立教大学 ESD研究センター
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イベントレポート
【11/14(水) 公開講演会 ESD先進国ドイツからの報告 ~レポート~ 】
立教大学ESD研究センター P.C.:上條直美
日時: 2007年11月14日(水) 18:00~20:40
場所: 池袋キャンパス 7号館7102教室
題目:

ESD先進国ドイツからの報告

講師:

オルトルート・クール氏(官民連携プロジェクト「緑が学校をつくる」コーディネータ)ヨルク・レーダーボーゲン氏(ハノーバー市立生物教育センター副所長)

司会: 阿部治
通訳: 小林恵氏、マティアス氏
共催: 東京家政大学
 本講演会は、玉川大学の招聘により来日されたオルトルート・クール氏とヨルク・レーダーボーゲン氏をお招きし、東京家政大学との共催により実現した。ドイツは、EUの中でも特に、ESD推進において主導的な役割を果たしている。2009年に予定されているESDの10年の中間年評価会はドイツで開催の予定。環境教育において先進的であるのみならず、ESDにおいても進んでいるドイツの取り組みから学ぶ。

【ヨルク・レーダーボーゲン氏】
 ヨルク氏の話は、まず聴衆をグーグル・アースで日本からドイツの北、ニーダーザクセン州の州都ハノーバーに誘うところから始まった。

1.ドイツにおけるESDの展開
 ドイツは自然保護、環境保護に古くから取り組み、自然破壊が驚異的に進んだ80年以降は、多くのNGOや緑の党が結成されるなど、環境イニシアティブをとっている。学校でも環境教育に積極的に取り組む方針が打ち出されてきた。“グローバルに考え、ローカルで活動する”というキャッチフレーズのもとで、地域の環境センターも作られた。1992年の地球サミット以来、ドイツは国際的なイニシアティブの中で、常に存在感をはなっている。1993年に、国連持続可能な開発委員会(CSD)の一員となり、アジェンダ21の実施を積極的に推進してきた。1997年にドイツの連邦議会の審議会において、人間と環境の保護という政策が打ち出され、これにESDが含められた。同年、州の文化大臣による会議と1998年の連邦・各州委員会で、持続可能性のための教育計画と研究の促進が決議された。2000年には連邦議会でESD決議がなされ、環境問題は、エコロジー面だけでなく社会的、経済的ファクターが含まれるという明確な方針が打ち出された。 国民全体に、ESDの政策がいきわたるように作られたのが、持続可能な開発のための協議会である。2003年、連邦政府の意を受けて、ドイツユネスコ委員会が設置され、州レベルではトランスファー21、地方自治体レベルでは、アジェンダ21事務所、そして個人レベルの動き、とそれぞれの管轄、段階に応じた推進母体が作られた。

2.ドイツユネスコ委員会の取り組み
(1)国レベル
 ドイツユネスコ委員会は、30名の委員から成るナショナルコミッティーを招集し、円卓会議を設置した。作業部会として、基礎教育、学校教育、専門学校・成人教育、学校外教育、大学、インフォーマル教育などが形成されている。国内実施計画が策定され、4つの柱が作られた。

  1. 良い事例の普及と環境を守る行動のさらなる発展と連携
  2. ESDの関係者のネットワーキング
  3. 国民に広くESDを認知してもらうこと
  4. 国際協調の強化

(2)州レベル
 教育計画および研究促進のための連邦・各州委員会のプロジェクトとして、「21世紀におけるESD」(1999年‐2004年)が立ち上がった。15州200校6万5千人の生徒を対象に行われ、さらに「トランスファー21」というプロジェクトへと継続されている。2008年までに、参加州における10%の学校でのESD実践を目標としている。具体的には、生徒による会社づくり、文房具や蜂蜜の販売などを通して、値段の付け方、会社の経営などについて学ぶ。また、健全な食べ物と農業というテーマを通して、朝ごはんを提供するカフェを作っている。移動手段(乗り物)、ヨーロッパにおける環境学校/国際アジェンダ21学校、ユネスコ学校、グローバル教育などが重要なテーマになっている。生徒は、自分の食べ物がどこから来ているのか、ということを認識する必要がある。(トランスファー21のウエブサイト: www.transfer-21.de )トランスファー21の前提となる理念は、「想像力(ゲシュタルトコンピテンツ)」である。その内容は、次のようなものであるが、このような能力を身につけることは非常に難しい。
 ・世界に目を開かれた知識を身につける
 ・将来を見通して考え、行動する
 ・学際的に理解し、行動する
 ・他者と協働して計画をたて、実行する
 ・決定プロセスに参加する
 ・他者が積極的になるように意識づける
 ・自分自身の理想像と他者を区別することができる
 ・自主的に計画し、行動することができる
 ・弱者への思いやりと連帯感を持つことができる
 ・自分自身で積極的になるためにモチベーションを高める

