立教大学 ESD研究センター
HOME
研究センター概要
研究プロジェクト
学部・大学院への協力/サイバーラーニング
新着・イベント情報
成果物
ESD×CSR指針/人材育成プログラム
関係機関リンク
English


logo
イベントレポート

【1/23(水)公開セミナー 東南アジアにおける持続可能な社会づくりとコミュニティ・オーガナイザーの役割~SEAPCP Community Organizer Course報告会】

立教大学ESD研究センター P.C.:上條直美
日時: 2008年1月23日(水)18:30~20:30
場所: 池袋キャンパス 太刀川記念館1階会議室
題目:

東南アジアにおける持続可能な社会づくりとコミュニティ・オーガナイザーの役割~SEAPCP Community Organizer Course報告会

講師:

西 あい氏((特活)開発教育協会 事務局職員)

 本報告会は、2007年10月19日に開催した研究会「アジアにおける市民主体の持続可能な社会づくり」の講師であるJo Hann Tan氏(SEAPCP設立者)の所属する団体が主催するコミュニティ・オーガナイザーのためのトレーニングコースに参加した、開発教育協会スタッフ 西あい氏を迎えて行われた。SEAPCP(South East Asia Popular Communications Programme:東南アジア民衆コミュニケーションプログラム)は、東南アジア地域で活動するコミュニティ・オーガナイザーのネットワーク団体である。本報告会では、研修コースの概要報告とともに、日本における持続可能な社会づくりとコミュニティ・オーガナイザーの役割の可能性について議論がなされた。

1.研修コースの概要
 SEAPCPは、事務局をインドネシア・ジャカルタに置き、参加型教材作成や研修、実践経験を冊子にして発行するなどの活動を行っている。

開催地:インドネシア・バリ島

テーマ:

*MDGs(ミレニアム開発目標)が草の根の人々にどのような利益をもたらすことができるか
*MDGsの目標をコミュニティで実現するためにすべきことは何か

ファシリテーター:

*Jo Hann Tan氏(マレーシア)都市貧困層と活動するコミュニティ・オーガナイザー
*Aung Myo Min氏(ビルマ)人権教育活動家
*Nani Zulminarni氏(インドネシア)女性コミュニティのコミュニティ・オーガナイザー

期間:2007年11月10日~21日
参加者:東南アジア各国のコミュニティ・オーガナイザー(12カ国20名)
 例 HIV/エイズのグループに関わるコミュニティ・オーガナイザー(ベトナム)
   女性グループに関わるコミュニティ・オーガナイザー(インドネシア)
   持続可能な農業に取り組むグループ(インドネシア)
   エコツアー(インドネシア)
   スラムの子どもたちへの教育(カンボジア)
   非暴力の運動(パキスタン)
   日本からは、沖縄で活動している人と西さんの二人
形態:アクティビティやディスカッションを中心とした参加型研修およびバリ島内のフィールドワーク
*研修の様子をDVDにて視聴。研修の翌日には、主催者からこうした視聴覚ツールが配布された。

2.コミュニティ・オーガナイジングの枠組み
SEAPCPの提起するコミュニティ・オーガナイジングとは、理論から出発しているのではなく、あくまで現場での実践の経験を集積し、得られた結果である。コミュニティ・オーガナイジングとは、ある集団(コミュニティ)が、自らの現状改善や問題点の克服、共通の夢の実現、ひいては社会構造の変化を目指し、主体的に活動に取り組む一連のプロセスを指す。この場合のコミュニティとは、ある共通の課題を有していたり、特定の地理的範囲を共有している人々のグループ一般を指している。
 コミュニティ・オーガナイザーは、コミュニティ・オーガナイジングのプロセスの中で、明確なビジョンを持ち、全体像を把握しつつ、コミュニティの人々の立場に立って、彼ら/彼女らの夢(幸せになる、人権が守られるなど)を実現することを手伝うことを役割としている。
 人々の課題解決から夢の実現に至るまでのコミュニティ・オーガナイジングのプロセスは非常に長いものであり、その中で人々が自分自身の力で状況を変化させていくことを学び、可能にすることができる。特定のプロジェクトやプログラムは、そのプロセスのほんの一コマに過ぎない。

