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「いまどきの子供たち ――  ―― 精神科医から見た心の問題」
講演会
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「いまどきの子供たち ――  ―― 精神科医から見た心の問題」
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講演会
 15年くらい前は、学校の講演といえば勉強に関わる教育者が呼ばれることが多く精神科医が呼ばれるのは意外な感じがしたものです。それでは何故、今は精神科医にお呼びがかかることが多いのでしょうか。
以前、有名進学校に講演した際、講演後何人かの保護者に悩みを打ち明けられました。私は、不登校引きこもり、リストカットの話など関係ないと思われるような、一見恵まれている子供達、親達が様々な問題を抱えているということに気づきました。
 また、病院で外来患者を診療するのと並行して教鞭をとったデザイン学校では、驚くべき発見がありました。今時のファッションをした学生達と話すと、「自分の居場所がない」、「嫌われているかもしれない」、「いなくなりたい」、「生きる意味がない」等と否定的な発言をし、学生の多くが自分の価値を否定しているのです。病院の中と大学が同じという事実に驚きました。一見元気で頑張っているように見える学生に「どうしてそう思うのか」と尋ねると、次のような答えが返ってきました。「先生は分かっていません。私は演技をしてみんなに合わせているだけです」さらに彼らにとって「家が一番大変で疲れる」というのです。このように演技をして内面を隠せる子供は大学に通い、それが出来ずに素直に気持ちを表す子供は病院にいます。両者はちょっとした差があるだけで、基本的な事では繋がっているのです。
 いじめが社会問題になった時に関わった、文部科学省での「いじめ対策プロジェクト」で印象に残ったことがあります。それは子供達が親を気遣い、いじめの事実を親に言わないことです。ここでも子供は演技をしているのです。演技にだまされ、私たちは事実に気付く事が遅れてしまいます。それでは何故、悩みを隠して演技をしてしまうのでしょうか。子供達は一見何事も無かったように過ごすので、親たちは問題が無いと思ってしまいます。しかし、その内面は、親を失望させたたり、悪い子と思われたくない思いから口を閉ざし、演技をしているのです。親への配慮が積み重なった結果、どこかで破綻してしまうのです。それが時には重大な事件になってしまうこともあります。このような事が起こるその一端は、親世代に垣間見ることができます。
 診察に訪れる30代から40代の母親たちは、恵まれた環境の中で親の期待通りに生きてきたのでしょう。親の望むレールを歩んできた母親たちが、それが自分の意思で無かった事に気付いた時、親に恨みを言いだす人さえもいます。何故、子供の時、反旗を翻す事をしなかったのでしょうか。やはり親には「良い子」だと思ってもらいたい気持ちがあったからです。これは、日本だけに当てはまることではありません。アメリカの本で『毒になる親』という隠れたベストセラーがあるくらいです。しかし、親の希望に従わず、自由な人生を歩んでいたら幸せだったかといえば、必ずしもそうとはいえないでしょう。親に良い顔をしたいだけでなく、その時は自分の意思も含めて決断し、進んだ道であったのだと思います。親に恨みをぶつける代わりに自分が幸せになれるよう、目先が変わるような、小さな軌道修正をしてみてはいかがでしょうか。小さなマイナーチェンジです。例えば、髪形を変える、仕事をしてみる、ボランティア活動に参加するなどです。
 家庭内暴力、引きこもり、不登校の子供は、親が一生懸命に関わりすぎるため、なかなか治らないケースがあります。その多くの母親が完璧主義で、自分も家族もきちんとレールから外れないように努力し、結果的に凄い緊張を家庭内で強いるからです。完璧を強いるのではなく、なんでも「大目に見る」ということは、大切で日本に馴染んだ生き方です。両者の関係を良好にするためには、親がまず自分のやりたいことをやりながら「出来ないことは出来ないでよいではないか」と思う心のゆとりを持って欲しいと思います。そうすることで、自然と子供も親の顔色を伺うことなしに生活をできるようになるのです。親が変わることで子供が変わってくるのです。(講演内容より)
 ※ 香山リカ先生プロフィールはこちらから
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会場 立教新座中学・高等学校 セントポールズスタジオより

第1回チャペルアワー