I-2.アンデス宗教文化

筆者がアンデス宗教文化の調査を始めたのは1997年のことである。この年の暮れに初めてペルー・クスコ地域、ティティカカ湖地域、ボリビア・アルティプラーノ(高原地帯)を歩き、アンデス高地文化の実態を目の当たりにした。

中央アンデス地域

その後、1997年から2002年まで、足掛け6年にわたり、中央アンデス高地の主要な地域に滞在し、アンデス地域のシャーマニズムに関する調査を行った。この間に調査したシャーマンは数十人に及ぶ。ペルーにおける主な調査地は、首都リマ、インカ文明の古都クスコ、その近郊の聖地ワサオ、聖なる谷、ラレス、キキハナ、そしてティティカカ湖岸の都市プーノ、タキーレ島、またペルー中央部のチャビン・デ・ワンタール、そしてペルー北方の聖地ワンカバンバ等である。ペルーのシャーマンは通常クランデーロと呼ばれる。しかしクスコ周辺では他にブルホ、アグリクルトゥール、ミスティコが存在する。

ボリビアにおいては、古代文明の聖地ティワナク、ティティカカ湖のコパカバーナ、太陽の島、アンデスの秘境チャラサニ等を調査した。ボリビアのシャーマンは一般にヤティリと呼ばれるが、チャラサニにはカジャワヤという独特なシャーマンが存在する。

筆者がアンデス宗教文化の調査を始めたのは1997年のことである。この年の暮れに初めてペルー・クスコ地域、ティティカカ湖地域、ボリビア・アルティプラーノ(高原地帯)を歩き、アンデス高地文化の実態を目の当たりにした。
その後、1997年から2002年まで、足掛け6年にわたり、中央アンデス高地の主要な地域に滞在し、アンデス地域のシャーマニズムに関する調査を行った。この間に調査したシャーマンは数十人に及ぶ。ペルーにおける主な調査地は、首都リマ、インカ文明の古都クスコ、その近郊の聖地ワサオ、聖なる谷、ラレス、キキハナ、そしてティティカカ湖岸の都市プーノ、タキーレ島、またペルー中央部のチャビン・デ・ワンタール、そしてペルー北方の聖地ワンカバンバ等である。ペルーのシャーマンは通常クランデーロと呼ばれる。しかしクスコ周辺では他にブルホ、アグリクルトゥール、ミスティコが存在する。
ボリビアにおいては、古代文明の聖地ティワナク、ティティカカ湖のコパカバーナ、太陽の島、アンデスの秘境チャラサニ等を調査した。ボリビアのシャーマンは一般にヤティリと呼ばれるが、チャラサニにはカジャワヤという独特なシャーマンが存在する。

ティティカカ湖(太陽の島)
ティワナク遺跡

研究のテーマはアンデスのシャーマニズム、古代からの宗教的伝統であるが、非常に豊かで複雑な伝統であるため、調査項目は多岐にわたった。アンデスの大地母神パチャママと霊山の山の神アプー(ペルー)、アチャチーラ(ボリビア)、独特な供物メサ、またシンボルとしてのアンデスの十字架(チャカーナ)、そしてその本質を成すパチャの哲学、及びアンデスの宇宙観である。

これはアンデス地域にもまた、マヤ地域と同じく、かつて古代文明が栄えたことと関係している。その伝統を受け継ぐ二大先住民族、ケチュア族、アイマラ族は非常に複雑で高度な宗教文化を持っている。すなわちケチュア族はインカ帝国の末裔であり、またアイマラ族はさらに古いティワナク文明の末裔である。

アンデスのシャーマン(カジャワヤ)

アンデスの民族思想はマヤと同じく二元論であり、ヤヤママと呼ばれる。その根底にはアンデス独特の自然観、自然哲学が存在するが、それはアンデス高地の豊饒、かつ厳しい自然環境の中から生まれたものだ。例えばティワナクのシャーマン、ヤティリは宗教儀式の際、自然の精霊、パチャママ、アチャチーラにメサ(供物)を捧げるが、その根底にあるのは、極めて理にかなったエコロジーの思想である。

アンデス宗教思想は神秘的な側面もあるが、同時に非常に理知的な傾向を持っていて、かつて存在した古代文明の「科学」を彷彿とさせる。




アンデスは広大な地域であり、その宗教文化の全貌を知るには長い時間が必要であるが、筆者は残念ながらアンデスの過酷な自然環境のため健康を害し、途中で調査を中断せざるを得なかった。

しかし調査で得られた情報はすでにかなりの量に上り、筆者はその結果をまとめて、2005年に『アンデス・シャーマンとの対話―宗教人類学者が見たアンデスの宇宙観』(現代書館)を刊行した。

アンデス宗教文化の調査研究は筆者の健康上の理由で中止されたが、すべてをあきらめたわけではない。調査はその後も断続的に続く。2006年夏にはボリビアのアイマラ族の宗教的伝統のフィールドワークを行い、アンデス地域における宗教文化の本質を改めて確認した。さらにその後も機会あるごとにこの土地を訪れ、時間の許す限り現地調査を実施した。

筆者のアンデス文化研究に関しては、前述の著作のほか、以下の論文・講演(サイト)を参照されたい。

参照

  • アンデス・シャーマニズムとその世界観.「立教大学ラテンアメリカ研究所報」No.35. 2007年3月.pp.1-16.
  • 聖なる自然―アンデスの宗教と文化―.「世界の諸宗教に出会う」第14回講演会.宗教情報センター.2015年1月11日.(以下のサイトはその要約である。)
    「聖なる自然―アンデスの宗教と文化―」(宗教情報センター)