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イベントレポート

【2008/5/31 スウェーデン・日本の市議会議員が提案するサステナビリティの羅針盤で地域社会を元気に!】

P.D. 照沼麻衣子(ESDRC)
日時: 2008年5月31日
場所: 立教大学 池袋キャンパス7 号館 7102 教室
題目:

スウェーデン・日本の市議会議員が提案するサステナビリティの羅針盤で地域社会を元気に!

共催:

立教大学ESD 研究センター/持続可能なスウェーデン協会/スウェーデンエコ自治体協会

協力:

環境自治体会議(Colgei)/国際NGO ナチュラル・ステップ・ジャパン /日本環境議員の会/ Be Good Cafe

   

■増原直樹氏「環境自治体会議の紹介と遊佐会議に見える最近の活動」

 まず、環境自治体会議(colgei)代表の増原氏からcolgeiについての紹介が行われた。colgeiは環境に配慮した町作りをしてゆくために結成された組織であり、全国の約1800の市町村のうちの61市町村、約3パーセントが加入している。1992年の地球サミットの年より鹿児島県屋久島、指宿、愛媛県内子町、などで1年に1度の会議を開催してきており、各市町村からの報告や情報交換などが行われている。
 また、今年度の会議は本講演会の前日まで山形県遊佐町で開催されており、氏から語られた会議報告は次の通りである。
 1日目の2008年5月27日(水)、多世代による合唱によりオープニングパーティーの幕が開け、2日目の午前中には遊佐の“エコ”を学ぶフィールドツアーが行われた。見学地となったのは、校舎の屋上に発電用のソーラーパネルと温水を作るソーラーパネルを設置した町立稲川小学校と、木の多い山形ならではのペレットボイラーによる暖房施設、また参加者の希望により現地付近の滝にも訪れた。午後には洞爺湖サミットのテーマとなっている“脱温暖化”をテーマにした分科会が開かれ、バックキャスティング(1)の手法についての話し合いが行われた。最終日の3日目である全体会では、地球環境・大気汚染・ゴミ問題など9つの課題に関する数値―たとえばゴミ問題であればゴミの量―をグラフ化し、全国平均の数値とcolgei会員自治体の数値を合わせ見ることで、各自治体それぞれの問題を明瞭化した。温暖化の問題に自治体としてどのように取り組んでゆくか、日本全体に共通する対策の遅れを解消すること、実行した対策の効果を分析することが日本国内における課題であり、また、日本の中の先進的な事例を海外に発信しアピールすることと、スウェーデンエコ自治体協会(sekom)やドイツの気候同盟などの実践的な取組に意欲的な組織と情報交換をすることが国際的な課題であるとして遊佐会議の報告が結ばれた。
来年度の岐阜県多治見市で行われるcolgei会議では、洞爺湖サミットにおける温暖化対策についての話題もあがっていることであろう。多治見会議では、それぞれの自治体の温暖化対策への実践的な取組がより具体的になり、発展的に広まっていることを期待したい。

■コニー・セーヴェヘム氏「スウェーデンエコ自治体協会の羅針盤を念頭に環境政策で地域社会を元気に」

 次に、スウェーデンエコ自治体協会(sekom)理事のコニー・セーヴェヘム氏よりスウェーデンのエコ自治体の活動について、また氏が議員を務めるヴァールベリュ市のサステナビリティへの取り組みについての講演が行われた。
 sekomは、持続可能なスウェーデン社会を実現させるリーダーになることを目指した任意的な自治体のネットワークであり、社会・経済・環境の基盤が整った人々が安心して住み続けられるスウェーデンを、サステナビリティの定義を共有しつつナチュラル・ステップ(2)のシステムを用いてで築いていくという志のもとに成り立っている。選挙で当選した議員と行政職員で組織されており、異なる立場の人々が出会い協力し合う貴重な場にもなっている。sekomの歴史は1983年のスウェーデン北部におけるスウェーデンエコ自治体の発足に始まり、1995年にはスウェーデン国内に290ある自治体のうち35~40の自治体が参加してスウェーデンエコ自治体協会(sekom)に発展、現在では全国の自治体の約25パーセントである71の自治体が加入している。
 年1回の会議で各自治体による環境指標の報告を行う、国の主催する持続可能なスウェーデンツアーへの協力、“使い捨て”指向でない消費活動を促すための活動などをプロジェクトとしており、イタリア、アイルランド、日本、ケニア、エチオピア、アメリカ、など世界中のエコ自治体に関わる組織と協議の提携を行っている。
 今回の講演の話題となった舞台は、スウェーデンの首都ストックホルムから南西に約100㎞、人口57000人が住んでいるヴァールベリュ市。気候変動、大気汚染、資源の枯渇、生物多様性への危惧、など、普通に生活をするにおいても幾多の問題に直面している現在、長期的な目標―持続可能な社会の実現―を実現させるためには短期的な目標を具体的に設ける必要があると考え、市では2012年までに次のような目標を掲げている。

