立教大学 ESD研究センター
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イベントレポート

【10/31 (水) 公開セミナー「台湾におけるESDの現状」 ~講演レポート~】

立教大学ESD研究センター R.A.:浅井優一
日 時 : 2007年10月31日(水) 18:30~20:30
場 所 : 立教大学 池袋キャンパス 12号館 第一・第二会議室
題 目 : 公開セミナー「台湾におけるESDの現状」
講 師 : 周儒 氏(国立台湾師範大学大学院環境教育研究研究科・教授)
コメンテーター: 黄宇 氏(北京師範大学教育学部・准教授)
 本セミナーは、現在、国立台湾師範大学大学院環境教育研究研究科において教鞭を執っており、台湾における環境教育/ESD研究のパイオニアとして様々なプロジェクトを手掛けている周儒氏(Dr. CHOU, Ju)をお迎えし、周氏主導の下、「台湾持続可能なキャンパスプログラム(TSCP)」の一環で実現し、現在も進行中である「国立台湾師範大学の持続可能なキャンパス創りプログラム」の模様を紹介していただいた。

【台湾持続可能なキャンパスプログラム】
 「台湾持続可能なキャンパスプログラム (Taiwan Sustainable Campus Program) 」は、政府のサポートによるプロジェクトであり、安全、健康、教育、持続可能性といった、これらのキーワードを体現する「学びの場」として、学校キャンパスを改良することを目的に2002年より実施されているプロジェクトである。またTSCPは、エコロジー、人道、アクティヴ・ラーニングなどを教育の核として、「教育の再方向付け」を目指すESDの促進も同時に重要視している。

【国立台湾師範大学のTSCPへの取り組み】 
 国立台湾師範大学 (National Taiwan Normal University) は、長きに亘って、台湾における環境教育、そしてESDの促進に注力している。NTNUは、台湾における教育者養成に取り組む中心的な教育機関として、TSCP施行にあたって教育省に対し、助言、提言を行ってきており、2003年からは、当大学自らが実際にTSCPに取り組んでいる。直接体験を基盤とした持続可能性を目的とする教育、学びの場の基礎作りとして、2004 年以来、NTNU大学内の管理系統を担当している建物、そして理学部を取り囲んでいる校庭を、より持続可能な場所に変換するための様々な取り組みが実行されている。古い施設を、持続可能性を謳うより良い施設へと改造するこれらの活動は、主に教育省による経済的サポート、そして内務省、NTNUの協力の下に行われた。このようなNTNUが取り組む持続可能なキャンパス創りは、類似した活動に取り組んでいる他の様々な大学の教育、カリキュラム作りの「見本」としての役割担うに至っており、学生、近隣の大学、そして地域のために、ESD教材やESD促進のための様々な媒体も作成している。

【NTNU持続可能なキャンパスづくりの特徴】
 NTNUにおける持続可能なキャンパスづくりは、以下の4つの視角からなっている。

1.雨水による貯水、下水の処理と再利用
 NTNU持続可能なキャンパスづくりにおける「水資源保全」の仕組みは、まず雨水を貯水することから始まり、それを屋上緑化の一環で作られた菜園の水やり、あるいは、トイレを流す水として再利用される。そのように利用された雨水(下水)は、最終的に校庭を改良して作られた湿地へと送られ、そこで自然の浄化作用を利用して水を浄化し、再び庭の水やりに使用している。

2.キャンパスにおける生態学的多様性の促進
 近代化され、「緊張」に満ちた都市に位置していることもあり、NTNUは、バランスの取れた生態系の維持に力を注いでいる。その主な取り組みは、動物、植物、そして人間に対し、より多くの緑ある場所を提供し、より多くの生物が集うことの出来る場所を増やすことによって、動植物の生態学的環境の多様化を進めることに主眼が置かれている。キャンパス内の屋上緑化、校庭を改良して作った湿地、池などは、このような文脈から考案され作られたものである。

3.省エネシステム
 NTNU持続可能なキャンパスづくりの省エネの仕組みは、まず、屋上を緑化し、特殊な日よけを設置することによって建物に降り注ぐ直射日光の量を軽減すること、そして、ソーラー発電パネルや風車を設置することによる電力発電を実行している。

4.環境教育とその促進
 このようなプロジェクトを通して、NTNUはESD教育の中心として広く認知されており、様々なESD教材、それらをより効果的なものにするための二次教材などを作成し、環境教育、ESDの効果的な推進を図っている。

【NTNU持続可能なキャンパスづくりの影響】
 NTNU持続可能なキャンパスづくりプロジェクトは、その計画段階から、フォーマル教育 とノンフォーマル教育、小学校の児童と教諭、そして校長、教頭などのための環境教育を推進するための土台として位置付けられており、環境に対する行動を起こすことを通して、身の回りの環境の「持続可能性」を、どのようにすれば効果的に実現できるかという問題への一つの解を、身をもって示すプログラムであるといえるのではないだろうか。とりわけ、インフラの整備、システムの維持、そして地域社会とのネットワークづくりといった課題は、それぞれが多層的に積み重なっており、プロジェクトを推し進める全過程において、プロジェクトを正しい方向へ向かっていることを確認するためばかりでなく、教育と学習をより豊かなものにするために、正確な知識、知見が適用されなければならない。現在まで、数千人に及ぶ教員、学生がNTNUを訪ねており、キャンパスの訪問者の数が増加していることは、このプロジェクトが、そうした環境教育・ESDの推進に伴う多種多様な課題を効果的に克服できていることを示す指標であり、持続可能な社会を目指し活動する他の学校、機関に対し、プラスの効果をもたらしていることを意味していると言えるだろう。

【まとめ】
 NTNU持続可能なキャンパスづくりプログラムは、台湾におけるTSCPのまさに「手本」であるといえよう。代替エネルギー、水資源保全と再利用、健康的な環境、そして生物多様性といったキーワードは、毎年、教育省が促進し、経済的サポートを行うテーマ群である。キャンパス内において、こうしたテーマをどのようにして実現するかということは、教育省、そして教育省から資金を獲得し、将来更なる資金の獲得を目指す学校関係者が常に抱える課題となっている。「NTNU持続可能なキャンパスづくりプログラム」は、そうした課題を克服しうる答えとなり得る。教育省の援助によるワークショップの開催、様々な学校によって計画されるNTNU持続可能なキャンパスへのフィールドトリップは、最近極めて頻繁に行われており、台湾のみならず、世界の様々な学校における持続可能なキャンパスづくり実践の今後の指針となり得るであろう。

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