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ネットワーク組織論

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「ネットワーク組織論の重要性」

村上綱実,2014,『非営利と営利の組織理論: 非営利組織と日本型経営システムの信頼形成の組織論的解明』,絢文社「2.3.2.」から抜粋・要約)

1.「ネットワーク組織」と「官僚制」

1.1.「ネットワーク」とは何か?

1.2. ネットワーク組織とは何か?

1.3. 実質的合理的意思決定領域としてのネットワーク

1.4. 経済活動のネットワーク化と官僚制化

1.5. ミンツバーグ組織論の「アドホクラシー」と「官僚制」

2. 結論:ネットワーク組織・アドホクラシーと官僚制組織

(参考文献などは,上記文献『非営利と営利の組織理論』(絢文社)を確認してください)


1.1. 「ネットワーク」とは何か?

(1)  ネットワーク組織の問題意識と一般的理解

「ネットワーク組織」の研究は重要であり,古典的な組織概念に変更を要請する.「ネットワーク組織」と「官僚制組織」には,どちらも「組織」の用語が使用されるが,その意味は必ずしも一致しない.本稿では,バーナード・ヴェーバーの古典的な組織概念を継承し,「組織」の本質を純粋型において「協力」の「非人格的調整」による「支配」とする.この意味で「ネットワーク組織」は「ネットワーク的支配」,「ネットワークを駆使する支配と服従」の関係となる.そのような「ネットワーク」を論理的に導出可能であり,たとえば合衆国の国家安全保障局のすべての通信ネットワークの情報収集活動が内部告発された事案を考慮すれば実際にもあり得る.それらの事案は実際のところ「ネットワーク組織研究」の緩やかな関係性(loose coupling)の視点と相容れない.また「ネットワーク」には構造がないとの指摘もあり得るが,ネットワークの構造は,官僚制組織のそれとは異なる固有のものと考えるほうが正確な理解である.

ネットワーク組織研究に関し,次のような過去の問題提起がある.「社会的ネットワークにもとづく概念を使って観察データを報告しているさまざまな研究者が,なにか一貫したアイデアの集合をもっているとはいいにくい.それどころか,一貫した概念の集合をもっているとさえいいにくい」(Mitchell, 1974:284; 公文, 1994:227).「いまのところ,ネットワーク分析とよばれるいろいろなアプローチの緩やかな連合があるだけだ」(Burt, 1982:20; 公文, 1994:227)ネットワー≠フ概念自体がどれほど厳密に考え抜かれているかというと,問題なしとしない」(公文, 1994:227).「組織とネットワークとはどう違うかという問題は興味深い点を含んでいるが,…それらを特に区別しないことにする.強いていえば,企業体などの集団のフォーマルな面,つまり規制と統制に基づいた面,を問題にするときに「組織」という言葉を,一方参加意欲に基づいたインフォーマルな面を問題にするときには「ネットワーク」という言葉を使う」(金子, 1986:31-32).上記の用語の使用を維持するなら,「ネットワーク」と「組織」を「接合」する「ネットワーク組織」とは「インフォーマルなネットワークによるフォーマルな統制」だろうか.「 ネットワーク」と「組織」,あるいは「ネットワーク」と「ネットワーク組織」を同義に扱うなら,精緻な議論が成立せず,論理性を喪失するリスクがある.

10数年以上前の,上記のような指摘はすでに過去のものだろうか.先行するネットワーク研究の議論において,その分析視角が組織の意思決定過程のどの部分に対応するかに着目,「ネットワーク」および「ネットワーク組織の理論とその問題提起を確認しよう.現代の視点からすれば「組織」と「ネットワーク」の概念の明晰性,その純粋型としての本質的特徴を確実に理解する必要がある.

「ネットワーク」の用語と使用は,1960年代の後半以降,合衆国での既存の大規模な階層組織や「体制」に対する反省,変革への挑戦,当時の環境・消費問題などの社会運動から派生し,既存の組織の構造や意思決定システムを変えていく試み,また情報システムとの関係から,中央制御の大型コンピュータに対するダウンサイジングの分散処理のコンピュータ・ネットワークの普及に対応している(公文, 1994:231-232).大規模な階層的組織は「権力の集中」,ネットワークは「権力の分散」に特徴づけられ,「ネットワーク」と「階層制」を対置させると言っても,「階層構造」のない「組織」は考えにくい.「ネットワーク」と「組織」の構造,純粋型でのその本質的特徴と差異を抽出してみよう.

(2)        「ネットワーク」・「市場」・「組織」

「ネットワーク」の一般的定義は,ほとんどあらゆる社会システムがネットワークとなり,特定の社会システムだけに適用し,「市場」や「組織」などとの違いを比較する目的に対応できない(公文, 1994:226).分析概念としての有効性を喪失している.「ネットワーク組織」は「官僚制組織」とは異なる「組織構造」が想定される.どちらも複数の人間の「協力・協働」(cooperation)であるが,「官僚制組織」では「非人格化」された規則の順守による「支配」を本質とする.「ネットワーク組織」は「支配」ではなく,バーナードの「誘因」の「主観的側面」(「1.2.1.(1)」)での動機や態度を改変させる「説得の方法」による協力の調整を,その本質的特徴と考えてよい.「家族」は「ネットワーク」と言いうるが,「組織」ではない.現代の「家族」であれば,組織の「支配と服従」の関係は,家族の本質的な特徴を表すものとは言えない.あるいは「ネットワーク」による周到な「支配」も考えられるだろうか.

公文俊平は,社会システムの相互制御行為を以下のような三つのカテゴリーに分類し,国家,市場,ネットワークを差別化している.

a. 脅迫・強制: 国家,

b. 取引・搾取: 市場,

c. 説得・誘導: ネットワーク (公文, 1994:234-237)

本稿では,公文の「ネットワーク」・「市場」の定義を採用し,「組織」に関して,その純粋型での本質的特徴を,バーナード・ヴェーバーに依拠し,「非人格化」,「制定された規則の順守」・「標準化された課業とプログラム」によって調整された「協力」であり「支配」とする.したがって「市場」は「取引・搾取」,「組織」は「脅迫・強制」の行使が主体間の主要な相互制御の型となり,それに対し「ネットワーク」は「説得・誘導」の行使が主体間の主要な相互制御行為の型となる.ゆえに「ネットワーク組織」は「説得・誘導型の行為がその支配的な相互制御行為となっている組織」(公文,1994:236-237)である.この場合の「組織」は「調整された協力」だが,この「組織」の一般的定義では,組織の本質特徴が何か確認できず,その本質を「支配」とする本研究の立場と相容れない.公文の「説得・誘導」の定義をバーナードの「説得の方法」を補完するものとして採用し,「主体間の支配的な相互制御行為」を「協力(協働)の調整」に置き換えることにする.すなわち「ネットワーク」は「説得・誘導によって調整される協力」,「組織」は「非人格化,制定された規則の順守,標準化された課業とプログラムによって調整される協力」であり,「支配」をその基本的特徴とする.組織の成員は制定された規則に基づく命令であれば,命令の内容に反対であっても従わねばならない.規則を順守する組織の形式合理性が最高度に貫徹された形態が「官僚制組織」であり,合法的支配の純粋型である.