◆エントリーポイント
 プロセスを始めるにあたり、ある特定の課題解決をエントリーポイント(入口)として実践することがしばしばある。コミュニティ・オーガナイザーは、そのエントリーポイントとなる課題が、当事者から提起されるのを待つ。

◆分析
 目の前の緊急な課題に取り組む過程で、課題を分析することは非常に重要である。課題をよく分析せずに計画を実行しようとすると問題が起こってしまう。分析は厳密である必要があり、コミュニティの人々自身によって行われなければならない。課題の根本的な原因が分析されて初めて、適切な解決方法を見出すことができる。
分析にあたって次のようなポイントがあげられる。

  1. コミュニティに誰が関わっているか
  2. 人と人の関係(法律を作る人、守る人、など)
  3. 人とコミュニティの関係

コミュニティの人々が「夢」から遠い状態とは、彼ら/彼女らがパワーを奪われているという状態だと考える。すなわちこの3点は、権力関係の分析である。誰が力を持っており、誰が持っていないのかを分析することにより、状況を把握する。
次にコミュニティの強みと弱みを分析する。

  1. 強みと弱み
  2. 課題の根本原因を明確にする

分析のプロセスは非常に複雑で、時に現実から離れてしまったりするが、それは、情報や知識が間違っていることを表している。偏見や先入観によって歪められてしまうこともある。コミュニティ・オーガナイザー自身も自分で見て歩いて状況分析をする必要がある。

◆戦略
分析に基づいて行うのが戦略を立てることである。コミュニティのパワーバランスを変えていくためにどうすればよいのかを考える。コミュニティの人々が参加し、戦略をたてる際に、実行可能なものを作成するために不足しているスキルを補うためのキャパシティ・ビルディングも行う。

 コミュニティ・オーガナイジングのプロセスで、小さな成功体験の積み重ねや持続的性、長期的な視点が重要であり、こうした息の長いプロセスを、コミュニティ・オーガナイザーは共にしなければならない。それがファシリテーション・スキルと言える。

◆ファシリテーション・スキル
オーガナイザーは、コミュニティの内部の人である場合もあれば、外部から来る人の場合もある。コミュニティを代表するリーダーがオーガナイザーになる場合もある。基本的にはオーガナイザーは、コミュニティを代表するわけではない。オーガナイザーに必要不可欠なのは、ファシリテーション・スキルである。役割は次のようなものである。
・人と人、または人とリソースをつなぐ役割
・意見交換が多方向に円滑に行われるよう働きかける
・コミュニティの人々と多くの会話を通して意見を把握する
・課題について、専門家である必要はないが、よく理解する
・ゲームやビデオ、写真などの手法を適切に使用する
・平和的な態度
・文化的にセンシティブなことに配慮する
・ボディランゲージ、ユーモアを交えたふるまい
・自分の意見、立ち位置をしっかりもつ
・訪問、質問、対話などの際に、適切なタイミングをはかる
・簡単な言葉を使う

3.コミュニティ・オーガナイジングの背景にある概念
◆コミュニティ・オーガナイザーとMDGs/人権
 MDGsは、国連が提起している様々な開発目標を統一したもので、国際レベルでの目標として掲げられたものである。この国際的な大枠の中で、地域の開発や草の根レベルの活動が位置づけていくことは非常に重要であるが、実際には、草の根レベルで活動している人々は、MDGsについてほとんど知らないのが現状である。コミュニティ・オーガナイザーは、現実的な政府の予算配分、国際的な枠組みなども視野に入れておいた方が、より政策決定に影響を与えることができる。

◆コミュニティ・オーガナイジングとライツ・ベース・アプローチ(子どもの権利型基盤アプローチ)
 ライツ・ベース・アプローチとは、1989年に国連で採択された「国連子どもの権利条約」(現在193の国・地域が批准)の理念や原則をベースに活動を行うことを意味する。さまざまなNGOがすでにこのアプローチを採っているが、日本では条約への理解も含めて十分とは言い難い状況である。ライツ・ベース・アプローチと比較されるのが、ニーズ・ベース・アプローチなどである。例えば、「人々は援助を受けるに値する」というのがニーズ・ベース・アプローチで、「人々は援助を受ける権利がある」と考えるのがライツ・ベース・アプローチである。資源が足りないからこのグループには援助できない、という状況は、ライツベースではありえない。