・1人あたりのCO2排出量を4トン以下に…2000年時より10%の削減
・19キロGWhのバイオガスの生産
・車両燃料の20%をバイオガス燃料で賄い、環境に優しい交通状況をつくる
・市の食堂で使用する食材の内、15%以上を有機栽培のものにする

また、目標実現に向けた取り組みの具体例は次の通りである。

1.製紙工場から出た余熱の利用
19㎞離れたラインを通じて製紙工場から家庭に地域暖房を提供する。製紙工場のボイラーで76°C の余熱を回収して熱交換し、地下トンネルを通して温水を市内へ送るという方法による。その後、製紙工場に戻って来る温水は45°C 、 76°C 以上の熱需要は製紙工場のバイオマスボイラーの蒸気と天然ガスボイラーで供給している。この方法により、発電による海への負担を削減できるというメリットがある。また、天然ガスの使用量も20%削減でき、それに伴いCO2の排出量を2007年には20%(=32000t)削減することができた。このシステムには21億2500万円の投資がされており、自治体が株主になっているエネルギー公社が運営を担っている。
2.ペレットボイラー
地域熱を供給できない地域への熱の提供を、木片を利用したペレットボイラーの導入により行っている。供給先には、学校、老人ケアサービス施設などがある。
3.ヒムレ川再生プロジェクト
NPOヴァールベリュ釣りクラブが主体となり、ゴミのクリーンアップキャンペーン、魚の産卵場所の確保の働きかけを行ったところ、43000匹の魚が戻り、生物多様性の拡大が実現し、鮭がヘメレ川に戻ってくるようになった。
4.歩道・自動車道路の整備
交通量を減らしたところ歩道を歩く人の数が増えた。通りが賑やかになったことで、道路付近で店舗商売を営む店への客足は増え、客足現象を懸念していた商店主たちの不安は払拭されることとなった。交通路の減った道を通学路にする子供たちの安全が守られるようになり、沿道に生活する人々の健康状態も良くなった。
5.エコドライブの推進
停車時にエンジンを止めることを推進したことにより、15%以上のCO2を削減することに成功。
6.貨物運搬の推進
港から町に鉄道を引いたことでトラック輸送が減り、資源の浪費が減りCO2の排出も削減された。
7.自転車の推進
子供のうちから自転車の利用を教えることにより、大人になってからも自転車での移動を自然と行えるようにした。道路が危ないだろうと学校まで送り迎えをする親がヴァールベリュ市内では多かったが、その送迎による交通量の増加がむしろ危険を呼んでいた。
8.風力発電
発電量は毎年増加しており市の運営のみでなく、民間の会社も風力発電を行っている。CO2の削減を目的に、ヴァールベリュ市エネルギー公社は5年以内に20以上の風力発電所を設置する事を目標にしている。民間も含めると80以上の発電所を設置することが目標。
9.水力発電
2007年に29GWhの発電に成功。2004年から2012年までに27000tのCO2排出を削減できる見込み。
10.バイオガスの生産
市の運営する住居施設から出るゴミを発電に利用したシステム。ゴミの分類は厳しいが、住民の理解を得てサステナブルな燃料バイオガスの生産を行っている。また、家庭ゴミ・レストランからのゴミ、学校からのゴミを下水処理場を通して発電させる新しいプロジェクトが2008年8月に始動する予定。そして、自治体で使用する250台の車のうち15%の燃料を将来はバイオエネルギーで賄う計画がある。