 日常の中で当たり前と思う環境を、意図的に変えるように意識を変える、ということが大切であり、そのためには、「実際の出会い」というものが重要である。具体的には、子どもたちが校庭で自然環境に触れたり、学校外学習現場を活用して、生徒の体験を増やしていくことである。
地域環境教育センターでは、州の教育委員会から教師が正式に派遣される。学校農場、生物教育センターなどが、環境教育センターにあたる。例えばハノーバーの生物教育センターは、植物園と小さい子どものための植物園の2つに分かれている。先生と生徒がここで課外授業を体験することができる。学校への教材貸し出しも行っており、80年の歴史を持つ。年間4万5千人の訪問者がある。ESDの推進を決めたのは国だが、実際に具体的な活動をしているのは市民であり、下からの動きになっているということを強調したい。


【オルトルート・クール氏】
1.「緑が学校をつくる」プロジェクトの目的
 子どもにやさしく、自然に近い学校を作ること、これが「緑の学校」の目的である。「緑の学校」は、校内空間を子どもに適切な自然、エコロジーを学ぶ校内空間へ改造したいと考える学校やイニチアティブに情報提供、コンサルティングをしている。一番大切なキーワードは“自立するための校内”にすることである。教師だけでなく生徒や両親、さらには学校周辺の地域も含めている。アジェンダ21に基づき、次の3つのコンセプトを、教育現場に取り入れている。
   ◆第一:参加のできる学習を可能にすること
   ◆第二:新たな教育の方法を開発すること
   ◆第三:科目を超えたネットワークを意識した考え方を援助すること、
      民主主義的な考え方をもった生徒をつくることを目標としている。

2.具体的な活動例
 ベルリンの人口340万人は、東京と比べれば少ないが、外国人の数は非常に多く約45万6千人である。185にものぼる多様な国籍で、学校生活に大きな影響がある。ひとつの学校に30カ国籍の生徒がいるという例もある。日本人は2386人と少ない。ベルリンには745の公立学校があり、小学校が405校、中高が254、職業学校が90。私立は185あり、近年増加傾向である。31万3千人の生徒に対して、教師の数は3万人。緑の学校プロジェクトは、官民連携、つまり行政と民間の共同が行われていることでは他に例をみない。民間組織は、自然科学研究所ブリッツという団体、政府側は教育委員会である。
 子どもたちが自然体験できる場所、自然の中で学習できる場所を作るために、素材も水や粘土、石、植物など、自然にあるものしか使わない。また、取り壊されたビルの一部をリサイクルしたり、学校の近くにあるものを使うなど、熱帯材などは一切使わないようにしている。コンクリートだったところを壊して土の地面にし、地下水が浸透しやすい環境を作ることも、都市にとって必要であり、同時に土や地下水の重要性を教えることができる。
 自然体験とは、自然の中で体を動かすこと。子どもが体を動かす平均時間は徐々に減り、運動能力が低下し、ひいては学習力も低下してきた。外で遊ぶことで、共に学習し、楽しむことが大事である。しかし、一人になる時間も今の子どもたちには大切である。安らげる場所、落ち着ける場所を求める子どもたちがいる。また、ジェンダーの視点も導入している。
校庭は小さなグループのコミュニケーションの空間としても有効である。自然科学の授業を外で行ったり、学園祭で近隣の人々を招き、つながりを創っている。社会的かつ実践的な学習であることが重要である。
 芸術、自分の手で創る能力を養うことも大切である。普通の授業についていけない生徒は、実践的な授業で優れている場合が多い。自分のできることが反映され、仲間に評価され、校内暴力も減少する。多文化の学校ほど、そういう実践的なプロジェクトが適切である。仲間をつくり、自分も何かできるという自信を身につけることができる。
 緑の学校プロジェクトは、学校全体にとって、モチベーションを上げることにもつながる。教師たちは新しい視点からものを考え、それがきっかけで少しずつ変化が起こる。校内改築は他のプロジェクトのきっかけになることが多い。そして、最終的な段階としては、自然のことを中心に考える学校になるということを目指している。そして、自分で作ったものを自分で守るという気持ちを育むことができる。