4.まとめ
(1)コミュニティ・オーガナイジングは“way of life”である
 長期的なプロセスを進む場合、単発的で一時的なプロジェクトや援助に傾きがちであるが、そういったプロジェクトの権限を人々に移譲すれば、住民参加であるといったレベルの話ではない。もっと本質的な、人々の生き方に関わるものである。
(2)コミュニティの当事者が力をもつ、という確信
(3)エントリーポイントから本質的な課題へ
最終的なゴールはコミュニティの幸せであることを忘れてはならない。

 コミュニティ・オーガナイザーには、常に全体像を見据える視点が必要であり、参加は手段であり、プロセスであり、ゴールであるということを理解していなければならない。

(4)日本のまちづくりとの視点の違い
  誰の立場に立って地域づくりを行うのか、という点が非常に異なると感じた。権力を奪われている側に立つという視点は、SEAPCPの場合、非常に明確である。日本のまちづくりには、このような視点が欠けているのではないかと感じている。昨今、政府とのパートナーシップがうたわれているが、本当にそれがいいのか、どういうあり方がいいのか、という点は大きな課題である。コミュニティと教育をどうつなげるのか、教育NGOなどがどこに役割を見出すのか、ということが今後の課題である。

6.質疑応答・ディスカッション
【質問】
 ・コミュニティ・オーガナイザーを当事者から育てているプログラムはあるか?
 ・コミュニティ・オーガナイジングとは、国際協力の概念なのか、あるいはもっと普遍的なものなのか?
 ・コミュニティ・オーガナイザーは、職業なのか、ボランティアなのか?

【コメント】
 ・プロセス、手段の目的化というのは人が陥りやすい間違い。手段と目的が混同してしまう。本質を見ていくという考え方はよいと思う。
 ・政府をひとくくりにして語ってしまうと難しい。もっと分析が必要ではないか。

【回答】
・コミュニティ・オーガナイザーが外部者である場合、最初に行うことは内部からコミュニティ・オーガナイザーとなる可能性のある人を探し、場合によっては育てていくこともある。例えば、インドネシアのマルク島ではこのことが10数年続けられており、内部のトレーニングは重要視されている。
 ・社会自体が人間を抑圧するものだという意見もあるが、特に国家が抑圧の主体になる場合がある。社会自体が抑圧的な構造になっているコミュニティもあるが、コミュニティによってパワーバランスが違う。一般的には市民より国家が強いパワーを持っている。
今の社会構造が抑圧的ではない、とは言い切れない。抑圧されている側は「権利を主張する」というより「権利を獲得する」という主体性が大切である。
 ・コミュニティ・オーガナイジングは、国際協力だけの概念とはいえない。普遍的なものである。
 ・コミュニティ・オーガナイザーは、職業(仕事)ではない、とジョハンは言っている。他に生活していくための手段があるべきと言っている。しかし、今回の研修コースの参加者のバックグラウンドを見ると、その多くは大手のNGO職員であり、そのうち4分の1の人は修士の資格を持っていた。また、4分の1はコミュニティの出身者でいわゆる内部のコミュニティ・オーガナイザー、残りが外部のオーガナイザーと言える。アジアでは、企業からNGOに転職した人が多い。NGOの方が給料が高い場合もあり、学歴も高い。今回の研修のファシリテーターは、3名とも、職業としてのコミュニティ・オーガナイザーではなく、他に収入を得ている。

