■第6回立教教育研究国際セミナー
ポストモダンからみたスウェーデンの就学前教育における学習、遊び、アート
“Learning, play and arts of Swedish early childhood education from postmodern perspective”
この度、スウェーデンから幼児教育研究者と演劇家を迎えて公開セミナーを開催します。この会は、学びの新しい姿を模索するために開かれるものです。スウェーデンにおいてさえ、旧来の教科教育主導型の学習の就学前期への前倒しが積極的に叫ばれたり、子どもの発達にとって大切な遊びを「つまらない」学習に対する飴のように用いるカリキュラムの必要性が謳われる状況にあるようです。本来遊びと学びは同じものであり、よく遊べる子どもたちこそが世界を学び、世界を創り上げる主体として育つものです。Monica Nilsson氏は、上記の動向に対して異議をとなえる一人であり、大学で保育者養成をしながら、保育実践者とともに子どもたちの新しい学びのあり方を模索しています。保育者経験があり、スウェーデンの就学前教育と共に歩んできた研究者です。彼女はヘルシンキ大学において活動理論に基づいた博士論文を書き上げた後、現在ではレッジョ・エミリア実践の思想を取り入れながら、遊びと学びの捉え直しを行うことを積極的に主張しています。
スウェーデンは世界的に見ても比較的早くにレッジョ・エミリア実践を評価し、そのエッセンスを取り入れた幼児教育実践を行っている国といえるでしょう。スウェーデンでは、「育てようとする大人の側」から保育を捉えるのではなく、学びの主体である子ども一人一人の人権を尊重しながら、その探求心をどのように育てるのかが課題となっています。既によく知られているドキュメンテーションもそうした活動の中でその意義を発揮します。この意味でレッジョ・エミリアの実践はこれまでの学校知や子ども観に対する抵抗であり、対抗であると考えることができます。Monica Nilsson氏は近年就学前教育においてスウェーデンで議論の高まっているポストモダンの立場から学び、育ち、発達を問います。
Bernt Höglund氏はスウェーデンの主に子どものための劇の制作者であり、演出家です。日本でも演出をしており、名古屋の子ども劇団「うりんこ」の作品「眠るまち」は2012年度児童福祉文化賞を受賞しました。彼はフリーランスの演出家で、自由な発想にもとづいて世界で活躍しています。アフリカやアジアの各地で地元の人々と劇を創り上げる中でより柔軟な発想を強めているようです。芸術に基づく教育(Arts-based pedagogy)で強調されることは、遊びと学習の関係と同じく、アート活動をオブラートのように使うことではなく、既存の観念を破壊し、組み替え、再構築する批判的なまなざしを向け、実践することです。狭い意味での教育とは直接関わりのない演劇の専門家、さらにスウェーデンで育てられた感性を持つアーティストからみて日本の子ども、そして教育はどのように見えるのでしょうか。大人の立場から子ども中心の活動を構想してしまうわれわれにとって厳しい批判がなされることが期待されます。
里見実氏は学校のあり方を問い続けてきた教育学者です。フレイレ、フレネなど、日本の教育状況、子どもたちの環境を相対化する資源として異質なまなざしを紹介してきました。その中にはアウグスト・ボアールの「被抑圧者の演劇」もあります。子どもの発達、アートの果たす役割など多角的なコメントが期待されます。さらに、第二部では石黒広昭氏がファシリテーターとなって、就学前教育における学習、遊び、アートについて全員で議論を深めます。今回どのような話になるのか実のところまったく予想がつかないのですが、子ども、遊び、発達、学習アートなどを問い直す良い機会となることは間違いないでしょう。
参加費無料、事前登録不要ですが、事前予約されない場合には部屋の関係で、入室をお断りする場合があります。御予定されている方は事前予約を勧めます。
企画:石黒広昭(立教大学文学部)
司会:内田祥子(高崎健康福祉大学)
通訳:川島裕子(北海道教育大学旭川校)、井上知香(常葉大学短期大学部)
主催:基盤研究(B)「言語的文化的に多様な子どもたちのパフォーマンスアートに媒介された学習活動の研究」(研究代表:石黒広昭)
後援: 立教大学文学部教育学科
- 日時
2017年10月15日(日) 13:00-17:10
- 場所
立教大学(池袋) 14号館6階セミナー教室
キャンパスマップ アクセス
*休日のため大学正門が開いていない場合がありますのでタッカー門からお入りください。
- 使用言語
日本語、英語。話題提供は英語で行われる予定だが、要約通訳あり。
- 参加申し込み・お問い合わせ(終了しました)
参加申し込み: 申し込みフォーム
お問い合わせ: kakenmclit@rikkyo.ac.jp
- 進行予定
13:05 開始 主催者挨拶
13:10 基調講演1 Monica Nilsson (Jönköping University, 立教大学2017年度招聘研究員)
14:10 基調講演2 Bernt Höglund (舞台演出家)
15:10 休憩
15:30 コメント 「演劇と教育、教育学の立場から」 里見実(國學院大學名誉教授)
16:00 討論
ファシリテーター:石黒広昭
討論者: Moica Nilson, Bernt Höglund, 里見実
17:00 閉会挨拶
17:10 閉会
- 登壇者紹介
●Dr. Monica Nilsson, Associate Professor, School of Education and Communication, Jönköping University.
