Look16 血

Designer 山本夏実

必要以上に個が尊重され、プライバシーが持てはやされる様になった現代の日本で「血」は変わらずに私たちの中を流動し続けている。
「血」には大きく分けて三つある。一つは私たちの体の中を日々絶えずめぐっている血液を意味する医学的な血。二つ目は時代を越えてはるか彼方から脈々と受け継がれてきた家系を意味する社会的な血。最後に特に今の日本では消えかけようとしている、社会において助け合う集団として機能する血縁を意味する遺伝に基づく血だ。
日々私たちの体の中を巡る血。時代を越えて私たちの中を流れる血。社会の中で私達を結びつける血。
そのすべての血は絶え間なく流動しつづけ変化ししかしいまだ変わらずにあるということでこのテーマを選んだ。
ジャケットの後ろ見頃のオーガンジーのリボンベルトには血による結びつき、また血による束縛(現代ではあまりない事象かもしれないが、少し前の日本では職業的な世襲は当たり前のことであり、さらに遡って封建時代までいくと血族的な階級・身分の違いもあった。)といった相反する二つの血縁による現象を表している。
ワンピースの胸元のドレープは、「個」の地位を向上させすぎたあまりに、現代の社会におこる捩れ的な問題を現している。たとえば東京23区では、毎日ほぼ10人もの方が人知られず亡くなられるそうだ。「孤独死」として最近ままニュースでもとりあげられるようになってきている。現代の社会はもう一度濃密な他者とのかかわりを渇望して捩れているのではないか、私にはそう感じる。
ワンピースの前の裾部分は色や質感が微妙に違う布を何枚か重ねて重層的な血の罪かさね…つまり家系をイメージした。