ネットワークの「説得・誘導」に関し,「説得」は,説得者の要求の当否を相手に判定させる適切で有用な情報や知識を「通有」させ,相手が自ら理解し,自発的に要求に応じてもらうことである.それは,純粋型として自発的だが,実際にそうであるか,操作・強制的かは微妙である.有効な説得とは「情報的な誘導」である.情報や知識の一方的な提供,「通有」を手段とする「説得」を「通有システム」とする(公文,1994:240)

「誘導」の強力な方法として財やサービスを相手に一方的に提供し,相手の状態を改善し,相手に,こちらの期待する意思決定や状態を成立させることが考えられる.本研究の文脈では,ここに「贈与交換」が関わる.このような財やサービスの一方的な提供を手段とする「誘導」によって協力の調整を行う社会システムを「互酬システム」と呼ぶ(公文, 1994:240).「ネットワーク組織」は,古典的な組織論,「紛争の社会理論」の視点(「4.5.2.(2)」)からすれば,インフォームド・コンセントの「支配」,「自発的な支配の受容」と解釈可能であ,交換関係に近似し,それには利害動機と義務動機の二つが考えられる.

「互酬」とは,財やサービスのある時点の一方的な提供,たとえば「恩」や「貸し」の一方的な提供があり,それが後の時点の「お返し」,財やサービスへの一方的な受領を期待して行なわれ,それ自体が過去の時点での「恩」や「貸し」への「お返し」となり,それをいつ誰に何を提供するかといった条件は,関係者間で明示的に指定され相互了解されている訳ではない(公文, 1994:241).「互酬」は,相互の暗黙の了解であり,「取引」や「交換」ではなく「誘導」の一種となる.「互酬システム」では,相手との関係成立の客観的な判定基準,交換量の客観的な評価基準の成立が困難であり,主観的にならざるを得ない.そのため関係者間の期待充足の信念と信頼が必要不可欠となる(公文, 1994:241).この点に関し「互酬システム」と「贈与交換」の関係は検討課題となる.「贈与交換」では,信頼をコミュニティへの共通の所属から派生する相互の義務動機によって充足する.公文は,「互酬」をカール・ポランニーの研究(Polanyi, 1977:xxxiii-xxxvi)から導き,「交換」が「自己調整的な市場」で「個人の合理的な私利に基づいて行われる方式」であるのに対し,「互酬」は財とサービスの移転の根拠が親族システムのような「社会構造」の中に行動規範として組み込まれているとする(公文, 1994:248-249).その意味で「互酬」には規範的な意味がともない,「贈与交換」に対応する.ここでは,次のようなポランニーの指摘を確認するにとどめよう.「物的財の生産と分配は非経済的種類の社会関係の中に埋め込まれている」(ポランニー, 2005:112).本研究の文脈での贈与交換が経済的交換を基礎づけることと同型であり,市場自体には信頼形成機能のないことを意味する.ここではネットワークに集中しよう.M.ヴェーバーが,人間の意思決定と行動に関し,その動機解明を常に問いかけたように,その本質において「ネットワーク」の純粋型は,市場的に利害に制約されるのか,「互酬」を媒介とし,コミュニティ的な意味をもち,規範的な義務に動機づけられるのか,あるいはその中間形態だろうか.ネットワークが,短期的,一時的なプロジェクトでの協力に限定されるなら,市場交換は一度限りの交換でも成立し,交換関係が短期的であるほど市場交換に接近し,義務動機は介在しない.所属の安定的成立がなければ共同体的,コミュニティ的な関係は成立せず,規範的な意味が媒介するとしても,その道徳的意味は希薄である.本研究の視点からすれば「ネットワーク」がコミュニティ的意味をともなうかどうかが重要である.ポランニーによれば,資本主義的な市場での取引関係は,「ネットワーク」において「互酬システム」によって「埋め込まれ」ている(公文, 1994:242).「ネットワーク」がイノベーションのためのプロジェクトの期間限定の事業運営であれば,それは緩やかな「埋め込み」となる.

「組織」,「市場」,「ネットワーク」には,それぞれ異なる特徴がある.「組織」の「脅迫・強制」を「指揮・命令」と考え,「市場」が「取引・搾取」に特徴づけられることは,「市場」が「利害に制約され」,「組織」の本質を「支配」とする本研究の視点と整合する.「組織」がコミュニティ的な意味をともなうなら,「指揮・命令」を受け入れる動機は「義務」であり,「組織」において正しい手続きによって制定された規則に基づく命令に従うことが正しいと要請され,その内容が個人的見解に背き,自己の利害に反しても,組織成員は,異議申し立てはできるが,服従することがむしろ名誉となる.

以上の議論から,「ネットワーク組織」とは,「説得・誘導」によって協力を調整する複数のプロジェクトから構成される「組織」であり,「ネットワーク」が複雑な環境状況に適合し,イノベーションによる問題解決に特徴づけられ,複雑な技術と高度な専門的知識を必要とするなら「ネットワーク組織は,「官僚制組織」を基盤とする,あるいは「官僚制組織」に接合された状態の「ネットワーク」を意味する.「ネットワーク」と「官僚制」の接合は,H.ミンツバーグの組織論の「アドホクラシー」の議論(Mintzberg, 1997:443)に同様の指摘がある.ミンツバーグの「アドホクラシー」も「官僚制組織」を切り離すか,接合した状態で想定される(2.3.5.)

「組織」には本質的に支配の構造がある.「官僚制組織」は形式的に最も合理的な組織である.「ネットワーク」が「説得・誘導」によって有効かつ確実な「調整」(相互制御)を達成できなければ,その事業運営は継続されない.事業運営の確実な継続のために,ネットワークは官僚制化されるか,官僚制と接合される.「ネットワーク組織」は,「ネットワーク」と「官僚制組織」を接合させ,あるいは「官僚制組織」を基盤として「ネットワーク」を活用する組織である.「ネットワーク」の概念は,官僚制組織との関係から,その理解が確実かつ現実的となる.次節より,これらの関係を検討する. このページのトップへ

1.2. ネットワーク組織とは何か?

(1)        ネットワーク組織の一般的定義と特徴

「ネットワーク組織」の「暫定的定義」は,若林直樹によれば「複数の個人,集団,組織が,特定の共通目的を果たすために,社会ネットワークを媒介にしながら,組織の内部もしくは外部にある境界を超えて水平的かつ柔軟に結合しており,分権的・自律的に意思決定できる組織形態」(若林, 2009:30)である.この定義の有効性は,「組織」と「社会的ネットワーク」が正確に何を意味するかに依存し,そのような「組織形態」は,以下のような4つの視点から官僚制的な大企業組織に対し,イノベーションに適合的かつ変化への対応能力が高い(Knoke, 2001; 若林, 2009:31).本研究の視点からすれば,ネットワークを活用する官僚制組織は,そうでない官僚制組織よりイノベーションに適合的かつ適応性が高いということになる.

1)      フラットな組織: トップと現場が近接し,現場の即決の判断を重視し分権的な意思決定が可能であり,

2)      外部の市場原理の組織内部化: 組織の内部基準よりも外部評価基準が組織に導入され,

3)      短期的プロジェクト展開の組織編成: プロジェクトに応じ組織が結成,再編,解散され,

4)      期間限定的・流動的雇用: 長期保障の雇用でなく,組織の内部特殊熟練より,外部労働市場で評価される能力形成(employability)に志向する.

