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イベントレポート

【11/27(火)公開セミナー:タイにおける参加型開発の現状と参加型学習の課題~レポート~】

立教大学ESD研究センター P.C.:上條直美
日時: 2007年11月27日(火)18:30~20:30
場所: 池袋キャンパス 太刀川記念館1階会議室
題目:

タイにおける参加型開発の現状と参加型学習の課題

講師:

米井慎一氏(学習院初等科教諭、開発教育協会企画推進委員)
田中治彦氏(立教大学ESD研究センター、開発教育協会代表理事)

共催: (特活)開発教育協会(DEAR)

 本セミナーは、ESD研究センター・アジアチームの中心プロジェクトであるタイの農村地域を対象とした参加型開発の指導者養成プログラムの一環として、2007年8月30日(木)~9月1日(土)チェンマイにて開催されたセミナーの報告を軸に、標記テーマの今後の方向性を探ることを目的に開催された。

1.本プロジェクトの経緯
 まず、本プロジェクトの経緯について、田中氏より説明がなされた。ISDEP(持続可能開発促進研究所)とのつながりは、田中氏が2003年~2004年にかけて、チェンマイ大学に客員教授として赴任したことがきっかけである。北タイのNGOの現状と、開発教育協会(DEAR)がこれまで開発してきた開発教育教材とがクロスオーバーする可能性を模索する中で、環境教育を行うピン川環境保全協力協会とISDEPに出会った。
 ISDEPは農村開発のみならず、チェンマイ地域で活動するNGOスタッフの養成、研修を行っており、開発教育協会と課題を共有していると考えられた。2004年夏のISDEPのスタッフ養成セミナーでは『貿易ゲーム』教材のトレーニングの要請を受けた。FTA(自由貿易協定)により安価な農産物が近隣諸国(ラオス、ミャンマー)から流入したことは、タイの農業経済にとって大きな打撃となった。なぜ農産物が安くなったのかを村人に伝えるとき、グローバリゼーションやFTAという言葉はすんなり受け入れられるものではなかった。そこで、『貿易ゲーム』のシミュレーション体験を通じて理解を促そうとしたのである。その後、商品作物を扱った『コーヒーカップの向こう側』など、連続して開発教育教材を使った研修を行い、徐々に連携が深まっていった。同じくタイとの連携を持つ恵泉女学園大学との協力関係もできた。
 こうした3年間の実績をふまえ、立教大学のESD研究センターが立ち上がった際に、人材養成をめざすアジアチームプロジェクトの軸となったのである。今後3年間継続プロジェクトとして、人材養成のマニュアル作成と研修プログラムの開催を予定している。

2.北タイにおける参加型開発の現状
 タイにおいて展開されているプロジェクトには3つのタイプがある。それは「慈善型」「技術移転型」「参加型」と呼ばれるものである。

  1. 慈善型開発

 このタイプの一例として、チェンマイのNGOであるライフエイドのプロジェクトを紹介しよう。1987年にライフエイドによってエイズ孤児の施設が設立された。30人あまりの少女を収容しており、共同生活の中で職業訓練も行っている。高校や専門学校に通う子どももいる。こうした支援の仕方は、慈善型援助の原点であり、現在でも多い。問題となるのは、子どもたちは村には帰らないということである。町で就職するなどさまざまな事情は考えられるが、できるだけ親戚やコミュニティのある村から離さずに支援するという方向性が出てきている。
(2)技術移転型開発
 北タイの山岳民族の村の生活向上のために、王立のNGOとしてロイヤル・プロジェクトが展開されている。そのひとつの農業研修センターでは、現金収入を増やすために、さまざまな新種の作物を植えて、その栽培法を住民に教えている。この地域はかつてケシの栽培で潤っていたが、それに代わる現金収入としてこうした作物が奨励されている。
(3)参加型開発
 ISDEPが係るメーワン地域の村では参加型開発がめざされている。参加型開発とは、住民自身が自らの課題に気付いて、その解決に向けて行動していく方法である。この地域の村々は村は、参加型開発の成功例である。村人の自律性が高く、物産展や学習会開催などを開いてその活動成果を発表した。外部からの取材や見学も多い。

 北タイでは、慈善タイプは1960年代から盛んに行われている。社会福祉につながる活動であり、タイならずとも、高齢者施設や養護施設などは必要なものである。
 技術移転型は1970年代、各国のNGOによって主に担われている。ODAなどもこのタイプが主流であり、今後も続くと思われる。基礎的な学校や病院、道路がない国、例えばカンボジアやアフリカの国々では、まだまだ技術移転は必要である。
それに対してタイでは90年代から参加型開発が試行されている。しかし、継続的な関わりが難しい外部からのNGOのプロジェクトでは、村人の本当の意味での参加を求めることは難しかった。そのため、状況を変えるために、1989年に北タイのドゥシッド氏やチャヤン氏(チェンマイ大学)が、ロバート・チェンバースというPRA(参加型農村調査法)の専門家を招いて、3年にわたりセミナーを開催し、PRAの手法を学んだ。そこからタイの参加型開発が始まった。村には「資金もない、技術もない」という発想の慈善型、技術移転型に対し、参加型の発想は、「答えは村の中にある」という考え方から始まる。村人も気づいていない“村のよいもの”を引き出すのが参加型開発の出発点である。
 例えばエイズ関連のNGOで参加型開発を取り入れたことによって、エイズ患者自身の自助グループが作られ、患者相互が助け合い、問題解決に向けた行動を始めるようになった。山岳民族のグループや、環境教育のグループなどでも同様である。こうした試行錯誤の中で始まったのが本プロジェクトである。
 2007年7月より、現地のNGO若手スタッフの養成講座が始まり、2007年8月に第一回目の養成セミナーが開催された。以下、セミナーの報告である。

