<プログラム(敬称略)>
1. 概論 (13:00)
阿部 治 (ESDRC):
開催挨拶と趣旨説明
久保田 泉(国立環境研究所):
「気候変動による太平洋島嶼国への影響と適応」 発表資料PDF
野村 康 (ESDRC):
「教育と適応能力構築」 発表資料PDF
2. 南太平洋地域の取り組み (14:00)
タイト・ナカレブ(SPREP):
「気候変動への適応と教育:SPREP(南太平洋地域環境計画)の取組み 」 発表資料PDF
サニバラティ・ナブク(WWFフィジー):
「フィジーにおける適応能力構築」 発表資料PDF
アリティ・コロイ(南太平洋大学PACE-SD):
「太平洋地域における適応能力構築:教育と国際協力の課題」発表資料PDF
3. 日本の取り組み (15:20)
竹本 和彦(環境省 地球環境審議官):
「日本政府の取組-島嶼国の適応能力向上-」 発表資料PDF
馬場 繁幸(ISME/琉球大学):
「事例紹介としての国際マングローブ生態系協会(ISME)の<これまでの取り組み>と<その活動
から学んだこと>」 発表資料PDF
4. パネル・ディスカッション (16:10)
座長:阿部 治
パネリスト: 上記発表者 及び 三次 啓都(JICA国際協力機構)
題目:「太平洋島嶼国における適応能力の構築に向けた教育と国際協力(日本からの貢献)の可能性」
<シンポジウム報告>
1.はじめに
本シンポジウムは、気候変動(温暖化)に対して脆弱性が高い、太平洋島嶼国の「適応能力」の構築と、それに向けた「環境教育」「国際協力(政府間協力、NGO、企業、大学)」の重要性について関心を高めると共に、今後の研究・実践の推進に資する目的で開催された。
ゲストスピーカーとして、南太平洋地域からSPREP(南太平洋地域環境計画)・WWFフィジー・南太平洋大学PACE-SDの担当者、国内からは、国立環境研究所・環境省・琉球大学から、研究・政策立案・実践に携わる第一人者を招いて、議論を行った。
2.センター長挨拶
阿部治ESD研究センター長より、趣旨説明及び、ESD研究センターの紹介が行われた。阿部センター長は、南太平洋地域で同センターが行う研究活動に加え、ツバルのイエレミア首相を立教大学に迎えて一昨年に行った講演会や、ツバルからの高校生を立教学院で受け入れていることなどを紹介した。そして、今回のシンポジウムが、太平洋地域に関する一連の取り組みに位置付けられ、気候変動への「適応」に向けた教育の重要性・課題について議論し、今後の連携についての可能性を探る契機としたい、と述べた。
3.各発表
その後、各研究者、政策立案者、実践者から、「南太平洋地域における気候変動への適応能力構築と教育」に関する、以下の発表・議論が行われた。
<久保田泉氏(国立環境研究所)> 発表資料PDF
久保田泉氏は、「気候変動による太平洋島嶼国への影響と適応」と題して行われた発表で、温暖化対策が大きく「緩和策(mitigation)」(排出削減と吸収源の増強)と「適応策(adaptation)」に分けられるとし、適応策とは、気候変動とその効果に対して自然・人間システムを調整し、被害を軽減することであると説明した。続いて、これまで議論が遅れ気味であった適応策の重要性が、近年になって強く認識されるようになってきたとし、太平洋島嶼国では、水資源や食料、人の健康や産業など、あらゆる分野における影響が予測されるため、適応支援が必要不可欠であると指摘した。また、適応策の実施主体は、地方レベルであり、地方レベルでの適応策の立案・実施が円滑に行われるような支援体制作りが求められていると議論した。
<野村康(ESDRC)> 発表資料PDF
「教育と適応能力構築」と題して行われた発表で、野村研究員は、適応能力の構築における「教育」の重要性について議論した。とりわけ、貧困等の社会的諸問題を抱えた地域は、気候変動の影響に対していっそう脆弱であるため、「社会的脆弱性」を含む形で、ローカルな文脈に沿った効果的な適応策を実施することが必要だと述べ、コミュニティーの住民が自ら考え、主体的に参加する力を養うような、教育が重要であると議論した。また、ESDRCが調査を行っているキリバス国の事例を紹介し、適応能力の構築に際しては、単純にアウェアネスの向上を図るのみではなく、適切な知識・技術の提供が必要であることや、政策レベルから行動・実践につながる形で教育を提供する必要がある点を指摘した。そして、多様な教育資源・経験を持つ大学やNGOなどの主体の参加を促し、草の根レベルでのプロジェクトを拡充するような制度整備の重要性を強調した。更に、実践面での課題として「未体験の問題の将来的影響」に対応する難しさという、気候変動問題が抱える特徴を挙げた。