以上のような「ネットワーク組織」は,さらに次のような5つの特徴がある(若林, 2009:37-40)

1)      フラットで柔軟な結合: 階層が低く水平的な結合で「柔軟性」と「適応能力」を達成し,

2)      組織の壁を越えた協働: 組織の部門間,組織間の境界を越え,プロジェクト編成,外部組織との戦略的提携・パートナーシップを活用し,

3)      ネットワークを通じた資源・人材・情報を動員し,

4)      外部環境の判断基準の重視: 外部の判断基準や評価が組織内部化され,

5)      自己組織的で柔軟な変化: 組織内部の結合が緩やかな「ルース・カップリング」で柔軟に組織構造の変更が可能である.

「ネットワーク組織」は,分権化され,問題状況に応じ「説得・誘導」によってケース・バイ・ケースの迅速かつ柔軟な対応を目指している.ネットワーク組織が市場原理の組織内部化を特徴とし,プロジェクトの期間限定的な運営を意味するなら,ネットワークの交換関係は市場の利害状況に制約される.ゆえにネットワーク組織は,市場的な利害動機の「説得・誘導」によって「調整」される.ネットワーク組織の事業運営が継続されれば,ネットワーク組織は,より官僚制化される.事業運営の継続性には官僚制の形式合理化が要請される.組織間のネットワーク組織は,組織の外部環境である市場の価格決定メカニズムと交渉によって利害が調整されるか,利害に応じて解消される.事業運営の継続性を確保し,ネットワーク組織を維持させるためには二つの方法が考えられる.その一つは「ネットワーク的運営を駆使する官僚制組織化」であり,官僚制組織を基盤とするネットワークの2層構造化である.もう一つはミンツバーグの組織論(「2.3.5.」)に見られる「官僚制組織を切り離し,接合するネットワーク組織」である.この場合,ネットワーク部分が最大化,官僚制部分は最小化される.これまでネットワーク組織と官僚制組織は対置・分断され議論されてきたが,本研究では「ネットワーク」と「官僚制組織」を接合し理論化する方法を検討する.

官僚制組織の「事業運営の継続性(Betrieb)」を非人格化,標準化された課業とプログラムによる協力の調整によるものとし,その「組織」の本質的特徴を「支配」とすれば,それに対して「ネットワーク」は複数の「プロジェクト・チーム」によって構成される組織内,組織間の暫定的な連携を意味する.「ネットワーク組織」は,「官僚制組織」を基盤とする「プロジェクトのネットワーク的な運営」あるいは「組織間のネットワーク的な運営」である.「官僚制組織」も外部環境の変化に適応し,組織を継続させるためにネットワーク化の導入を必要とする.

(2)        ネットワーク的組織運営を活用する官僚制組織:「情報化された官僚制組織」

情報システムとしてのネットワークを活用する官僚制組織を考えてみよう.それには権力の分散と集中の二つのケース,その同時進行が考えられる.上司が部下に一方的に指揮・命令するより,部下の職務へ主体的な動機づけを考慮し,「説得・誘導」によってネットワーク的に職務への貢献意欲を引き出しながら効果的に影響力を行使できる.

組織にICTを導入し階層をフラット化すれば,現場での即決の判断が可能となる.同時に現場の状況を中央からリアルタイムのモニタリングが可能となり,この場合,トップ・ダウンの意思決定の有効性も同様に成立する.たとえば全国817店舗を展開する,子供用品と衣服の専門店である「株式会社 西松屋チェーン(姫路市,資本金252,300万円,http://www.24028.jp/)のケースを考えてみよう.「西松屋」では各店舗の規模,構造,商品の配置,陳列レイアウトをすべて統一・標準化し,各店舗のローカルな個別性を排除し,標準化された課業とプログラムで運営されている.各店(約990u)にパート・タイムのスタッフ2名を配置し,そのうち1人はレジ係,もう1人は売場係りの最少人員である.このシステムで全国817店舗を本部の4名のスタッフで集中管理・運営している.全店舗の商品陳列・在庫状況はモニター・カメラで本部からリアルタイムに確認でき集中制御される.本部が各店舗に何か問題を発見すれば,直ちに当該店舗に指示し,店舗スタッフが対応する.このビジネス・モデルでは,フラットな組織で意思決定権限を分散せず,中央制御する有効性が採用され,現場に権限を分散するよりコストを削減できる.ネットワークの分散システムよりも,少人数の遠隔制御による中央制御の管理ステムのほうが,ネットワークの近未来的なモデルを提示する.とくに生産システムのロボットによる省力化は,ネットワークによる遠隔操作の中央制御が近未来的である.

フラットな組織はトップ・ダウンを可能とし,一元的で効率的な管理が可能となる.店舗状況の構造と仕様を統一し,管理の複雑性を縮減できればICTのネットワークを活用して統制の範囲(span of control)を技術的に拡張できる.これを「情報化された官僚制」と呼ぶことができる.分権的,自律的システムの複雑な環境と管理状況でのイノベーションによる問題解決の有効性を否定できないが,組織のすべてのフラット化が権限を下降分散し分権化が必然的に効果的とは限らない.今日の西松屋のビジネス・モデルは絶えず改善・改革の連続の結果(ワゴンセール,マネキン,ポップ表示,接客,BGMなどの廃止として現在に至ったものである.ただし西松屋のオリジナル商品の開発部門はネットワーク的な運用が採用されている.中途採用された熟練技術者を開発担当者として自由な商品開発の権限を移譲し,彼らの高度な熟練技術によって自由な発想から,独自開発の高機能かつ価格競争力あるベビー・カーなどのヒット商品が生み出されている.このネットワーク組織は官僚制組織を基盤として運営されている.西松屋はITCのネットワーク技術を駆使した官僚制組織であり,独自の新商品開発部門はアドホクラシーの構造(2.3.5.(3))が官僚制組織に部分的に接合している.

1980年以降,事業部制の導入によって,部門単位で採算性を確保するカンパニー制なども導入され,意思決定権限が分散・分権化されてきたが,2000年以降,本社機能が強化され,集権化の傾向も確認できる.集権化と分散処理の情報ネットワークの活用は同時進行する.組織部門の壁を超え,各部門を統合・調整し,中央制御化する視点も重要である.中央制御は業務内容の複雑性を縮減し標準化可能な状況に適合し,標準化されたプログラムは情報システムに整合的かつ効果的である.ネットワークの駆使は組織のより精巧な支配の達成でもある.大企業は,組織間ネットワークにおいて,市場の優位性から系列・下請けの納品価格や仕事量を説得と誘導によって調整し,提携によって生産・流通・在庫コストを外部化できる(吉田, 1993:35)

組織論では,組織の適応すべき環境状況との適合性において唯一最善の方法のないことに一般的な理解が成立している.ネットワーク的な分散処理も唯一最善ではない.グローバルな市場状況に対応し,各ローカルの状況に応じ分散処理が考えられるが,国内市場に限定すれば中央制御が有効なことを上記の西松屋のケースが示している.経営トップが現場に出て即決することも,現場担当者への権限委任も意思決定のスピードを高める等価機能の選択肢である.また今後,賃金上昇や労働争議など労務コストや輸送コストの上昇から,中国など発展途上国に進出した工場の本国復帰も考えられ,その際には自動制御の生産機械や産業ロボットが導入され,生産システムは徹底的に合理化・省力化され中央制御化される.日本企業のグローバル展開では知的財産・先端技術・人事などは本社が集中管理する傾向にあり,各部門を集約することで事業効率を高めることが期待される.ネットワーク組織の優位性も状況に依存する.

