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認知心理学 cognitive psychology (都築,1992)

 情報処理アプローチに基づいて,人間の認知過程や知識構造について研究するモデル指向的な実験心理学をさす.

 1920年代以降の行動主義心理学に対する「認知革命」として,1960年代に,情報科学,計算機科学,言語学等の影響のもとに,認知心理学のパラダイムは形成された.第一に,系時的・段階的な情報処理アプローチの基礎は,人間の情報処理容量について検討したミラー(Miller, G. A.)の研究と,入力情報が選択されて記憶に至る過程を明確にモデル化したブロードベント(Broadbent, D. E.)らの研究の中で確立され,記憶システムを中心とした認知過程の研究に深く浸透している.第二の計算機科学,特にニューエルとサイモン(Newell, A., & Simon, H. A.)らの研究に始まり,現在,人工知能とよばれる領域の成果は,認知心理学における知識構造の研究と,記号操作によって実現されると仮定される高次精神過程の研究に大きな影響を及ぼしている.第三に,言語学の領域における,チョムスキー(Chomsky, N.)の生成文法理論とフィルモア(Fillmore, C. J.)の格文法理論は,言語研究の基本的な枠組みとして様々な側面から検討されている.

 1967年に出版されたナイサー(Neisser, U.)の著書“Cognitive Psychology”と1970年に創刊された同名の学界誌は,認知心理学の分野に定義を下す上で,重要な役割を果たした.ナイサーの著書は,知覚と注意に関する6つの章と,記憶,言語,思考に関する4章で構成されている.これとは対照的に,1985年に出版された,アンダーソン(Anderson, J. R.)による概説書は,神経生理学,知覚,注意に関する2つの章と知識表象,記憶,技能,問題解決,演繹的推理,帰納的推理,言語理解,言語生成,認知発達に関する12の章で構成されており,現代の認知心理学の広がりを示している.認知心理学に寄与した他の要因として,測定方法の洗練と統計解析技法の普及をあげることができる.特に,刺激を瞬間提示し,高精度で測定する実験装置の普及によって,単なる遂行成績に加えて,1ms.単位で測定された反応時間データが,認知心理学の諸問題に対する重要な知見を生み出してきた. 近年,社会心理学の領域においても,認知心理学の理論的枠組みや実験パラダイムを用いて,対人認知の基礎となる対人記憶(person memory)や認知構造に関する研究が行われている.

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