<タイト・ナカレブ氏(SPREP)> 発表資料PDF
「気候変動への適応と教育:SPREP(南太平洋地域環境計画)の取り組み」と題して行われた発表で、タイト・ナカレブ氏は、SPREPが、太平洋地域の21の国と地域が加盟している地域環境プログラムの事務局として機能していることを紹介した後、SPREPの適応策における「教育」の重要性を強調した。そして、SPREPが、南太平洋大学(USP)や教会、メディア等の多様な主体と協力し活動を行っていることに加え、実際の取り組みとして「適応能力構築プロジェクト」(CBDSMPIC)・「コミュニティーの脆弱性・適応アセスメント」(CV&A)という、ボトムアップ型のSPREPのプロジェクトを実施していることを紹介した。ナカレブ氏は、こうしたローカルレベルの活動の経験から、「適応能力」構築のためには、コミュニティーと共に活動を進め、長期的に効果が持続するよう促すことが重要であると報告した。また、ローカルレベルでの変化を気候変動問題と結びつけることと共に、トレーニングを通じて技術を養うこと、意識向上から行動へと結びつけること、日本等の先進国から科学的知見を提供することなどの重要性を強調した。また、初等~高等教育システムに温暖化問題を組み込んでいくことが、今後重要になると述べた。
<サニバラティ・ナブク氏(WWFフィジー)> 発表資料PDF
「フィジーにおける適応能力構築」と題された発表で、サニバラティ・ナブク氏は、まず同団体が、ステークホルダーとの効果的なパートナーシップを通して、社会経済的な豊かさを促進し、文化的に適切な保護活動を実施することによって、持続可能な環境作りに従事するという理念のもとに活動していることを紹介した。そして活動事例として、Climate Witness Programme(地域住民の目から見た環境変化の報告を記録して、広める活動)を報告した。この活動は、コミュニティーの住民に、過去の生活と比べ、現在の生活がどのように変化しているかを記録してもらうことによって、気候変動のローカルレベルでの影響を明確にするとともに、地域住民が自ら変化を認識し、行動するように促すことが可能となるプログラムとして行われている。更に、伝統文化に配慮したコミュニティーレベルの(沿岸)資源管理能力強化の活動などを紹介した。これは、フィジーの村落で、伝統的に行われてきた文化的習慣を、海洋保護の知見と融合させることによって、個々の文化的文脈に即した効果的な保護活動を可能にしている事例である。こうした活動では、地域の人の意識向上を行うことに加えて、アクション・プランの作成などを行い、行動を促すよう配慮がなされていることを述べた。また、現地の専門家(専門知識)の不足が課題となっていること等が報告された。
<アリティ・コロイ氏(PACE-SD/USP)> 発表資料PDF
「太平洋地域における適応能力構築:教育と国際協力の課題」と題された発表で、コロイ氏は、南太平洋大学(USP)-環境と持続可能な開発のための太平洋センター(PACE-SD)の概要、同大学が提供する関連コース、センターにおけるESDの取り組み等を紹介した。USPは、太平洋地域における12の国によって共同で運営されており、同地域における最高学府である。また、同センターは、1999年のUSP戦略プランによって提唱され、環境と持続可能な開発を主導するUSPの機関として2001年に設立され、1〜2週間の比較的短いものから、大学院コースに至るまで、気候変動に対する太平洋地域の脆弱性、それに対する「緩和策」、「適応策」に関連した様々なコースを提供している。更に、ローカルレベルで実際に活動を行い、それを通して、気候変動によって予想される影響のシナリオを作成するなどといった、問題解決のための実際の行動に結びつく研究活動を奨励している。またUSPの専門知識を実践レベルで活用していく上で、人材・資金面や制度面の課題があることも提起された。