組織全体の管理システムとして中央制御か分散処理かは二者択一ではなく,状況に応じたバランスの問題である.次のようなR.フィスマンとT.サリバンの指摘はこのことに整合し妥当する.「管理主義を主張する人は,ルールを逸脱した従業員の大失敗をあげつらうだろうし,自由主義を支持する人は官僚主義が組織を無気力にすると主張するだろう.それを考えれば、きわめてイノベーティブであると同時に規則に忠実な組織をつくりあげる"常識"とされるものが,自由主義と管理主義の間で揺れ動く…」.「経営者は創造性という名のもとで野放しにしてきた小さな非効率が積み重なり,看過できない水準に達していることに気づく.あるいは突然,現場に管理権限を委譲しすぎていたこと,逆に効率性という名目で中央集権を進めすぎて創造性を殺してしまっていたことに気づく」(http://bizgate.nikkei.co.jp/article/16060019_2.html) このページのトップへ

1.3. 実質的合理的意思決定領域としてのネットワーク   

(1)  「場面情報」と「上層情報」

「ネットワーク組織」の特徴は,今井・金子らによれば,「場面情報」と「伸縮的分業」の活用にある(今井・金子, 1988; 今井, 1990).「ネットワーク」は「階層制」と対置され,ネットワーク組織の「場面情報」も階層制組織の「上層情報」に対置される.

「上層情報」とは「必然的に“肝心な情報は組織の上層部にある”というものの見方」(今井・金子, 1988:29)であり,意思決定はトップ・ダウンで伝達される.現場の担当者は,既定の標準化された業務運営で制定された規則マニュアルどおりに業務を遂行し,このような業務は「プログラム化された」,「形式合理的な意思決定領域」に対応する.これに対し「場面情報」と「すでにどこかに存在していてデータとして貯蔵できる情報…ではなく,人々の相互作用のなかで形成され,文脈のなかでその意味が解釈され,それらが絶えず動いていく」(今井・金子, 1988:51).「場面というのは,さまざまなことが実際に起こる現場における,変わりゆく状況であり,…それに臨機応変に対処」(今井・金子, 1988:51)しなければならない.このような業務は,ケース・バイ・ケースの対応が現場で要請され,規則の枠を超え業務を改革し遂行する「プログラム化し得ない」,「実質的合理的な意思決定領域」に対応する.ネットワークとは「実質合理的な意思決定領域」,官僚制組織は「形式合理的な意思決定領域」に対応し,この二層の構造が「ネットワークを活用する官僚制組織」あるいは「官僚制組織に接合するネットワーク」である.次のようなサイモンの指摘を確認しよう.

「下層には基礎的な作業過程がある――製造企業ではそれは原材料を調達し,生産物をつくり,それを保管し配送する過程である.中層にはプログラム化しうる意思決定過程――すなわち製造・流通システムの日常業務を管理する過程――がある.上層にはプログラム化し得ない意思決定過程がある,それはシステム全体を設計あるいは再設計し,そのシステムに基本目標や諸目的を与え,さらにその目的遂行を監視するのに不可分な過程である」(Simon, 1977:110)

サイモンは,組織を上記のように「三層」としたが,下部二層が官僚制組織に該当し,それに接合する上部一層が「トップ・マネジメント」あるいは官僚制組織を基盤とする「研究・開発部門」であり,「ネットワーク」に該当する.専門的知識をもつ研究開発を担当する,新商品や新システムの企画・開発の複数のプロジェクトの集合部分が,下部二層の官僚制組織を基盤とし,それに接合された「ネットワーク」部門を構成する.

(2)        伸縮的分業と固定的分業

ネットワーク組織の特徴として,今井・金子は,「固定的分業」に対する「伸縮的分業」の重要性とネットワーク組織の情報技術の開放性を指摘している.

「固定的分業」とは「最終製品の販売計画を先ず立て,それに基づいて生産計画が立てられることを意味するが,そうすると製造工程のみでなくマーケティングを含んだ事業計画そのものがヒエラルキー状に進行する」(今井・金子, 1988:65).「固定的分業」とは階層制組織としての官僚制的運営を意味し,「形式合理的な意思決定領域」に対応する.これに対し「伸縮的分業に基づいた事業展開をしている企業のマーケティングは,…必然的にネットワーク的なものになる.というのは,特定の製品を量産して後は販売店が陳列するのに任せるというのではなく,多種類のモデル製品を少量ずつ供給し売れ筋に応じて生産量を調整して行く」(今井・金子,1988:65).「伸縮的分業」とは「場面情報」による「実質合理的な意思決定領域」に対応する.以上の議論は,ネットワーク組織論の重要な論点を官僚制理論の文脈に接合させる試みである.ネットワークと官僚制の二層構造の組織を考えてみよう.大学病院などには,先進医療研究と治療実践において複数のプロジェクトが進行し,イノベーションによる問題解決を追求する「医療研究センター」があり,ネットワーク的に運営される.同時にその複数のプロジェクトの事業運営の継続性は管理事務局の官僚制を必要とする.大学など研究機関も研究部門は分権的なネットワークであるが,教務事務局,人事・総務など間接部門は官僚制組織である.ネットワークには,それ支援する官僚制が接合している.

(3)        情報システムの開放性

ネットワーク組織を特徴づけるもう一つの論点は,情報技術の開放性である.「情報技術というものは,本来開放性を持っている.それはコンピュータの歴史をみれば明らかであり,独占的企業や寡占企業がかかわりながらも,基本的にはソフトウェアは開放され,異機種間で連結される方向をとってきた.…共通に利用しうる知識・情報は開放し共有し,それを利用したうえでそれぞれの主体が個性的に多様性を競うことが,情報ネットワーク社会の本質である」(今井,1990:13).情報技術それ自体に公開性の効果があればICT導入は「官僚支配」(「2.1.9」)やテクノクラシーを抑止するだろうか.情報の非対称による操作・隠蔽が自動的に制限される訳ではない.「アラブの春」など,ソーシャル・メディアの一定の効果を否定できないが,それはICTを道具として,どのように活用するかに依存する.むしろアラブ諸国の政変には気候変動による干ばつによる食糧と貧困問題に注目する必要がある.ソーシャル・メディアによる民主化の外面と同時に支配の構造の実質的な連続性を考えておく必要がある.実際のところ「アラブの春」は支配の混乱と政権の統治能力の困難を露呈させる.富と権力の隔絶した格差の構造にソーシャル・メディアが与えた影響は何一つ確認できず,それは政治システムのリアルな「炎上」を導いたに過ぎないかもしれない.現在においても,組織の本質は,支配と服従であり,軍事力と組織人員の動員力が最終カードである.それはシリアとイラク,アフガニスタン,そしてウクライナの現状を見れば明らかであろう. 

ICT導入は,権限の分散と集中の同時進行を考える必要がある.権限の分散は統制の逸脱でもある.アンドロイドOSはオープンソース化されているが,アップルのiOSはそうではない.オープンソースには,フリー・ライドの脆弱性のリスクがともなう.アップルはサムソンを特許侵害で訴えている.同時代的なアップルのような会社がオープンソース戦略をとっていないことに注目しなければならない.開放と閉鎖の二つの戦略が同時に成立し,ICTは複雑性を縮減し同時に増大させる.

