アマゾン先住民族宗教文化の調査研究はアンデス先住民族宗教文化研究の一環として始まった。始まりはかなり古く、すでに1998年に筆者はペルー南部アマゾンの町プエルト・マルドナードを訪れ、アヤワスケーロの儀式に参加している。その後―断続的ではあるが―10年にわたって、ペルー・アマゾン及びボリビア・アマゾンにおいて調査研究を行った。
ペルー・アマゾンのジャングルはかつてインカ人が憧憬と共に語ったパイティティ伝説の発祥の地であった。そこに存在する宗教的伝統を求めて、筆者はいくつかの場所を訪れ、アマゾン先住民族宗教文化への理解を深めた。初めて訪れたのは、アマゾン川の上流、マードレ・デ・ディオス川の町プエルト・マルドナードである。この地を二度訪れ、現地で活躍するアヤワスケーロの実態とペルー・アマゾンの世界観を調査した。またペルー中部アマゾンの都市プカルパに二度滞在し、ペルー・アマゾン中部地域におけるシャーマニズムの伝統、シャーマンの活動、及び薬用植物等に関するフィールドワークを実施した。さらには陸の孤島であるアタラヤを訪れ、予備的調査を行った。
アマゾン地域の宗教文化はアンデスとは全く異質である。ここでは植物、水、そして森が主役である。そのシャーマニズムにおいては、幻覚性植物アヤワスカ、そしてタバコが頻繁に使われる。
参照
筆者のペルー・アマゾン伝統文化の調査に関しては下記の論考がある。
- 『アンデス・シャーマンとの対話―宗教人類学者が見たアンデスの宇宙観』(現代書館、2005年)第10章「魂の縄」
- アマゾンのシャーマン―人類学のフィールドノートより.「立教大学ラテンアメリカ研究所所報」No.34. 2006年3月pp.87-95.
ボリビア・アマゾン、モホス大平原には多くの先住民族が居住している。その数は20を超えるといわれる。これらの先住民族宗教文化の研究は、筆者が同地域で実施した古代文明の調査(モホス・プロジェクト)を補完するものとして始まった。目的は古代文明と現代との歴史的、文化的つながりを確かめるためであった。調査を開始したのは2005年のことであるが、これがきっかけとなり、筆者はしだいにこれらの先住民族の宗教文化伝統そのものに興味を持つようになった。そして2007年夏に最初の本格的な民族調査を実施した。
実際にフィールドワークを行ったのはモホスの代表的な先住民族である、モホ族、シリオノ族、グアラヨ族、及びバウレ族である。モホ族は大平原で最大のグループであるが、元来農耕民族であり、モホス大平原の南西部~中央部にかけて広く分布している。これと対照的なのが少数グループの狩猟民族、シリオノ族で、数ヶ所に独立した社会を作り、点在している。中央部~南東部のグアラヨ族もシリオノ族とほぼ同様の文化伝統を守っている。最後の、バウレ族は大平原北東部に住む狩猟・農耕民族である。
フィールドワークはサン・イグナシオ・デ・モホス、サンタ・リタ、エル・レティロ、ナランヒート、ロマ・エビアト、トリニダード、ペロト、バウレス等で実施された。
筆者のテーマはこれらの先住民族の宗教文化、とりわけ彼らの自然観、環境思想である。モホス大平原はアマゾンの巨大な氾濫原で、厳しい自然を持っている。この試練の土地に古代から居住してきた人々は、その困難を克服し、さらには自然と共生する優れた知恵を持っているはずだ。
実際、筆者の調査結果は非常に興味深いもので、モホス先住民族の根本的な自然観を確認することができた。その本質を要約すれば、巨大なアマゾンの自然への畏怖とでも言えようか。おそらくはすべての古代人が自然に持っていた感情であろう。あるシリオノ族の女性は父母、祖父母からの箴言として、繰り返し「自然を触ってはならない」と語っていた。そこには地球環境問題に直面する現代世界への警鐘、メッセージ、また未来への叡智が存在するように思われる。
下記の論考は筆者のボリビア・アマゾン宗教文化の調査結果をまとめたものである。
参照
- 『アマゾン文明の研究―古代人はいかにして自然との共生をなし遂げたのか』(現代書館、2010年)第13章「モホス先住民族の調査」
- ボリビア・アマゾン先住民族文化における環境思想と自然との共生の実践―モホ族とシリオノ族を中心として.「国際行動学研究第3巻」 2008年3月 pp.12-23.