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イベントレポート

【3/8(土) 公開シンポジウム:ESD研究センターCSRチームキックオフシンポジウム~レポート~】

立教大学ESD研究センター P.C.:高橋敬子
日時: 2008年3月8日(土)10:00~12:30
場所: 池袋キャンパス 7号館1階7102号室
題目:

「サステナビリティ」というブランド価値-スウェーデンさきがけの持続可能性コンサルタントからのメッセージ-

講師:

グンナル・ブルンディーン氏(持続可能なスウェーデン協会理事、エーサム社社長)

司会: 阿部 治(異文化コミュニケーション研究科、社会学部教授)
通訳: レーナ・リンダル氏(持続可能なスウェーデン協会日本代表)

 本シンポジウムの前半では、持続可能な社会づくりに国家をあげて取り組んでいるスウェーデンから招聘したグンナル・ブルンディーン氏より、「スウェーデンの持続可能な社会づくりの成功事例」や、「サステナビリティの考え方」が紹介された。後半は、「CSRにおけるサステナビリティ」について当センターCSRチーム研究分担者によるパネルディスカッションが行われた。以下、講演内容とパネルディスカッションの概略を紹介する。

【グンナル・ブルンディーン氏講演内容】
 スウェーデン政府と産業界が協力して市場を作った事例が2つ紹介された。1つ目は、スウェーデンの厳しい環境基準を満たした車の販売台数の割合が、97年の15%から2009年には40%に増加するという例である。2つ目は、エタノール燃料を補給するガソリンスタンドの数が、2004年の100箇所から、2009年には、2000箇所に増加するという例である。この数字はスウェーデンのガソリンスタンドの半分に当たる。政府は炭素税を導入し、規制を厳しくすることでCO2排出量の削減を行い、その分労働に係る税金を減らしている。企業は、厳しい規制に対応することにより、将来の市場で勝者となることが出来る。また、環境だけではなく社会福祉にも積極的に取り組んでいる。
 スウェーデンの人口は約900万人で、国土は日本の1.2倍~1.3倍の広さである。県は22あり、289の自治体(日本の市町村にあたる)がある。平均人口は約3万人である。自治体の4分の1にあたる約70がエコ自治体である。自治体の特徴として、①所得税は各自治体の収入となるため、15~20%の税金収入があり経済的に自立していること、②地方分権化が進んでおり、各自治体が都市計画の権限を有し、与えられた管轄分野内で自由に意思決定できることが挙げられた。
 自治体の役割は3つあり、1つ目は権力機関としての会議である。ここでは、国が作成した法律等を用いてトップダウンで監視・監督を行っている。2つ目は、市民へのサービスである。将来どのような発展があるかを予測して、それにあわせたサービスを提供するものである。3つ目は、全ての住民や企業を民主的なプロセスにまきこみ、積極的に将来に向かって発展していくというものである。この役割が成功することによって、新しい発展の原動力につながるのである。
 エコ自治体のコンセプトの主要要素として、①知識-システム思考、②民主主義-参画、③統合化、④全レベルでのネットワーク、⑤プロセスリーダーの機能が挙げられた。そして、コンセプトの最初の柱であるシステム思考に関する説明があった。
4つのシステム条件(ナチュラルステップの考え方):

  1. 自然の中で地殻から取り出した物質の濃度が増え続けない
  2. 自然の中で人間社会の作り出した物質の濃度が増え続けない
  3. 自然が物理的な方法で劣化しない
  4. 人々が自らの基本的ニーズを満たそうとする行動を妨げる状況を作り出してはならない

市議会において上記の4つの条件を採択し、自治体の持続可能な発展の原則を決め、ガイドライン化している自治体をエコ自治体と呼んでいる。また、自治体のビジネスアイディアの基本として、チリ人の学者Manfred Max-Neefが考えた9つの「人間の基本的ニーズ」を導入している。
1.生命・生活の維持、2.保護、3.愛情、4.理解、5.参加、6.休み、7.創造、8.アイデンティティ、9.自由
 上記の基本的ニーズは、世界の人々に共通しており、これらを満たすときに使うツールが文化によって異なる。欧米や日本では、これらのニーズを満たすために物質的な解決方法を選択しているが、もっと効率よく物質とエネルギーを使い、幸せな生活を送ることが本当の経済の目標ではないかと問いかけている。
 次に、持続可能な発展の定義について、国連の3つの要素を紹介した。
3つとは、「経済的」、「社会的」、「エコロジー的」要素である。環境面での持続可能性はシステム条件の1から3、経済的・社会的持続可能性はシステム条件4に含まれている。良い経済とは、資源やエネルギー消費を減らし、効率よく使うことによりコストを下げ、収益を得ることである。公平さも必要だが、良い経済を保つためには何でも効率よく進める必要がある。
 エコ自治体のコンセプトの2つ目である「民主主義と参画」は、全ての人々が参加でき、個人とグループがお互いの権利を尊重し合い、バランスの取れた社会を作るということである。3つ目の「統合化」は、自治体が発展する中でその地域にある全企業、市民団体、家庭や行政機関などをまとめていくことである。4つ目の「全レベルでのネットワーク」とは、地域レベルと国際的なレベルでの取り組みの間の連携やネットワークを図っていくことが必要とされている。5つ目の「プロセスリーダーの機能」とは、プロセスの中でリーダーが必要なので、システム思考等の研修を行ってリーダーを養成している。
 最後に、エコ自治体の取り組みの成果として、持続可能な発展計画の具体化と、キャパシティセンターが紹介された。キャパシティセンターは、行政と企業が協働で持続可能性のための知識、能力やノウハウを集め、世界に発信する役割を担っている。

