顔と身体は、個々人の生物学的・生理学的諸条件に規定された自然的存在であると同時に、学習と経験を通して文化・社会的制度によって馴化されていく社会的存在でもある。この意味で、顔と身体は、能動と受動、個人と社会、生得と学習、自然と社会がせめぎ合う場所である。本計画班では、フッサールにはじまる現象学的立場から、身体表現がどのように文化社会的制度を取り込んでいき、それがどのように個々人の間主観的関係を導くのか、身体主体がすでに自己身体に取り入れてもいる文化社会的制度をどのように意識して解釈し、どのように利用あるいは拒否し、どのように変容させるかを分析する。これにより、本新学術領域研究全体における理論的な基礎を担当し、顔身体表現の一般理論の構築を目指すと同時に、異なる社会文化的制度における身体性の変異と変容に注目する「比較現象学」の確立を試みる。
本研究は、現象学と実証的研究を融合させる現象学的実証主義の立場に基づく。現象学は、個々人の経験をあるがままに記述し、その意味関連の構造を分析解明する哲学的方法論である。本計画版では、各文化社会において、また各社会的場面と人間関係において、顔と身体表現の可視性と可塑性、自己所有感がどのようにコード化され、どのように個々人がそのコードと向き合っているかについて現象学的記述を行い、それらを比較し、各文化社会における顔身体表現を相対視することで顔身体表現の比較現象学を共同作業として成立させていく。とくに以下の3つを、研究のテーマ・目標として掲げる。