3.「緑が学校をつくる」の理念
参加は緑の学校で一番大切なことである。計画立案時には、両親、生徒全員に関わってもらう。全員の言い分が平等に反映されることを目指し、自然に近く、子どもにやさしい学校になることを目指している。計画立案プロセスには、1年間くらいかける。生徒や教師が計画書を作り、それを行政と調整する。そういったプロセスによって、民主主義的な行動力が身についていく。学校改築にあたっては100%すべてを改築するのではなく、未来の人たちが変えていく余地を残していかなくてはならない。
 緑の学校プロジェクトの理念をまとめると、次の通りである。

  1. 子どもたちと若者は居場所を必要としている。
  2. 自己を形成し、自分たちの手で変えることができる空間。
  3. 自然に近いつくりで、多彩で刺激的な空間。ファンタジーいっぱいな方策がたくさんある空間。
  4. 自主性や社会性を身につけるために遊ぶ空間。
  5. 体を動かすことができる空間。
  6. 精神的健康と身体の成長を促す空間。
  7. コミュニケーションと出会いのための空間。
  8. 隠れ場所や癒しのための空間。
  9. 緑の中で学び、自分の可能性を試すことができる。
  10. 大人が入ってこない空間。

 校庭にはさまざまな道具が作られるが、ロッククライミングなどのようなものは危険を伴うので、 長期にわたり保険会社と話し合い、最終的には危険を子どもたちに知ってもらうことも大事だということを理解してもらえるようになった。 財政としては、年間予算265万ユーロ、約3億円が、校庭改築のために支援金として確保されている。(ベルリン州)額は小さいが、学校自身が支援金を集めることも行う。改築の最初の一歩としては、小額な自己資金を使い、プロジェクトを現実のものとしていくことが非常に大切である。また、そうすることによって第三者のスポンサー、企業らの支援金を得やすくなる。

4.まとめ
 1991年以来、これまでベルリンにある860校のうち、460校にコンサルティングしてきた。そのうち300校は、一部あるいは全体的な改築に成功した。教師のためのスキルアップ研修は年間25回~40回程度行っている。実践的なプロジェクトは年間 50~70 回実施されている。民間企業または公的機関からの受託研究費は年間 5万~10万ユーロ。1000本以上の樹木を植えた。
現場において自然に近く、子どもに優しい学校庭園づくりのためのコンサルティングの実施、 プロジェクト管理や学校内における研修会の実施、ベルリンにある他の機関や共同体との協力活動、ドイツ国内や国際的機関とのネットワーキング、ヨーロッパのプログラムへの参加 (最近は LIFEやARIONに参加している)、「学校庭園から遊びの庭園へ」プロジェクトのコーディネイト、全日制の学校における土地の検査と調整などを行っている。学校を居やすい場所に変えることで、学習環境も改善し、民主主義的な考え方を学ぶことで校内暴力の減少にもつながるのである。

【質疑応答】
Q:今の日本の子どもたちを考えると、自然にフレンドリーだとは思えない。ひとつには、非常に消費生活がハイレベルになり、それを充足するために環境とはほど遠い生活になっていると思う。ドイツの子どもたちの場合はどうか?
A:ドイツの子どもも同じである。消費中心の生活。食べ物や身近なもの、ことがらから原産国にまで思いを馳せ、考えることが大切だと思う。

Q:1980年代に環境意識を高めるきっかけになったことはあるか?
A:少し年代が戻るが、1986年のチェルノブイリの原発事故はドイツ人の意識に決定的な影響があった。

Q:ドイツでのEラーニングは成功したのか?
A:実際はあまり活用されていない。インターネット反対というわけではないが、基礎として五感を体験し、次の体験としてEラーニングにいくのではないかと思う。子どもたちを見ていると、ボタンの操作が楽しいからコンピューターに夢中になっているように見える。Eラーニングを使う環境教育の場合には、コンピューターを使うこと自体に意識がいき、環境には意識がいかないのではないかと思う。

  

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