主な研究テーマ

星間分子の極低温反応

20世紀後半から,電波天文観測によって様々な星間分子が発見され,現在までに有機分子や炭素クラスターを含む200種近い分子が発見されています。近年,日米欧共同プロジェクトであるアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)が,史上最高の感度,分解能による観測がスタートしました。一方で,物質の進化や天体の形成を特徴付ける星間分子の反応過程について,極低温環境下における実験的研究が著しく欠如しており,その詳細は精度良く知られていません。当研究室では最新のイオンビーム技術や計測手法を用いて,実験室で星間分子を衝突反応を調べることに挑戦しています。

  • 科研費(学術変革領域A)「次世代アストロケミストリー
    計画研究A04「先端ビーム制御による気相化学反応素過程の理解」(代表2000-2024年度
  • 科研費(基盤B)「星間雲におけるC-H系分子誕生と複雑有機分子への進化」(代表2017-2019年度)

深紫外光による光異性化

構造の異なる同組成の分子(例:HOCとHCO)は構造異性体と呼ばれ、互いに異なった振る舞いを示します。星間空間においても多原子分子の40%以上が構造異性体を持つことが示唆されていますが,その存在量や反応性については,未だ数多くの謎があります。「異性体はどのような比で存在するのか?」「極低温の宇宙空間で分子は形を変えることができるのか?」本研究では、このような問題に実験的に答えを示すことを目指し,低温イオンモビリティー分析による異性体分析技術と,レーザープラズマによる深紫外光の発生技術を駆使した新しい実験をスタートしています

  • 科研費(萌芽)「星間分子の光異性化と化学組成への影響」(代表2018-2019年度)

極低温イオン蓄積リング(理研)

電磁場によって荷電粒子を周回させる「イオン蓄積リング」は高エネルギーの加速器技術のひとつとして開発されてきました。近年はこれを小型化,低エネルギー化した,静電型のイオン蓄積リングが各所で活躍しています。中でも理研の静電リングRICEは,装置全体を極低温に冷却することで,10-11Paという極高真空を実現し,1時間以上もの間,水素原子からクラスター,生体分子まで様々な分子を蓄積することができます。このような最先端の装置と波長可変レーザーを併用し,星間分子の反応過程や,冷却過程を調べています。(解説記事

  • 科研費(基盤A)「超伝導分子検出器を用いた原子分子ダイナミクス研究の革新」(分担2018-2021年度)
  • 科研費(萌芽)「極低温リングで実現する孤立分子イオンの輻射冷却リアルタイム観測」(代表2016-2017年度)
  • 科研費(基盤B)「星間空間におけるC-H系,O-H系分子生成の起源に関する新しい実験研究」(代表2014-2016年度)
  • 科研費(基盤S)「極低温静電型イオン蓄積リングが拓く極限科学」(分担2014-2018年度)

重イオン精密分光(ドイツ・GSI/FAIR)

結晶中を通過する高速のイオンは,結晶構造に応じて周期的に振動する電場を感じます。これをイオンの静止系から眺めると,レーザー光(=電磁波)を照射されている状態に相当し,疑似的な光励起を起こすことができます。これをコヒーレント共鳴励起とよび,光速に近い高エネルギーイオンを用いることで,レーザー発振の困難なX線〜γ線領域において原子状態のコントロールが実現できます。放医研HIMACやドイツGSI/FAIRといった加速器施設にて実験を行い,世界で最も高精度に重イオンの構造を調べることを目指しています。(解説記事

  • 科研費(国際共同B)「高エネルギー重イオンの結晶光子場コヒーレント共鳴励起を用いた原子物理」(分担2022-2025年度)