 氏は、以上のような事例を紹介した後に、「環境問題を考えることは未来に対する責任を引き受けることであり、後戻りの出来ない現状において、これまでと同じ方法で生活し続けることは困難である。これから地球に生まれてくる人々を良い環境の地球に迎え入れるために、哲学と政治に関わる問題ではなく、持続可能でエコロジカルな方法で未来を築いていくことが有効な方法であろう。」と述べた。この言葉は、氏の語ってくれた“短期的な目標”を数値的に実現させた自信であり、その延長線上にある未来に向けた希望でもあるのであろう。確かに「哲学」と「政治」に縛られることでサステナビリティの取組を展開させられないのだとしたら、それは“短期的な目標”の前段階で挫折してしまい、今ある不可避な危機を放任してしまうことになる。しかしながら、「哲学」と「政治」という複雑に絡み合う普遍的な問題にも対峙しつつ問題解決への糸口を模索するための知恵を集合させられたら…と、個人的には思う。あるいは氏の「哲学と政治に関わる問題ではなく…」という言葉には、「哲学と政治を超えて…」という感情が込められており、より深い意味合いであったのかもしれない。だからこその諸事例の実現が可能となったか。
 コニー氏は日本の街にゴミがほとんど落ちていない事に驚きを感じたという。それは日本人が自然と身につけてきた「公共空間を清潔に」というマナーであり、“エコ”の感覚とは異なったある意味における精神的な日本文化に由来しているのだと思う。私たちは“環境先進国”のスウェーデンの背中を追うのみならず、日本が世界にアピールできることを発信し課題を共有し合ってゆくべきなのだろう。この点は、増原氏が「日本の情報を発信していく必要性がある」と述べたことにも繋がってこよう。
 私たちは、他国の先進的な事例を学び実践したり、日本の独自性を貫き通したり、時には新たな概念の発明を志したり、最適と思われる判断を下して未来作りをし続けていかなくてはならない。そして、そのためには設備投資に莫大な費用がかかってもエタノールでなくバイオガスの生産を優先させるようなスウェーデンの在り方、つまりは“サステナビリティの羅針盤”に柔軟に反応できるスウェーデンの社会を、やはりモデルの一つとする必要があるだろう。

■草島進一氏「スウェーデンエコ自治体会議主催の国際会議に参加して」

 氏が議員を務める鶴岡市では、住民の反対を押し切るかたちで2001年にダムが竣工され、それまで地下水で賄ってきた水道水がダムから給水されることとなった。市はダムを保有することで安定した水道を確保することに成功したが、水質の低下や水道料金の2倍増しなどの問題が住民に課せられてしまったという負の側面を看過することは出来ない。ダム建設の計画が打ち出された直後より、草島氏は街頭で地下水の美味しさをアピールしたり署名を募って市に提出したりなどして、ダム建設反対運動のリーダー的存在として活動してきた。残念ながら運動自体はダムの竣工により終焉を迎えてしまったが、そのような経緯の中で、住民の視点に立ち持続可能性を意識しながら問題を解決していくことを自らの課題として考えるようになったという。
 分権が進んでいるスウェーデンの社会において、コニー氏のご講演の話題にもあがったsekomがどのように実際の活動を行っているのか、そこに持続可能な地域社会を築いてゆくためのヒントがあると草島氏は言う。氏は講演会の前日までsekomの主催するエコ・ツアーと会議に出席し、講演会の壇上に立つ6時間前に成田に到着したばかりであった。そして、“エコ”が自治体の在り方、ひいては人々の生活に馴染んでいるスウェーデンのホットな事例を写真を交えてご紹介くださった。

1.ウーメオ市におけるグリーンゾーンの設立…マクドナルド・フォード・スタッドオイル(石油会社)の出資による
・屋上緑化…マクドナルドの店舗など
・自然排水システム…アスファルトでなく土と植物で地面を覆う
・太陽パネルを利用した暖房システム…電気に変換せず直接部屋を暖める
・植物を活用した空気清浄システム
・環境を学べる校舎の設立
2.充実した環境教育学校
・給食の材料の60%にオーガニック食材が使用されている
・ウッドペレットによる暖房施設の導入
3.エコビレッジでの学習
・古い工場を活用したペレット工場
・馬を乗せた筏で水上を散歩する水車の作成
4.世界遺産ヘーガクフテンのビジターセンター
・町工場で安価に作るソーラーパネルの導入
5.交通
・渋滞税の導入による交通のスムーズ化
・ガソリン料金は1㍑=約250円、エタノールは1㍑=約136円という価格設定をし、エタノール車の普及を促す
・バイオガスで走るバス…ヨーテボリで8年前より走行。おもに下水処理場からバイオガスを供給
6.電力
・風力、水力、核燃料から電力の供給元を指定することが可能

