研究内容

翻訳後修飾や選別輸送を司る「オルガネラ・ゾーン」

細胞外に分泌または細胞膜に提示される多数のタンパク質には、糖鎖やリン酸基など多種多様な翻訳後修飾が付加されます。このような翻訳後修飾は、そのタンパク質の活性に必要であるのみならず、その安定性や輸送方向の制御などにも重要な役割を果たしています。多様で重要な機能をもつ翻訳後修飾が行われるオルガネラは、主として小胞体やゴルジ体です。しかし、そのようなオルガネラ内で、多様な翻訳後修飾が混乱せずに正しく付加されるメカニズムについては、いまだ多くの疑問が残されています。

私達は、ショウジョウバエの細胞内で分散して存在するミニゴルジ体には、それぞれ異なる翻訳後修飾に関与するタンパク質が局在することを見出しました(図1)。この結果は、ゴルジ体は一様ではなく機能的に異なる領域(ゾーン)から形成されていることを示しています(PNAS, 2005)。さらに、このようなゾーンは小胞体とそれにつながる核膜にも存在することを見出しています。今後は、ゾーンの形成メカニズムやその生理学的意義について明らかにしたいと考えています。

図1.小胞体とゴルジ体に存在する修飾・選別輸送ゾーン
リン酸化酵素、糖修飾酵素1、糖修飾酵素2、ライソソーム輸送タンパク質 Yano, Yamamoto-Hino et al., PNAS, 2005

最近の研究結果

異なるゴルジ体ゾーン(ミニゴルジ体)には、異なる糖転移酵素が局在し、その酵素によって修飾されるべきターゲットタンパク質が輸送されてきます。そのような酵素やターゲットタンパク質はすべて小胞体で翻訳されるため、小胞体から異なるゴルジ体ゾーンへの選別輸送が重要だと考えられました。酵母では、GPIアンカー型タンパク質は他の膜タンパク質とは異なる輸送小胞に積み込まれることが報告されていました(図2)。そこで、私達はGPIアンカー型タンパク質に着目し、小胞体のどこでGPIアンカータンパク質が作られるのかについて解析を進めています。

図2.GPIアンカー型タンパク質は、他の膜タンパク質とは異なる輸送小胞に積み込まれる。
ゴルジ体ゾーンA:GPIアンカー型タンパク質 小胞体 / ゴルジ体ゾーンB:他の膜タンパク質 小胞体 Muniz et al., Cell (2001)

GPIアンカー型タンパク質は、(1)糖脂質であるGPIの生合成、(2)GPIアンカー型タンパク質前駆体の翻訳、(3)完成したGPIと翻訳されたGPIアンカー型タンパク質前駆体の結合、(4)脂質部分のリモデリングの4段階を経て完成します。
私達は、(1)のGPI生合成に必要な酵素PIG-Bが、驚くべきことに核膜に局在すること、(2)のGPIアンカータンパク質のひとつであるDally-like protein (Dlp) のmRNAが核近傍に局在すること、(3)のGPIと前駆体タンパク質を結合させる酵素複合体Transamidase Complex (TAC) も核膜に多く局在することを見出しました(図3)。これらの結果は、核膜およびその近傍が、GPIアンカー型タンパク質の生成を司るゾーンであることを示唆しています。

図3.GPI修飾ゾーンは核膜とその近傍に存在する。
コアタンパク質GPI、PIG-B、Dlp mRNA、TAC、GPI修飾ゾーン

次に、私達はこのゾーンの重要性を調べるために、小胞体に局在するPIG-Bを作製し、この小胞体型PIG-Bが十分に機能するかを検討しました。この小胞体型PIG-Bまたは本来の核型PIG-BをPIG-B変異体で発現させ、変異体の表現型をどの程度レスキューできるかを調べました。その結果、核膜型PIG-Bに較べ、小胞体型PIG-Bによる表現型のレスキュー効率は有意に低いことがわかりました。この結果は、PIG-Bは核膜に、言い換えればGPIゾーンに局在することが重要であることを示しています(JCS, 2018)。また、(3)のTACについても研究を進めています。TACは少なくとも5つのサブユニット、PIG-K, PIG-S, PIG-T, PIG-U, GAA1によって構成されています。それぞれのサブユニットの役割は以下のように考えられています。最も重要なサブユニットはPIG-Kで、前駆体タンパク質を切断することでGPI付加という一連の反応を開始させます。PIG-UはGPIと結合し、活性中心へGPIを近づけると言われています。GAA1は切断された前駆体タンパク質のC末端にGPIを結合させることで、GPIアンカー型タンパク質が形成すると言われています。また、PIG-TはPIG-Kと結合し活性中心の形成に役立っていますが、PIG-Sの機能は未だわかっていません。

さて、もしPIG-Kが単独で存在すると前駆体タンパク質が切断だけされ、GPIが結合しない不完全な反応が起こってしまう可能性が考えられます。そこで、私達は、PIG-Kが単独で存在できるのかについて検討をしました。その結果、PIG-KはGAA1, PIG-T, PIG-U, PIG-Sのすべてがないと安定に存在できないことを見出しました(図4)。この結果は、複雑な反応を行う酵素複合体であるTACでは、活性中心サブユニットPIG-Kはすべてのサブユニットがそろわないと安定化しないことで、異常な反応が起こらないようにしていることを示していると考えられます(BBRC, 2019)。巧みなメカニズムを明らかにすることができました。

図4.Transamidase Complex (TAC) の安定性。PIG-Kは他のすべてのサブユニットが揃って初めて安定に存在できる。
Core complex associated by PIG-S,Core complex,GAA1,Mutualstabilization,PIG-T,Mutualstabilization,PIG-U,stabilization,PIG-S,stabilization,PIG-K

ストレス・免疫・神経の連関

私達は日々様々なストレスに曝されています。ストレスは生体防御としての免疫系を活性化しますが、過度または慢性的なストレスは免疫系の異常を引き起こします。さらに、脳・神経における免疫系の異常は、神経細胞の生存や活動に深刻な影響を及ぼします。私達は、そういった免疫系と神経系の関係について、培養細胞やショウジョウバエを用いて研究を行っています。

精神疾患における腸内細菌叢や活動・睡眠パターンの解析

腸内の微生物叢のパターンは、その個体の健康などに少なくない影響を及ぼすことが示唆されています。また、自閉スペクトラム症(以下、ASD)の方は腸内の状態がすぐれないという報告もあります。そこで、私達は、児童発達支援センター「コスモスの花」、国立研究開発法人、医薬基盤・健康・栄養研究所、名古屋市立大学と共同し、ASDの方の腸内細菌叢、活動・睡眠パターンの解析を行っています。