:85)を見ること。比率の差dとは、単なる%の差である。たとえば、ある質問項目(例えば死刑制度廃止)への賛成率が男性60%、女性50%だった場合、dは10%である。質的変数の関連係数は、2×2表(4セル)については、四分点相関係数rなどを使う。
 この分析結果の背景には、どのような因果メカニズムがあるだろうか。複数を考えてみると良い。これについては、自由に解釈するしかない。豊富に解釈を出すと良いだろう。この図は、回答が3カテゴリーと4カテゴリーだから、12セルある。2×3以上の表で、質的変数の場合はクラマーのVを用いる(SPSSではなぜかクラメールのVとなっている)。

各種の関連係数について

 量的変数の関連を見るためにはピアソンの積率相関計数(r)などを使うが、2×2のクロス集計表(4セル)では、基本的に四分点相関係数rを使えば良い。完全関連でなく、最大関連の時は、Q係数を使う。rの値は、完全に関連がある時は+1か−1、無関連時は0になる(原・海野.2004:85を参照)。
 カイ二乗値とは、無関連時の表と、現実の表の2つを比べ、2つの距離を出したものである。各セルにその距離を書いた新たな表を作り、その値を全て二乗してから、合計するとカイ二乗値となる。試しにやってみると良い。
 変数に量的な意味がある場合、2×3セル以上の表では、タウbかタウcを用いる。タウb、タウcは、無関連が0、完全関連が+1か−1となる。上記のグラフは、「情報不信」変数のカテゴリーに関しては1〜4の量的意味がある(少なくとも順序尺度ではある)と言えるが、片方が質的な場合は、表全体としては、質的変数の関連係数を使うしかない。尺度の水準については参考文献を見ること。

 2×3以上の表の関連(詳しくは社会統計学の文献を見ること)
・変数に量的意味がない場合→ クラマーのV(無関連0、完全関連1)
・変数に量的意味がある場合→ タウb(3×3など対象な表) 、タウc(対象でない表) 無関連0,完全関連は+1か−1


エラボレイションについて

 第三変数の導入による因果関係の検討をクロス集計のエラボレイション(elaboration)という。
 二変数の表面的な関連は、必ずしも真の因果関係ではない。



---------------------
 テキスト『社会調査演習 第2版』2.4の例は、結婚するとキャンディーを食べなくなるという例(Zeiselによる架空例)。
 婚姻、食の好み、という二変数(variable)がある。二変数の間に関連があったとしても、因果関係(論理的に原因と結果になっているもの)であるとは限らない。



 新たに2つ出したXとYの関連について検討する。Zを導入したことにより、XとYが無関連になれば、最初にあった関連は、疑似相関(spurious correlation)だったといってよい。
 5個の関連係数を見て、真の因果関係が何かを検討することになる。詳しくはテキスト2.4「クロス集計とエラボレイション」参照。



All Rights Reserved, Copyright(c), MURASE,Yoichi
ご意見、ご質問などありましたら、こちらまでお気軽に
 E-mail : murase○rikkyo.ac.jp

College of Sociology, Rikkyo University
3-34-1, Nishi Ikebukuro, Toshima-ku, Tokyo, JAPAN 171-8501

村瀬研究室のページへ