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イベントレポート
【8/6(月) 米国の対立解決教育~ニューヨーク市の公立学校における
ソーシャル・エモーショナル・ラーニングの推進~レポート】
立教大学ESD研究センター R.A.:湯本浩之
(特活)開発教育協会事務局次長:中村絵乃氏
日時: 2007年8月6日(月) 14:00~16:00
場所: 池袋キャンパス「太刀川記念館」多目的ホール
題目:

米国の対立解決教育~ニューヨーク市の公立学校におけるソーシャル・エモーショナル・ラーニングの推進~

講師: トム・ロドリック氏(Morningside Center事務局長)
通訳: 中村絵乃氏((特活)開発教育協会事務局次長)
 講師のトム・ロドリック氏は、米国ニューヨーク市を拠点に活動するNGOのモーニングサイドセンター(Morningside Center)で、ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(Social and Emotional Learning, 以下「SEL」)に取り組んできた実践家である。
 標題にある「対立解決教育」と言うと、政治や宗教などをめぐる「大きな対立」を思い描き勝ちであるが、今回の公開講演会では、学校という子どもたちの日常的な環境における「対立」に焦点が当てられた。その解決に向けた具体的な実践がSELであり、ニューヨーク市内の公立学校におけるその実践状況やその成果が紹介された。以下は当日の講演概要である。

1.ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)について
 アメリカでも日本と同様に、いわゆる「学力向上」が重視されているが、教育にはそれとは全く異なる「人格を育て、社会的責任を育てていく」という側面もある。SELは、「あたま(mind: 頭・知性)」とともに「こころ(heart: 心・情緒)」も育てることを重視した教育活動とも言える。そもそもSELは、ダニエル・ゴールマンの研究活動から生まれた言葉であり、彼のベストセラーである"Emotional Intelligence"(邦訳『EQ-こころの知能指数』講談社)」の中で、「ソーシャル・エモーショナル(社会的情緒的な)スキルは知能指数(IQ)と同じくらい人生の成功を決定付けるのに重要である」と論じられている。
 ソーシャル・エモーショナル・ラーニングの定義は以下の通り。
  ・自分の気持ちを理解し、管理する
  ・他者と良い関係を築く
  ・よい意思決定をする
  ・対立や問題に効果的に対処する
  ・教室から世界まで、自分が属する集団の改善のために責任を果たす

2.モーニングサイドセンターについて
 ニューヨーク市を拠点としたNGOである。そのミッションは「若者たちが希望に溢れ、深い思考力を持って世界と関わることができるような教育を提供すること」である。常勤と非常勤を合わせて約35人のスタッフがいる。もともとは核戦争の危険性に危機感を持った教育者達によって1982年に設立。創造的かつ非暴力の方法で対立や文化的違いなどに対して取り組む活動をこれまで進めてきている。その他には、若者が世界のことについて学ぶためのウェブサイト(www.teachablemoment.org)も運営している。財源は、ニューヨーク市をはじめとした行政からの委託金や助成金、そして個人や企業からの寄付で賄われている。現在では、ニューヨーク市の学校で年間約90のプログラムを実施している。

3.ブルックリン地区第24小学校
 過去25年は主に、ニューヨーク市で活動してきた。その中でも、プログラムを一貫してきた事例として、ニューヨークのブルックリン地区にある第24小学校を紹介する。第24小学校は、4歳から12歳の800人以上が学ぶニューヨークでも大きな学校である。ブルックリンの中でも労働者階級が多く住む地区に位置し、メキシコをはじめ中南米からの移民の子どもたちが多い。中国系やイスラム圏の子どもたちもいる。そこで行っているのが、4Rプログラムである。4Rプログラム(読み、書き、尊重、解決)は「対立解決教育」のプログラムを、読み書きの学習と融合させたものである。4Rプログラムの目的は教員や子どもたちに、お互いを思いやる環境づくりをすすめていく方法を伝えることにある。
 具体的には、子どもたちの中から「ピア・ミディエイター(peer mediator, 仲介役)」が選ばれ、その子どもたちは、ピア・ミディエイターになるための研修を受ける。つまり、教師が子どもたちの問題を解決していくのではなく、この仲介役は、同級生たちが自分たちで問題を話し合い、対立(けんかやトラブル)を解決していくための手助けをしていくのである。研修後、ピア・ミディエイターはペアになって、昼食時間や休み時間に活動する。第24小学校には、すでに40人の研修を受けたピア・ミディエイターがいる。
 そのほか、子どもたちのアイディアで、低学年の子どもたちが、問題の対処をするための手伝いをする「ピースヘルパー」もおり、子どもたち自身が怒りを感じたとき、落ち着いてふりかえることができる「ピースコーナー」もできあがっている。

4.プログラムのインパクト
 このような活動の結果、第24小学校には次のような変化が起きている。
  ・大人と子どもが肯定的な学校の環境づくりにパートナーとして活動するようになった
  ・子どもたちがリーダーシップの力をつけた
  ・子どもたちが今後の人生を積極的に生きていく力を身につけた
  ・子どもたちの学業成績が上がった
 第24小学校4は、ニューヨークの中でも特別な例であるが、他のプログラムでも、よい成果が出ている。コロンビア大学と共同で行なった2年間の「対立を創造的に解決するプログラム」の科学的な調査によると、こうしたプログラムを一貫して実施していくことで、次のような変化が起きていると報告されている。
  ・子どもたちは、社会をより好意的に見るようになった
  ・非暴力の方法で問題に対処するようになった
  ・学力も向上した
 つまり、教育論争に見られる「子どもたちの社会的情緒的な力を伸ばすか、学業の成績を伸ばすか」、言い換えれば「心の教育か、頭の教育か」の二者択一ではなく、両方の教育が同時に可能であり、そうするべきなのだということである。
 モーニングサイドセンターは、SELを様々なレベルで推進している。ニューヨーク市の教育局とは教育政策の変更に取り組んでいる。学校が持続的に、学校全体で、高い質のSELを進めるための道筋づくりを進めているところである。
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