3.養成セミナー実施報告
 米井氏よりセミナーの概要報告がなされた。セミナーのテーマは「開発協力とグローバリゼーション」で、教材は『援助する前に考えよう』『パーム油のはなし』が使用された。経済のグローバル化による影響を受け、困難な状況に置かれたタイ農村の村の人々に、グローバリゼーションをどのようにしたら理解してもらえるのかを考えることを目的としている。

【養成セミナーのスケジュール】
1日目(8月30日(木))
9:00 - 9:30     趣旨説明と自己紹介
はじめに 「グローバリゼーションに対抗するための参加型学習プログラム」
Dr. Prayad Jutupornpitakkul (ISDEP)
立教大学と恵泉女学園大学の国際協力活動の紹介
 立教大学 田中治彦氏、恵泉女学園大学 押山正紀氏
9:30 - 10:30    自己紹介
10:45 - 12:30   ワークショップ 「援助する前に考えよう」 田中治彦(立教大学、DEAR)
                    ワーク1 : 一枚の看板
13:30 - 15:00   ワーク2  : 再びバーン村へ
15:30 - 17:00   ワーク3  : プロジェクトを選ぼう
                               
2日目(8月31日(金))
9:30         昨日のふりかえりと感想
9:45        「参加型開発と参画のはしご」 田中治彦氏
12:30 - 17:00  アイスブレーキング 「部屋の四隅」
ワークショップ  「私たちとグローバリゼージョン」 米井慎一氏
ワーク1 :  私たちの生活とパーム油
ワーク2 :  フォトランゲージ「熱帯の森」
ワーク3 :  ロールプレイ「油やし農園開発についての関係者会議」

9月1日(土)
9:30 - 14:00    「2日間の学びと自分の今後の活動について」 
Dr. Prayad Jutupornpitakkul(ISDEP)
・振り返り/ ・ワーク : 得た学びを応用すること
14:00 - 15:00             昼食
15:00 - 16:00  セミナーの評価と今後について
田中治彦,米井慎一,押山正紀(恵泉女学園大学),Dr.Prayad, Nun,  ISDEPスタッフ2名,野村彩子(メイ・ファー・ルアン大学訪問研究員)     

 セミナーの主な参加者は、現地のNGOの若手スタッフが約20名。中にはカレン族の村の若手リーダーもいた。3日間の合宿セミナーであった。 
 人材養成プログラムとしてのセミナーの実施を通じて、次の点が明らかとなった。
*開発教育の学習教材とタイの現状(リアリティ)との一致。
*参加者自身が村における活動をふりかえり、今後に生かすことができた。
*「参画のはしご」は、概念だけではなく参加型開発の具体的事例を通して理解することができた。
*NGO若手フィールドワーカー同士の学びあいの場となった。
*参加型学習を参加型開発へ応用する道すじが見えてきた。

 今後の課題としては、次のようなものがあげられた。
*さらなるPRA・PLAの実践、参加・参画の具体的方法の提示。
*今回参加した人はグローバリゼーションの影響を理解することができたが、村人に簡単な言葉で説明するスキルはまだ不足しているので、フォローアップが必要である。
*グローバリゼーションの村レベルでの対抗策までは提示することができなかった。

 ISDEPからの要請としては、今後、日本の一村一品運動など、村のリソースを使い、外に向けてアピールするという具体的な実践事例が求められている。
 今回特に、「参画のはしご」を通じて、参加そのものをふりかえる機会になったことは評価できる。村人が意見を言うことが参加である、という浅い理解や、形式的参加、操作的な強制参加であることがわからないまま参加型開発を行っていたことに気づく機会となった。また、「はしご」という概念が、カレン族の持つ寓話と重なっていることも、印象づける一因となった。
 グローバリゼーションというものに対して、情報や人・モノの移動、携帯電話の普及などを含めた捉えかたをしていたため、経済のグローバル化の負の影響とタイの農村という文脈での捉えなおしの必要性が感じられた。今後も、参加型開発と参加型学習の接合点は、実践を通じて見出していく試行錯誤のプロセスが必要である。
 質疑応答の中で出された今後の課題としては、ファシリテーター、フィールドワーカーの役割や概念の共有、参加型開発の理解の共有などである。外部の支援団体が現地に入る際に、技術やお金を持ち込まないとすると、どのような役割があるのか、という議論も必要である。さまざまな団体をつないでシナジー(協働)効果を生み出すという役割も考えられる。
今後の方向性としては、スタッフの実践のフィードバック、研修プログラムをどのように日タイ協力関係のもと作ることができるか、日本での研修を行うとするとどのようなテーマ、内容がふさわしいのか、などを具体的に議論していくことになる。

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