(4)  官僚制組織の矛盾」と「ネットワーク組織の矛盾」

官僚制理論の問題提起の一つは組織の合理化による形式と実質との矛盾関係であった.この問題はネットワーク組織論では次のように指摘されている.「垂直的統合とネットワークとは微妙なところで争う….…現実的な選択としては,まことに当然のことながら,現代の競争に勝つために不可欠な垂直的統合の部分を残し,その他の部分は組織の疲労を避けるためにできるだけ分社化してネットワークの良さを取り入れることになろう.….二つの接近は緊張関係に立ち,どちらかが決定的な優位性を持つということではなく,競争環境に応じ産業の場によって分散化への力と集中化への力が働くことになる.これがわれわれのいうネットワーク組織論である」(今井, 1990:51)

官僚制組織は「標準化されたプログラム」によって協力を調整する.ネットワークは「説得・誘導」によって場面情報の活用による「脱コントロール」に特徴づけられる.ただし次のような指摘もある.「コントロールを脱して自律的な学習過程や自己組織化の方向に動くといっても,そこにはやはりコントロールとのバランスを考えざるを得ない.国際ネットワークの場合にはやはりコントロールの比率が高く,例えば8020というような比率になる」(今井, 1990:51).形式合理的な意思決定領域と実質合理的な意思決定領域の矛盾関係が今日においても組織理論の重要な課題である. このページのトップへ

1.4. 経済活動のネットワーク化と官僚制化  

(1)        ICTによる分散処理と集中制御:部分・全体の最適性

ICTの分散処理は,経済的権力と資源分配の不平等とどのような関係にあるだろうか.権限と責任は,職務への動機づけとして現場スタッフに移譲されると同時に中央からのリアルタイムのモニタリングもICTによって可能となる.ネットワーク化は非正規雇用の拡大によって,官僚制組織に正規に所属しない非正規のネットワーカーの労働者を生み出し,長期的な雇用保証なく労働条件を不安定化するリスクがある.北陸先端大の「産学官連携コーディネーターの雇用環(流動性に係る実態調査報告書(20126-7月実施)」によれば,産学官コーディネーターの雇用は単年度契約(更新を含む)60.8%,無期雇用7.2%,有期雇用を前提とし人事考課が実施されないケース54.6%,人材育成プログラムのないケース70.9%であった.労働量不足・労働条件の不安定化のリスク回避が必要なら,官僚制を基盤としたネットワーク組織が考えられる.ただし,それは同時に労務コストの固定化を意味する.

企業組織,組織間のネットワーク化は,イノベーションによる競争力の強化,生産性の拡大,コスト削減を意図している.雇用調整や業務の統廃合など,ICT化とネットワーク化は,これまで徹底的な業務改革の手段として導入され,その成果は業務の徹底的な見直しに依存する.現場の自律性と管理の強化,部分最適と全体最適の関係はICTを道具としてどのように活用するかに依存する.「ICT導入」と業務改革に論理的必然性はなく,「脱IT」による業務改革も考えられる.業務の情報システムへの依存度が高ければ,担当者は業務実態と実感が合致せず,「脱IT」は,在庫状況をディスプレイ上の数値ではなく,実際に現場で目視し,コスト削減意識や機会損失の問題を覚醒させる効果がある.このような手法は,実際に生活用品開発販売の新興家電「アイリス・オオヤマ株式会社」(従業員数2,610人,株主資本650億円)のような多様な在庫の管理を行う会社で「脱IT化」が導入されている.コンピュータ・ネットワークの使用制限によって,PCディスプレイに表示された数値上の処理ではなく,実際に大量在庫を目視し,現状のリスクを覚醒させる効果がある.ITに依存していた時には直接,連絡を取っていなかった営業担当者とのコミュニケーション頻度を高め,売れ行き状況の変化などリアルタイムの現状把握から,在庫縮小へ工夫が成果に結びつく.在庫管理と営業部門のそれぞれの担当者が問題意識を共有する効果が期待される.これらの事実はコンピュータ・ネットワークを活用あるいは活用せず業務をどう改善するか,業務改革が最重要であり,ITを活用しない方がハードの費用を要しない「カイゼン」となる.さらに「株式会社ドリーム・アーツ(東京都渋谷区,資本金3億円)のような                IT企業でさえ,会議にPC持ち込みを禁止し,PCに依存したコミュニケーションより,対面的なそれを活用する戦略が採用されている.

情報システムの管理プロセスへの導入には管理強化の側面もある.企業間ネットワークに関し「ネットワーク」の「互酬性」にかかわらず,「説得・誘導」は「支配」の効果的な手段となる.「利害」の提携と「支配」は常に流動的である.利害状況からネットワーク的な提携関係が成立し,「説得・誘導」によって相互に影響力を行使するが,資産の優位性と情報の非対称性によって提携条件は広範な影響力の行使から強制もあり,事実上の「支配」であるかのような状況を導き得る.高付加価値のブランド力ある最終製品の企画・開発会社と部品サプライヤーとの市場で自由な対等の関係とネットワーク全体の最適化が想定されるが,企画・開発会社は,サプライ・チェーンにおいてジャスト・イン・タイムでの納入を要請する.しかし計画外の発注,発注の直前の変更もあり,サプライヤーは,事前に規格変更や発注予定など情報共有を求める.通常,サプライヤーが待機し,在庫を多めに維持するが,ネットワークの参加者は利害状況に制約されリスクを外部化しようとする.過度な値下げ,返品,リベート要求など不透性も含まれる.製造組立をアウトソースすることでリスクを外部化できる.

ネットワークへの参加者の対等のパートナーシップ,互酬システムの成立には検証が必要である組織では規則の範囲内の支配服従の関係が成立する市場では利害状況による形式的に自由な交換が前提だが,実質的に不平等な結果となる.市場による自由競争の資源配分の最適性の前提は,市場での利害状況による強制(Weber, 1976:542)と市場が不平等を制度化する事実と相殺される必要がある.実際の組織間ネットワークでもリスクの外部化があり,内部情報をどこまで相互に共有できるか不透明である.ネットワークからの自由な離脱が担保されるとしても,埋没費用から離脱には損失がともなう.「説得・誘導」と「支配」は混合的,流動的,結合的である.ネットワーク内の交換で利得が得られない場合,交換パートナーの関係を解消し,新たなパートナーとの提携によってネットワーク効率性を高めることになる.ネットワークに共同体的な意味がなければ,ネットワーク内の交換は,市場交換の利害状況に方向づけられ利害が一致する限りにおいてのみ継続する.

