現在進行中のマヤ宗教文化研究である。2016年8月に『マヤ文明―文化の根源としての時間思想と民族の歴史』を出版して、筆者のマヤ研究は一応の収束を見た。しかしそれで終わったわけではなく、拙著の出版をきっかけに新たな展開をみることになった。拙著はマヤ文化とその歴史を、時間思想を通して俯瞰したものであるが、日本人に疎遠な内容の大部な著作のためか、ほとんど反響らしきものはなかった。そのためその内容を要約した別な著作、あるいは時間思想を体現するマヤ・カレンダーの出版の必要性を感じた。
2016年9月初旬に筆者は数年ぶりにグアテマラを訪れ、ケツァルテナンゴにある民間研究組織IMAGUAC(Instituto Maya Guatemalteco de Ciencia)のメンバーと再会した。そして滞在中にIMAGUACが主催したあるグアテマラ・マヤ文化復興の会合で、刊行されたばかりの拙著を献本した。拙著は日本語で書かれているが、その内容を要約して説明したところ、人々は大きな関心を示した。現代マヤ人はマヤ人としてのアイデンティティに誇りを持っているが、同時にまたマヤ文化の存続に関して大きな危機意識を感じている。拙著の内容は人々にある種のインスピレーションを与えたと思われる。これが契機となりIMAGUACと共同で新しいプロジェクトを立ち上げることになった。これがマヤ・カレンダー・プロジェクト(Proyecto Calendario Maya)である。
その後、筆者は2017年2~3月及び8~9月の二回にわたって現地を訪れ、様々な課題・問題に関してIMAGUACの人々と議論を重ねた。その結果、IMAGUAC所属のシャーマン・研究者によるマヤ・カレンダーの著作を刊行することになった。この新しい著作は合意された作業分担に従って、現在執筆・準備中である。著作はスペイン語版及び日本語版として出版される。また将来は英語版の出版も検討している。タイトルは以下の通りである。
Calendario Maya: Ciencia de equilibrio y armonía(スペイン語版)
『マヤ・カレンダー均衡と調和の科学―』(日本語版)
マヤ・カレンダー、とりわけマヤ神聖暦(チョルキッヒ・マヤッブ)は古代マヤ文化の思想的結晶であるが、そのオリジナルな伝統の多くは現在では失われ、あるいは紆余曲折の結果、混乱した状態にある。このプロジェクトは現代グアテマラ・マヤのシャーマン・研究者が現存する伝統を批判的に分析・考察することによって、かつて存在したと思われる古代マヤのオリジナルなカレンダーを可能な限り復元し、現代に蘇らせようとするものである。またその思想的基盤であるマヤの宇宙観と調和の思想カバウィルの内容と意味を解説し、さらにはそれを無明が支配する現代に向かって発信しようとするものである。