【質疑応答】
Q:I.C.R.E.I(持続可能性を目指す地方自治体)との関係はあるのか?
A:地球サミット以前から関係がある。90、91年頃、既にスウェーデンのエコ自治体の取組みが盛んだったため、アジェンダ21の自治体について記載された部分に影響を与えた。
Q:人間の基本的ニーズの9つの要素の中に「休み」があるが、「働く」はないのか。
A:「創造」というのがあるが、これは仕事をすることを通して満たしているニーズである。仕事の中で、自分の想像力を活用して仕事ができるというのが重要である。
Q:経済と社会の持続可能な発展の条件は、システム条件4に含まれるという話だが、効率性を追及すると、地方分散型というよりは一極集中化するという議論になりがちである。その辺についてはどう考えているか?
A:日本でのやり方は私たちのやり方とは違うと思うが、基本的な部分は変わらない。トップダウンやボトムアップもあるので、各レベルでのリーダーシップが必要である。

【パネルディスカッション】
 パネラーは、中西紹一氏((有)プラス・サーキュレーションジャパン・代表取締役)、福田秀人氏(21世紀社会デザイン研究科・教授)、中野民夫氏((㈱博報堂コーポレートコミュニケーション局)、岡本享二氏(ブレーメン・コンサルティング(株)・代表取締役)の4人で、コーディネイターは川嶋直氏(異文化コミュニケーション研究科・教授)である。
 CSRに関する3つの質問に各々が回答した。ディスカッションの合間には、参加者へのCSRの認識や意識調査等も行われ、参加型のディスカッションとなった。

質問1:今の日本のCSRに関するあなたの問題意識は何か?
【中西】スウェーデンでは、官・民・産業界が一体となってCSRを推進しているので、日本もCSRをきちんと行わなければ国際競争力という点で負けてしまうと感じた。
【福田】「企業と社会の共倒れの回避」。企業がおかしくなると、社会も成り立たなくなる。
【中野】CSRが定着して実施されることは大事であるが、対外的にどのように表現し、マルチステークホルダーとよい関係を作っていくかが課題である。
【岡本】CSRは企業にとってブランドイメージの向上につながるため、意外と気安くキーワードとして使用され始めたところに問題がある。

質問2:CSRはSRやCRとも言われ始めましたが、この背景にあるものは何か?
【中西】ISO26000台の話に必ずSRという話が出てくるので、現状の認識しかなかったが、SRという言葉は最近新聞紙上では多く見られる。
【福田】CSRは「企業」が社会に対してどういった責任をとるかが限定的だが、「組織」の責任も必要ではないか。ISO26000は「組織」と言う定義から、軍隊も政府の競合機関も抜いている。組織間のトレードオフや利害の対立を掘り返している。
【中野】イギリスではNGOも企業も大学も、社会面だけではなく、環境面も意識していることを示すため、CRと言っている。「C(Corporate)」は組織の、団体のという意味だが、日本では一般的に「企業の」と言われている。あらゆる組織の社会的責任を含むと、CSRは「組織の」ということになる。一方で、企業の変革を促進するのは消費者の意識なので、ConsumerのCという捉え方や、サステナブルな社会を作るのは市民の責任なので、CitizenのCという捉え方もあり、試行錯誤の段階である。
【岡本】CRは、CSR からSを除くことにより、社会的なものだけではなく、生態系や生物多様性等の幅広い意味を持たせている。また、「企業」だけが対象ではないということで、SRを使用している企業もある。国際的には3つの言葉が共存しているという認識があり、CSR、SR、CRという言葉を柔軟に使って、本質を追求することが必要である。

質問3:「CSR」や「サステナビリティ」は企業のブランド価値となるか?
【中西】日本にはこれらを受け入れるだけの土壌がないので、現状では無理である。その要因として、NGOやNPOが力を持っていないことが挙げられる。企業が適度な緊張関係を持つためにNGOやNPOを育てるという行為も、持続可能な開発にあたると思う。
【福田】企業が何をしているか、信用できるかを顧客が認識すれば、とても大きな力になる。問題があっても適切に対応してくれることを知れば、必ず安心感が生まれる。情報を与えれば与えるほど、ブランド価値の向上につながる。
【中野】CSRの体外的な表現内容と、社員一人ひとりの意識の乖離をなくすことが大きなブランド価値につながる。本業では、世代間、世代内、種間の3つの公正を常に考慮することが大事であり、それは企業や行政、NGOが適度な緊張関係を保つ中で磨かれていくものである。また、企業や行政がNGOを育てていくという認識も必要である。 
【岡本】CSRは企業の価値そのものである。経済だけで突き進む社会は持続不可能なので、今後SRというさまざまな意味での責任が必要になる。CSRは全社員が一丸となって取り組むこと、まさに持続可能な開発がCSRの行き着くところである。
「まとめ」西ヨーロッパでは、環境だけではなく、労働や安全等の社会面も含めた総合的なサステナビリティの目標を政府が持っており、これを具体化していくためのマルチステークホルダー円卓会議が設けられている。そして、この会議が専門機関となり、サステナビリティに関わるさまざまな活動を展開し、毎年評価を行っている。
日本では、環境基本計画があるだけで、サステナビリティに関する目標は持っていない。この課題を解決するためには、サステナビリティという目標の具体化を推進するマルチステークホルダー円卓会議が必要であり、その中での企業の役割は非常に大きい。同時に日本では市民層、NGO・NPOの力が弱いので、市民をエンパワメントしていくことも必要である。
当チームは世界を視野に入れながら、ローカルな視点でCSRを展開できる方法を考え、それを伝えていくことのできる人材養成を目指している。

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