(2)        ネットワーク組織の信頼形成

組織間ネットワークの信頼関係はどのように構築されるだろうか.命令権限のある組織内部でさえ,各事業部,各部門の部分最適があり,事業計画は実質的な力関係かトップ・ダウンの命令権力に依存する.ネットワークでは専門知識による相互交渉による調整が期待されるが,説得・誘導の調整に要する時間やコスト,問題発生時の自己利得の優先と保身もあり,組織内部の全体最適化さえ目指すべき目標となりかねない.ネットワークの参加者には,情報の非対称性,保有資源の希少性と市場価値の格差があり,全体の最適性も,実際の利害状況に関係づけられる.ネットワークの参加者の自律的で対等な関係,ネットワーク内での信頼と協力の成立条件が示される必要がある.そこには戦略的な機会主義,不等価交換の制度化があり得る.ネットワークの信頼関係は,社会に埋め込まれ,規範に依存するとしても,ネットワークにおける信頼形成のプロセスと条件を明らかにする必要がある. このページのトップへ

1.5. ミンツバーグ組織論の「アドホクラシー」と「官僚制」  

ネットワーク組織は「アド・ホックな構造の組織」と考えられる.「アド・ホック」とは「その場その場に応じ」,環境の変化に適応し組織構造などを常時変更できることを意味する.「ネットワーク組織は,分権的なイノベーションや変革が有利な経済や産業社会の領域で発達してきた」(Malone, 2004; 若林, 2009:144).そのような組織構造は「アドホクラシー」(Adhocracy)である.H.ミンツバーグによれば,「アドホクラシー」とは,複雑でダイナミックな環境状況に適合し,イノベーションによる問題解決のため分権化された構造である(Mintzberg, 1979:432).イノベーティブな問題解決の場合,制定された規則の枠を超えてケース・バイ・ケースでの柔軟な対応が要請される.そのような条件に適合するのが「アドホクラシー」である(Mintzberg, 1979:432; 2007:352).組織構造化はミンツバーグによれば1)「単純構造」,2)「機械的官僚制」,3)「プロフェッショナル官僚制」,4)「事業部制構造」5)「アドホクラシー」の5類型が考えられる(Mintzberg, 1979:301)本研究では「機械的官僚制」と「プロフェッショナル官僚制」に対する「アドホクラシー」の関係が重要である.

(1)        「機械的官僚制」

この構造は,組織規模が大きく,技術が複雑でなく安定的環境に適合し,高度な専門分化,課業の標準化によって協力が調整される(Mintzberg, 1979:315).ミンツバーグによれば,それはヴェーバーの官僚制であり,バーンズとストーカーが織物産業,M.クロジェが独占的タバコ産業,ローレンスとローシュが容器産業に見出した組織構造である.保険会社や鉄道会社,郵便事業など大衆向けのサービスを提供する大企業,鉄鋼会社,航空会社,自動車メーカーのような成熟した大量生産方式で一般的な構造である(Mintzberg, 1979:314-315).マクドナルドやスターバックスの管理システムもこれに該当する.課業が標準化,ルーティン化され,マニュアル通りにハンバーガーやエスプレッソが提供される.規則が組織全体に行き渡り,意思決定は公式の権限に従う(Mintzberg, 1979:319).管理規則は現代ではデジタル化され携帯端末で確認され,ゲーム端末でシミュレーション可能である.「機械的官僚制」は「時代遅れ」とされるが,今日においても組織管理の最大の適用領域が確保されている(ミンツバーグ, 2007:272).ただし管理運営の確実性は硬直性であり,イノベーションによる問題解決には適合しない(ミンツバーグ, 2007:269)

(2)        「プロフェッショナル官僚制」

この構造は,複雑だか安定的な環境状況に適合し,集権的ではなく,分権的な官僚制の構造である(Mintzberg, 1979: 348;357).この構造では標準化されたスキルと専門的知識によって協力が調整される(Mintzberg, 1979:349).対応すべき問題状況が診断され,適合する標準化されたプログラムが選択され,問題解決の処方が専門的知識として確立している.標準化されたプログラムが採用されるが職務内容は複雑であり,フォーマルな命令系統による管理は困難である.専門的知識と訓練を必要とするプロフェッシナルな人材が配置され,職務遂行に必要かつ十分な権限が与えられる.法律事務所,総合病院,大学などの教育機関,会計監査法人の組織構造がこれに相当する(Mintzberg, 1979:348-349).弁護士,医師,専門技術者,教員,公認会計士など,各専門分野の事案で専門知識に基づきケース・バイ・ケースの判断を行う.それと同時にプロフェッショナルな人材を支援する大規模なスタッフを要し,その部門の業務内容は標準化されている.この組織構造では,プロフェッショナルによる専門的知識を駆使する相互調整とフォーマルな命令系統の二つの協力の調整メカニズムが併存する(Mintzberg, 1979:352)

「アドホクラシー」と上記二つの組織構造との違いを確認しよう.機械的官僚制は,標準化された一連の課業を反復的,ルーティン的に職務遂行する.標準化された課業に問題状況の「診断」は含まれない(Mintzberg, 1979:353).プロフェッショナル官僚制は,より複雑で高度な専門的知識を要する職務に適合し,問題状況の「診断」が要請される.そのために必要な権限がプロフェショナルな人材に与えられ,最適な標準化されたプログラムが選択される.しかしながら官僚制は新しい問題状況への対応には限界がある.その場合,イノベーティブな問題解決による対応が要請され,それに適合する組織構造が「アドホクラシー」である.

(3)        「アドホクラシー」

この構造は,複雑で変化の激しい環境でのイノベーションによる問題解決を目指す複数プロジェクトから構成される.それは宇宙産業,石油化学,シンクタンク,映画製作などの現場で採用されている(Mintzberg, 1979:432-432).「官僚制」は標準化された課業とプログラムから職務を遂行するが,「アドホクラシー」はイノベーティブな問題解決によって(Mintzberg, 1979: 432-433),「限りなく流動的な構造で,権限は常に移動している.調整と統制は,関係者間の相互調整によって,インフォーマルなコミュニケーションや有能なプロフェッショナル同士の相互作用を通し達成される」(ミンツバーグ, 2007:281).「アドホクラシー」「相互調整は,「ネットワーク」の「説得と誘導」に対応するそこでは構造が常に流動的でありNASA有人宇宙飛行センターを例とすれば1960年代発足当初8年間で17組織変更が実施されている(Mintzberg, 1997:433)

アドホクラシーの特徴は,目標が明確に定義されても,その達成方法が不明な点にある(Mintzberg, 1997:447).イノベーションによる目標達成は,フォーマルな指揮・命令によって実現されず,発見的問題解決,プロジェクト・チームのイノベーション実現の成果次第であり,プロジェクトの構成員に必要な便宜が与えられ権限が移譲されており,その運営は分権的である.プロジェクト内,プロジェクト間の調整を行うマネージャーは,人間関係を熟知し,説得(persuasion)・交渉(negotiation)・提携(coalition)・評判(reputation)・協調的関係(rapport)などを駆使し,個人主義的なエクスパートのメンバーから構成される多元的な専門分野をクロスするプロジェクト・チームを運営しなければならない(Mintzberg, 1997:447)

アドホクラシーでは,イノベーション志向で組織運営され,本研究の古典的な視点では「プログラム化され得ない」,「実質合理的な意思決定領域」に対応する.しかし事業継続とともにアドホクラシーも官僚制化される(Mintzberg, 1997:455)アドホクラシーはプロジェクトごとに立ち上げられその達成ごとに消滅する.達成されたイノベーションの成果が標準化されたプログラムに変換されれば官僚制化され,官僚制に受け渡され,その事業運営の確実性と継続性を高める.アドホクラシーの例として,ミンツバーグはNASAを挙げるが,NASAは,環境保護庁,中央情報局,人事管理庁などと同様,大統領直属の独立行政法人の一つであり,1958年発足,人17,900人,年間予算176億ドル(2009年度)であり,そのような大規模組織は官僚制なしに成立しない.標準化されたプログラムを採用せず,常に試行錯誤のイノベーティブなプロジェクトは創造的だが効率的ではない.イノベーションは数多くの失敗の上に成り立つ.膨大な予算と時間が投入されつつ繰り返される予算削減の要請は,アドホクラシーの組織構造の一部を官僚制化する.NASAはアドホクラシーの構造に特徴づけられるが,組織全体がそうではなく,官僚制に「接合」されている.ミンツバーグは「接合」ではなく,官僚制部分が別組織化,分社化,アウトソースによって「切り離される」(truncated)と考えている(Mintzberg, 1997:442).それは視点の違いに過ぎない.アドホクラシーは,官僚制の公式組織を基盤とし,その構造だけを抽出すれば,緩やかに調整された複数のプロジェクトの集合であり,官僚制的な管理機構なしに事業運営を継続できない.