演題 Swedish Early Childhood Education and the relationship between play/playworld and Reggio-inspired concept of exploration.
Preschools are increasingly focused on children’s cognitive development and school preparation at the expense of supporting the development of children as whole persons, their subjectivity. Two preschool pedagogies that do not fall prey to this trend, and which have roots in Vygotsky’s theories, are playworlds and the Reggio Emilia-inspired pedagogy of listening. In playworlds, children’s pretend play is based in an understanding of children as creative. The pedagogy of listening does not focus on play but understands children as engaged, reflective culture creators, and focuses on the creation of environments that afford children’s exploration, a concept not theorized to the same degree as pretend play. In this presentation, I first describe Swedish preschool provision. I then present my understanding of a preschool pedagogy that focuses simultaneously on play and exploration as sufficient for the growth of the whole person, that is, their becoming as a subject. I make this case by presenting two projects, drawn from an ethnography of three Swedish Preschools, in which children’s play and exploration were both foci. I argue that these examples force us to rethink what children do in pretend play and in exploration, and how both pretend play and exploration are related to learning and growth.
Dr. Monica Nilsson is a former preschool teacher and an associate professor of Preschool Didactics at Jönköping University, Sweden. Her research interests include change and preschool development; play, exploration and teaching-learning in early childhood education; and more particularly playworlds, a form of adult-child joint play. She received her Ph.D. from Helsinki University, School of Education in 2003 for her study of “Transformation through Integration: An Activity Theoretical Analysis of School Development as Integration of Child Care Institutions and the Elementary School.”
Nilsson, M., Ferholt, B., Lecusay, R. (2017). ‘The Playing-Exploring Child’: Re-conceptualizing the Relationship between Play and Learning in Early Childhood Education. Contemporary Issues in Early Childhood. Los Angeles, London: SAGE Publications.
Nilsson, M., & Ferholt, B. (2015). Vygotsky's theories of play, imagination and creativity in current practice: Gunilla Lindqvist's “creative pedagogy of play” in U. S. kindergartens and Swedish Reggio-Emilia inspired preschools. Perspectiva, 32(3), pp. 919 – 950.
Nilsson, M. Ferholt, B. Alnervik, K. (2015). Why Swedish early learning is so much better than Australia’s. I The Conversation: Academic rigour, journalistic flair.
And many others.
●Bernt Höglund, a Theatre Maker; Dramatist, director and actor.
演題 “Children, Theatre and Art”: a lecture/talk based on non-academic artistic experiences.
A short presentation of how professional preschool theatre is organized and paid in Sweden, and very briefly about the difference between Japan and Sweden in this perspective. What do we mean by performing arts for preschool children, why is it needed and how are we able to define quality?
Bernt Höglund has been working with performing arts for people of all ages since the beginning of the 70-ties. He has created more than 40 productions at different theatre- and opera houses in Sweden and in the Nordic countries. Bernt is working with intimate performances and with a low voiced relation between stage and audience. His productions are all developed in close connection to the performing artists. They are very often based on a mix of performers from different areas like actors, opera singers, puppeteers, musicians and dancers. The working method is a combination of devising for acting and strict visual ideas. He likes very much to invite the artists to a “creative confusion” as a start of a new process.
“Nemuru Machi” was created together with Urinko Theatre in Nagoya 2010. The aim was to make a “Japanese performance with Swedish taste”. The performance is a result of seminars, joyful meetings and working-steps held once or twice every year in Japan since 2006. A new production named “Ojiichann no chiisana himitsu” was created in collaboration with Urinko Theatre in 2015 as a continuation of this work. “Nemuru Machi” got the prize of Jido-Fukushi-Bunka in 2012 fiscal year (http://www.swedenabroad.com/ja-JP/Embassies/Tokyo/4/2/-sys83/). Bernt is a member of ASSITEJ Sweden and has been a facilitator of children’s theatre workshops in about 20 countries in former East Europe, in Africa and in Asia.
Bernt Höglund YESSS! – On children, art and profitability. In Christina Nygren (Ed.), Theatre for development. Svesk Teaterunion-Swedish Centre of ITI, 117-121.