【ディスカッション】
・例えば、コミュニティにひとつの建物を建てることになったとする。その際、利害が対立する場合はどうするのか?建物ができることで仕事を失う人と、仕事を得る人がいる場合などが現実的に考えられる。沖縄の米軍基地の状況も同様で、基地があることで仕事を得る人、不利益をこうむる人などがいる。
・自然保護活動では、失敗事例をたくさん見て来ている。失敗の理由としては、環境保全をする側は今すぐに止めないといけない、と考えるのに、開発側は時間的な感覚が異なる。資金力は当然ながら圧倒的に違う。
・狭い範囲ではなく、大きな視点で分析すると、「そもそもなぜ基地があるのか」「そもそもなぜそれが必要なのか」という議論も可能となる。そこから、一見対立している関係の構図が違って見えてくるのではないか。
・伊勢早湾の開発問題に関わる中で、地域の人だからこそ言い出せないことがある、だから開発容認していると思われてしまう、という事例をたくさん見ている。
・コミュニティ・オーガナイザーが板挟みになるケースもある。鎌倉の景観の事業に関わっているが、市長が建物の高さ制限を15メートルと決めたら、市民からはさらに低くして欲しいという要求が出て、話し合いが微妙になってきた。
・オーガナイザーに必要なコミュニケーションスキルとは、関係性をつくるスキルではないか。地域に住んでいるからこそ意見が言い出しにくい人をサポートすることや、話し合いの場を設定することがファシリテーションである。
・北海道で行ったワークショップでは、アイヌの人と和人が同じ場で話し合い、共に何ができるかということがテーマだった。東京ではアイヌの話はできるが、北海道ではアイヌの話をするのは「タブー」的なところがあり、なかなか本音を言えないなか、ワークショップで深い話し合いをすることができた。困難な状況に直面するのは当たり前で、解決のためにどのような場をファシリテーターが作るかが重要である。

・吉野川の住民運動は成功事例である。住民投票の結果、河口堰を作らないことになったが、要因として住民運動の側にファシリテーターがいたということがある。一般市民は、過激な反対運動には抵抗感があるので、反対意見を表明するのではなく、地域にとって河口堰を作ることがよいか悪いかを判断する情報を提供するというスタンスで運動をすすめた。そのことによって多くの市民を巻き込むことができた。河口堰を作らないほうがよいと多くの人が思っていたが、専門知識などで行政に勝てないというのも分かっていた。そこで多くの人が参加できる場を作り、市民の知恵や思いだけでなく、専門家を巻き込み、市民知ともいうべきものをうまく活用できた。それをまとめたのが、内部のコミュニティ・オーガナイザーであった。しかし、河口堰建設を止めたが、その後のプランをうまく出せていない。その後に創造的に地域の未来をつくっていくためのファシリテーションが必要なのではないか。

・小笠原の空港建設反対も吉野川の事例と似ている。最終的に建設法案は時間切れで廃案になったが、市民から代替案を出すという方法の運動は、功を奏したと言える。しかし、また時間がたてば、再び建設案が復活しないとも限らないところが、こうした開発計画の根本的解決を困難にしている。
・日本のまちづくりに関わっている。抑圧-被抑圧の話はアジアだとリアリティがあるが、日本だと貧困や抑圧はある程度克服してきたと思われているのではないか。豊かさや長寿を得たものの、果たしてこれが幸せだったのかというところに日本はいるのではないか。この先に幸せがあるのか、確信を持つことができない。どういう社会、どういう経済を目指したいのかという大きな枠を示していく必要がある。日本とアジアの開発は段階が異なるので一概に比較することはできないのではないか。
・政府主導の高度経済成長期には、地域住民がどんな地域にしたいということを考える暇もなかったのではないか。これからは、市民がビジョンを描くべきだ。
・日本のまちづくりの話で、貧困・長寿はすでに克服しているとはいえ、日本には克服すべき課題がないということではない。女性、障害者、在日外国人のことなど。
・日本の中では貧困は克服されているというが、江東区では納税義務のある人の7割は年収300万円以下で、最も多い層は年収200~300万円である。貧困は見えづらいが、アジアだけでなく、日本でも深刻なのだ。
・ずっとアジアの演劇ワークショップを日本に導入できないか考えているが、あまり日本に馴染まないと感じている。権利ということばも馴染まない。社会の気分としては、「権利の回復」のようにいわれると、ちょっと違うような気がする。
・アジアのコミュニティ・オーガナイザーは教育水準が高いという話があったが、欧米の教育を受けていることが多いのではないか。彼らの描くコミュニティ・オーガナイジングの成功は、欧米的な成功なのではないか。あるいは、欧米の生活と自分の国のギャップに苦しむこともあるのではないか。
・そういう部分はあるかもしれない。

←新着 ・ イベント情報へ戻る ↑ページトップへ
Copyright 2007 Rikkyo University. All rights reserved.