「図2.1.」は,ミンツバーグによる「アドホクラシーのロゴ」である(Mintzberg, 1997:443).この図の上層の実線部分が「アドホクラシー」,下層の点線部分が「官僚制」として二層構造化されている.アドホクラシーはイノベーションに特化した複数のプロジェクトである.イノベーションの成果をプログラム化し製品化,大量生産するのは官僚制組織である.

アドホクラシーは,官僚制と接合するだけでなく,常に官僚制化する可能性を含(Mintzberg, 1997: 455),アドホクラシーの達成したイノベーショ ンによる問題解決は標準化したプログラムに変換される.設計から販売までの垂直統合的な組織形態では,イノベーションのコストを負担する必要な組織ユニットが官僚制であり,イノベーションが中断すれば,アドホクラシーはプロフェッショナル官僚制化し,それと区別できなくな(Mintzberg, 1997:455-456)再びイノベーションへの要請が高まれば,プロフェッショナル官僚制のアドホクラシー化が考えられ,二つの構造は,流動的,混合的,結合的である.アドホクラシーの構造は官僚制と接合し,官僚制を基盤として成立する.ミンツバーグによれば,官僚制の標準化された手続と課業,標準化されたプログラムがイノベーションを妨げないように,二つの構造は「切り離される」(Mintzberg, 1997:442;456-457).このようなアドホクラシーと官僚制の関係は,「ネットワーク」と「官僚制」の関係にも成立する.

ヴェーバーの官僚制組織の構造も二層化していることに着目すべきである.ヴェーバーによれば「単数または複数の指導者は,われわれはこれを「ヘル」(Herr)と呼び,…特にヘルの命令のままに動くひとびとをヘルの「装置」(Apparat)(Weber, 1976:549)としている.官僚制は,「単数または複数ヘルの装置に対する関係」(Weber, 1976:549)を含み,「近代的な「大臣」や「大統領」は専門資格を要しない唯一の「官吏」であるが,このことは,彼らが,単に形式的な意味でだけ官僚であって,実質的な意味では官僚ではないことを証明している.この点では大企業の「取締役」(General-direktor)も全く同様である.…官僚制的支配は,その頂点において,少なくとも純粋に官僚制的ではないような一要素を,不可避的にもっている」(Weber, 1976: 127).官僚制は「ヘル(=支配者)」とその「支配装置」としての官僚制の二層構造を構成している.

 

 官僚制の二層構造のヴェーバーの指摘から,上層に「トップ・マネジメント」だけでなく「研究開発部門」も,そこに加えて考えてみよう.「2.2.」は,ミンツバーグのアドホクラシーのロゴを受け,ヴェーバーの想定を図式化したものである.上層部が「政治家・企業家」などトップ・マネジメント,または「研究開発部門」であり,下層部が支配装置としての「官僚制」である.官僚制の上層部に「研究開発部門」が接合される.ただしこのような企画・開発から製造・販売までの垂直統合的な官僚制組織の構造は収益性において時代遅れであるかも知れない.

 企業の組織構造と収益性を考慮するとき,アドホクラシー部分が高付加価値と関連づけられる.企業の業務内容と収益性を比較した「スマイルカーブ」仮説は,「図2.3.」に示されるように,「企画・研究開発」と「アフターサービス」部門が高付加価値・高収益であり,この部分はイノベーティブな問題解決に依存し,アドホクラシーの構造が適合する.

一方,官僚制の組織構造が対応する「組立」部門は低付加価値・低収益であるから,ミンツバーグが指摘するように,アドホクラシーの構造化において,「組立」の課業部門である「機械的官僚制」を切り離し,別会社化,アウトソーシングすることは合理的である.たとえば「アップル」は,“iPhone”や“iPad”の企画・研究開発とアフターサービスに特化し,その構造はアドホクラシー化し,製造・組み立て事業の機械的官僚制の部分は中国,台湾などの新興国の現地工場にアウトソースしている.日本の製造業は,企画・研究開発とアフターサービスの比重を高めることが収益性において有効かも知れない.日本の自動車産業でも,機械的官僚制に相当する組立ラインをタイやベトナムに移転し,国内生産ラインをマザー工場としての企画・研究開発機能に純化する対応が見られる.ただしアップルのような戦略が常に有効である訳ではない.そのブランド力は高価でも売れるという利益率の高さを実現するが,それらを購入できる購買力あるユーザー層は限られている.アップル製品はBOPのボリューム階層には価格が高すぎ,販売台数を伸ばすためには,アドホクラシーの構造を維持し,イノベーションの連続を恒常化・先鋭化するか,達成したイノベーションを標準化されたプログラムに置き換え,組織構造を官僚制化し,低価格帯への進出を視野に入れる必要がある.このような議論は,「アドホクラシーの官僚制化」,「官僚制のアドホクラシー化」である.後者の例として,スーパー・マーケット・チェーンのプライベート・ブランド商品の自社開発とその生産のアウトソースを指摘できる.これによって付加価値の高い,低価格で粗利益率の高い商品をラインアップできる.イオンの「トップ・バリュー」はそれに該当する.また企画・研究開発に特化する戦略は,一方において製造組立に特化する水平的分業の戦略の可能性を開いている.台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC:臺灣積體電路製造股份有限公司)は,半導体チップの受託製造の請負企業だが,発注元企業は600社,半導体関連製造の最大シェアの「世界の工場」に成長している.この会社はシリコンバレーの製造部門をもたない「ファブレス(fabless)企業」の受注を受け,製造を請け負う「ファウンドリー(foundry)」として水平的分業において高い収益性を達成している.TSMCの組織構造は,高度な製造技術と専門的知識を要する「プロフェッショナル官僚制」の組織構造である.製造に特化することでゼロからの研究開発費の莫大な予算とリスクを外部化できる.

企業組織の環境状況が複雑で変化が激しければ,組織はイノベーティブな問題解決を志向するアドホクラシーの構造に適合する.しかしイノベーションが達成されたとしても,その成果は十分に採算の取れる形で最終製品化されねばならない.イノベーションの成果を標準化し,プロフェッショナル官僚制に成果が受け渡される.標準化された課業やプログラムをさらに単純化できれば機械的官僚制化の可能性もある.逆に官僚制の組織構造がイノベーティブな問題解決に方向づけられれば,アドホクラシー化する(Mintzberg, 1997:478).これらの議論は,研究開発部門の組織構造と官僚制の組織構造との関係に議論を発展させる.ミンツバーグは両者の「切り離し」を想定したが,本研究ではその「接合」,すなわち「アドホクラシー」や「ネットワーク」は,官僚制組織を基盤とし,両者の関係は,以下のような「スカンク・ワークス」の概念から経験的に理解が可能である.