この事例に代表された取り組みは、システム思考を基盤とする「知識」・参画型の「民主主義」・「統合化」・「全レベルでのネットワーク」・「プロセス」をキーワードとするコンセプトによって支えられているという。そして、バックキャスティングの手法がそのようなコンセプトを推進させる原動力となっている。
また、5,6歳児を対象とした環境教育を行うムッレ(スウェーデン語で妖精の意)教室では、ナチュラルステップの4原則を学ぶため、幼少期よりエネルギーの源であるクロロフィルを擬人化させるなどする優しい教育手法で、エネルギーについて学ぶ機会を設けているという。日本では大人でもほとんど知らないであろうエネルギー問題の基本を幼児期より教わることで、人々のエコ指向、問題解決への主体性は自然と育成されてゆくに違いない。そのような長いスパンの教育の成果として、現在のスウェーデンにおける“エコ社会”の実現が叶っているといっても過言ではないだろう。
 「持続可能な自治体〈=社会作り〉は環境だけではない」と氏は述べる。これまで挙げてきた事例は主に環境に配慮した取組であったといえるが、市街地の講演で子供たちの“遊び”を指南する男性の姿―男性はかつてアメリカのバスケットボールプレイヤーであった―を映した写真、そこで子供たちが屈託のない笑顔をプレイリーダーであるその男性に向けている様子が印象的であった。都会の生活の中で、子供たちは“遊び”の方法すら忘れてしまっている。友達と、或いはまだ友達ではない同年代の仲間たちと一緒に遊ぶことを不得意とする子供たちが増えているという。彼の役割はそのような子供たちが一緒に楽しく遊べる術を体得させることであり、その仕事はプロ意識を必要とする確かな専門職なのである。
スウェーデンでのツアーの主催スタッフのある一人は、このような取組を行う人々を“ファイヤソウル”と呼ぶという。従来の常識にとらわれず、社会の持続可能性を追求し実践できる人々に与えられた称号である。ファイヤソウルを持つ人々、そしてその活動をサポートするシステムを有するスウェーデンの社会が、相互に働きかけることによって“環境先進国スウェーデン”が相乗効果的に立国しているのだろう。また、社会を作っているのは官僚ではなく自治体であるという意識が強いことが、住民の基本的なニーズを満たすための取組を意欲的にさせていると草野氏は述べる。氏の出席した会議の写真には、「生命・生活の維持」「保護」「愛情」「理解」「参加」「休み」「想像」「アイデンティティ」「自由」の9要素を人間の基本的なニーズであると示すチリの経済学者であるマックス・ニーフの姿が映っていた。それは持続可能社会を支える哲学の提示である。
 最後に、水の問題。氏の訪れたウィスコンシン市の水道は、地下水からひかれているという。そのため、温度は年間を通して安定しているし、勿論のこと蛇口を捻ればいつでも美味しい水が流れ出てくる。そして、人はそれをそのまま口にすることが出来る。地下水には塩素を入れることなく、紫外線を水に当てることで消毒を施しているという。水が不足すれば近くの湖より水を引いて井戸付近に撒き放ち、3週間の自然濾過を果たして地下水を満たすことが出来る。日本で塩素が含まれていない水道水に出会うことはまずないと言う草島氏に、「なぜ美味しい水にわざわざ塩素を入れて不味くする必要があるの?」とスウェーデンの人々は強い疑問を呈したという。それこそが氏が、地元である鶴岡市で自治体活動―ダム建設の反対運動―に取組始めた原点ではなかったか。
 『国連「持続可能な開発のための教育」の10年』が始まって5年、日本においても環境、開発、平和などそれぞれの分野におけるファイヤソウルが連動し始めている。今後は、その連動したファイヤソウルがより広範な人々に影響を与え、社会を動かす力を育てることが課題となってくるだろう。

(1)バックキャスティング…未来をどのような社会にしたいかについて、20年後40年後といった時点の具体的なビジョンを定義し、その実現のため現時点からその到達点までの道のりを遡流的に予測調査してアクションプランを編み出し、実践してゆく手法。

(2)ナチュラルステップ…持続可能な社会を気付いてゆくための国際組織。「地殻から掘り出された物質が生物圏に増え続けない」「人工的に作られた物質が生物圏に増え続けない」「自然が物理的に劣化され続けない」「人々の基本的なニーズが世界中で満たされている」をシステムの4原則とし活動している。
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