*「眠るまちについて」(スウェーデン大使館ホームページより抜粋、一部改変)
「スウェーデン人の監督、戯曲家バーント・ヘーグルンド氏が脚本と演出を手がけた劇団うりんこさんによる「眠るまち」は2012年度に「児童福祉文化賞」を受賞しました。今回は初めて日本人以外の演出家による作品の受賞となりました。「眠るまち」は演劇、ダンス、仮面劇、空想劇などが融合した詩的なものであり、6人の俳優の密接な連携によって発展したものです。音楽は作曲家トーマス・リンダール氏の作品のリミックスにより構成されています。ヘーグルンド氏は他の演出家らと共同で40作品に及ぶ大人、またすべての年代向けの作品を制作しこれらはヨテボリ歌劇場、国立劇場、ボロース市立劇場、ノルランド地方劇場、ヴェステルボッテン県立劇場、ストックホルム市立劇場、フィンランド国歌劇場、デンマークのユスケ歌劇場などの20箇所の劇場や北欧の歌劇場などで公演されています。」(http://www.swedenabroad.com/ja-JP/Embassies/Tokyo/4/2/-sys83/)
●里見実(國學院大學文学部名誉教授)
雑誌「ひと」(太郎次郎社)前編集委員。パウロ・フレイレの著作の翻訳で知られ、日本におけるフレイレ研究の第一人者。アウグスト・ボアールの「被抑圧者の演劇」の翻訳もあり、演劇ワークショップ活動も展開している。近年はレッジョ・エミリアにも関心を寄せている。
セレスタン・フレネ 著 里見実 訳 (2015) 『言語の自然な学び方:学校教育の轍の外で』 太郎次郎社エディタス
ピーター・メイヨー 著 里見実 訳 (2014) 『グラムシとフレイレ:対抗ヘゲモニー文化の形成と成人教育』 太郎次郎社エディタス
里見実 (2010) 『パウロ・フレイレ「被抑圧者の教育学」を読む』 太郎次郎社エディタス
他
●石黒広昭(立教大学文学部教授)
乳幼児から学齢期の子ども達を中心に、人間の発達と学習の過程を社会文化歴史的アプローチに立つ心理学の立場から研究している。家庭、就学前施設、学校、障害者施設など、多様な生態学的環境における人々の日常生活実践を継続的に観察し、視聴覚データから相互行為分析や談話分析を行う。人々の発達支援のための理論的、介入的研究も行っている。
Ishiguro, H. (2017) Collaborative Play with Dramatization: An afterschool programme of “Playshop’ in a Japanese early childhood setting. In Bruce, T., Hakkarainen, P. & Bredikyte, M. (Eds), The Routledge International Handbook of Early Childhood Play. Taylor & Francis/Routledge, Pp. 274-288.
Ishiguro, H. (2016) How a young child learns how to take part in mealtimes in a Japanese day-care center: a longitudinal case study. European Journal of Psychology of Education, 31(1), 13-27,
石黒広昭(2016) 『子どもたちは学校で何を学ぶのか―教育実践論から学習実践論へ―』(東京大学出版会)
M. バンクス/石黒広昭(監訳) (2016) 『質的研究におけるビジュアルデータの使用』 新曜社
他
●内田祥子(高崎健康福祉大学人間発達学部講師)
現在保育者養成課程で学生指導をしている。アートや遊びを通じての幼児の発達に関心がある。2003年以来、札幌市にある美晴幼稚園との共同研究である、「プレイショップ」と呼ばれる遊びのワークショップ研究に参加し、保育プログラムの開発と子どもが豊かに発達する条件を探っている。
内田祥子 (印刷中) スウェーデンにおけるナショナル・カリキュラムとの比較にみる新幼稚園教育要領の課題 健康福祉研究第14号
●川島裕子(北海道教育大学特任研究員)
トロント大学オンタリオ教育研究所 Ph.D. 専門は、演劇教育、学校教育、若者研究。北海道教育大学にて、文部科学省経費による「教師に対する演劇的手法によるコミュニケーション教育」に従事。博士論文では、学校教育における日本の若者の生成変化について執筆。俳優経験を経て、教育現場でワークショップを行う。
『〈教師〉になる劇場:演劇的手法による学びとコミュニケーションのデザイン』(編著、フィルムアート社、2017年)。
「Performing “the Other” and Becoming Different: Affects of youth and schooling in Japan」(博士論文、2017年)
「授業実践の文脈としての『演劇と教育』の接点」(『演劇教育研究』6号、2015年) 他
●井上知香(常葉大学短期大学部保育科講師)
フィンランド・タンペレ大学へ交換留学を経て、現在は常葉大学短期大学部保育科にて講師を務め保育者養成に携わる。専門は保育・幼児教育学。日々の保育の中で、子どもの育ちを支える保育者の柔軟な応答性に興味をもち、その在りようについて探究している。保育実践と計画の関係性や捉えにも興味を持っている。
Hujala, E., Eskelinen, M., Keskinen, S., Chen, C., Inoue, C., Matsumoto, M., & Kawase, M. (2016) Leadership Tasks in Early Childhood Education in Finland, Japan, and Singapore, Journal of Research in Childhood Education, 30(3), 406-421.
井上知香(2013)保育実践における計画観の再考 : 保育者の応答的かかわりに着目して.お茶の水女子大学子ども学研究紀要,1, 2-11. 他 - 当日掲示・配布資料
Monica Nilsson氏
Bernt Höglund氏
里見実氏