(4)        官僚制組織を基盤とする「スカンク・ワークス」

「スカンク・ワークス」(Skunk Works)は,革新的な製品・技術などを開発するために既存の組織とは別に設置される研究開発チームである.この用語は,本来,1943年,防衛・航空機メーカー「ロッキード・マーチン」の先進開発計画」(Lockheeds Martin's Advanced Development Programs)の別名であった.機密保持のためにロッキード社から分離した組織形態として,主任設計者であったケリー・ジョンソン(Clarence Leonard “Kelly” Johnson)と数人の設計者に加えて30人の職工を含め開発チームが編成された.発足当初は借り受けたサーカステントに設営された.そこがたまたまプラスチック工場の隣で悪臭がひどかったことから「スカンク・ワークス」と呼ばれた.このチーム編成からF104戦闘機,U2偵察機,F117Aステルス戦闘機などが開発されており,現在も最先端開発チームに,この名称が与えられている(http://www.itmedia.co.jp/im/articles/0806/02/news116.html)

「スカンク・ワークス」は,R.フィスマンとT.サリバンによれば,官僚制組織が自由奔放な創造的発想を導くため導入される組織編制の方法である.官僚制組織の一部分を切り離し,物理的に距離を置き編成される.そこに入れるのはプロジェクトに直接携わる成員に限られている.この用語は現在では大規模な組織の中の自律的開発グループを意味する(http://bizgate.nikkei. co.jp/article/72525718_3.html).官僚制組織から「切り離す」ことで標準化されたプログラム管理から解放されながら,「組織の中の組織」として官僚制に接合し,官僚制を基盤とする開発組織である(http://bizgate.nikkei.co.jp/ article/72525718_4.html).スカンク・ワークスによって開発され,有効性が実証されたイノベーションは,プロフェッショナル官僚制から組織全体の成果に広がっていく.「スカンク・ワークス」は官僚制組織の「ネットワーク化」でもある.しかしイノベーションに適合するにしても,独創的なイノベーションの成果が実際に顧客のニーズに合致し,収益を生み出すまでの課業には厳密な官僚制的管理が要請される. このページのトップへ

2. 結論:ネットワーク組織・アドホクラシーと官僚制組織 

「官僚制」は合法的支配の純粋型である.「官僚制組織」は,すべての意思決定と行動が制定された規則に準拠し,形式的に最も合理的である(Weber, 1976:128)官僚制では非人格化と標準化されたプログラムによって協力が調整され,ヴェーバーは,官僚制が「個々のケースに適合した処理を阻むような一定の障碍を生み出す可能性があるし,事実生み出している」(Weber, 1976:570)ことを認識していた官僚制の標準化されたプログラムと規則の順守は,イノベーションによる問題解決が要請される場合,無力であり限界がある.合理的な組織としての官僚制の矛盾関係の限界をどのように理論化するかが官僚制理論の最も重要な問題提起の一つである.『法社会学』においてヴェーバーは「法理論の抽象的な形式主義と,法によって実質的な諸要請を充足させようとする要求との間には避けられない矛盾」(Weber 1976:469)があると指摘し,この矛盾が合理的な組織の限界である.法の支配,制定された規則による合理的な組織管理に特徴づけられる「近代」は,調停不能な形式と実質の二律背反のうえに成立する(Bendix, 1977:485)

形式合理的な組織としての「官僚制」は,秩序を維持する支配の装置であり,形式合理性の貫徹によって達成される標準化されたプログラムと専門的知識による管理の技術的卓越性に対する実質合理性との矛盾関係を問題提起したが,ヴェーバーには「ネットワーク」や「アドホクラシー」などの概念は無く,議会での政治家のリーダーシップと企業家のイノベーションの役割に着目し,官僚制の支配装置との関係において合理的組織の二層構造を考えていた.

形式合理性は,制定された規則の順守,標準化されたプログラムの適用であり,H.A.サイモンの「プログラム化し得る意思決定領域」に対応し,実質合理性は,規則の枠を超え,予測できない個別ケースでのイノベーションによる問題解決を志向する意思決定の合理性であり「プログラム化し得ない意思決定領域」に対応する.

合理的な組織の矛盾関係への対応に「ネットワーク」が適用される.その適用は,状況に応じてケース・バイ・ケースの柔軟な処理を可能にする.ネットワークの特徴である専門的知識による「説得・誘導」によって協力が調整される.ミンツバーグはその組織構造を「アドホクラシー」と呼んだ.しかしネットワークもアドホクラシーも官僚制組織に代替する組織構造というより,官僚制組織によるネットワーク的対応,ネットワークと官僚制の二層構造化,アドホクラシーと官僚制組織の「切り離し」あるいは「接合」である.事業の継続性への要請から,ネットワークやアドホクラシーは,官僚制組織に「接合」され,官僚制組織を基盤とする組織構造である.

実際の組織では,その一部が「ネットワーク」,一部が「官僚制」であり,両者は混合的,流動的,結合的である.一方が一方への関係と接合を維持し,分社化,アウトソースなどが想定される.トヨタ,ホンダ,ニッサンなどの自動車産業の大規模組織は,官僚制組織の部分,イノベーションを実現するネットワーク,アドホクラシーの部分を含む,多層的,複合的組織である.アップルは,収益性の高い企画・研究開発部門と販売・アフターサービス部門に関し,アドホクラシーの構造に特化し,製品の組立の機械的官僚制の部門を新興国の製造工場にアウトソースし,アドホクラシーの純粋型に近似する.収益性の高さはアップルのブランド性に依存し,購買力あるユーザーの階層は限定されている.購買が一巡すれば,さらに魅力的な商品の開発の連続に挑戦し続けるか,購買層のボリュームある低価格の製品開発に向かうかを選択しなければならない.後者の場合,イノベーションの成果の標準プログラム化による管理,組織構造の官僚制化,製造の内部化が行われる.マイクロソフトがPC製造部門をM&Aし,自社製造のPCを販売するのはそれと同じ論理である.

本研究では,組織の現実的認識のため,「組織」の本質を「支配」とする立場から官僚制組織をとらえ,組織概念の明晰性を維持する立場を選択した.「ネットワーク組織」は,イノベーションによる問題解決を志向する,官僚制組織に接合し,官僚制組織を基盤とする,より精緻化された支配である.その場合,組織成員は,支配への服従を主体的に自らに課し,自由な選択として支配を受容する.

官僚制組織の現実的な最も重要な問題として,ヴェーバーが考えたのは,官僚制の限界(ウェーバー, 2005:330-331)であった.官僚制の職員はイノベーションに対し限界があり,政治家や企業家とは,職務内容より責任のとりかたに違いがある.官僚制の職員には,自らの意思に反する命令に従う義務があるばかりか,自身の見解と一致しない命令を誠実に実行することが名誉となる(ウェーバー, 2005:346).このことはバーナードの公式組織の「非人格化」による協力の調整と論理的に整合し,組織の本質は,非人格化と課業の標準化によって調整された協力としての支配と服従の関係である.

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担当: 村上綱実(Kohjitsu MURAKAMI) 立教大学大学院 21世紀社会デザイン・ 経営学研究科兼任講師
( 公益財団法人) 政治経済研究所 主任研究員 
最終更新日 : 2015/09/17