<竹本和彦氏(環境省)> 発表資料PDF
「日本政府の取り組みー島嶼国の適応能力向上ー」と題された発表で、竹本和彦氏は、気候変動に関わる科学的知見(特に島嶼国への影響)と、気候変動次期枠組み交渉の国際動向、とりわけ、一昨年のバリ・アクションプランに言及した。バリ・アクションプランで提示された次期枠組みの5つの要素の1つである「適応行動の強化」の中で、適応基金(Adaptation Fund)の早期運用開始の必要性や、基金の原資としてクリーン開発メカニズムで得られた利益の配分等が検討されたと報告した。また、温室効果ガスの排出量が少なく、気候変動の影響に脆弱な国々への適応策についての議論もなされたと述べた。更に、日本が掲げる「21世紀環境立国戦略」の概要を説明するとともに、「クールアースパートナーシップ」を通じて途上国に対し、2012年までに100億ドルの資金供給を行うこと、ツバルにおける技術協力プロジェクト等の実施、太平洋島嶼国とのパートナーシップ構築等のプランについて言及した。また、ProSPER.Netを通じた教育支援など、他の日本の適応支援関連策などを紹介した後、気候変動問題への対応が急を要すること、官民協力が重要であること等を指摘した。
<馬場繁幸氏(琉球大学・ISME)> 発表資料PDF
「事例紹介としての国際マングローブ生態系協会(ISME)の<これまでの取り組み>と<その活動から学んだこと>」と題された発表で、馬場繁幸氏は、同氏が事務局長を務めるISMEが行う、ツバル・キリバス等におけるマングローブ植林事業の取り組みを紹介した。ISMEは、1990年に設立したマングローブに関する国際的NGO/NPOであり、琉球大学農学部に事務局を置いていること、設立以来、世界各地のマングローブ林の現状を調査・情報発信し、マングローブ林の保全や植林の活動に従事していることを紹介した。また、Jマングローブ生態系管理技術に関するJICA研修などを通じて、人材育成にも取り組んでいると報告した。マングローブ林は、土壌中の炭素量が多く、熱帯林亜温帯林での植林よりも、マングローブ植林が効果的に温暖化対策に貢献しうること、また、沿岸保護など「適応」(防災)機能にも優れていることを議論した。マングローブ植林は、地域の住民、子供たちが、環境(問題)について学ぶ一つのきっかけを与える教育教材として有効であることを指摘し、地域レベルでの活動を紡ぎ合わせ、相互に支援できるネットワークを拡大すること、コミュニティーが困難に直面した際にフォローアップを行える体勢をNGOや政府等が整えておくことが重要だと強調した。また、こうした活動の拡充のためには、NGOの活動における資金確保などの課題があることを指摘した。
4.パネル・ディスカッション
各発表の後に、国際協力機構(JICA)の三次啓都氏が加わり、「太平洋島嶼国における適応能力の構築に向けた、教育と国際協力(日本からの貢献)の可能性」と題して、パネル・ディスカッションが行われた。議論に先立って三次氏は、これまでの経験から、環境の負の影響を受けやすい人々が貧困層であることや、温暖化の影響を受けている人が増加していることを実感していると述べた。また、ミャンマーでのサイクロン被害についても触れ、マングローブ林が存在しているところは、被害の程度が低かったとするデータがあることについても言及した。更に、これまで経験したことのない災害に対する地域住民の理解を促進するという課題も示した。その後、JICAの太平洋地域における取り組み(パラオでのサンゴ礁モニタリング等)を紹介し、既存のフレームワークに沿って、太平洋島嶼国との連携を強め、ネットワークを拡大していくことが、今後重要性を増すと指摘した。
その後、会場からの質問を受けて、環境省の竹本氏が廃棄物関連の回答を行った後、防災対策との関連性について、三次氏・ナカレブ氏・竹本氏との間で意見交換が行われ、地方レベルの対策、地域住民の自立、そのための支援の重要性等が指摘された。
続いて、各パネリストからコメントが述べられた。久保田氏は、今回のシンポジウムを経て、さまざまなレベルで適応計画を担う人材を育ててゆくことの重要性を再認識したと述べ、今後は、自然環境に焦点を当てる自然科学的知見に加え、社会科学の知見を融合して影響評価を行うことが重要であるとの考えを示した。ナブク氏は、セクター横断的な取り組みの必要性を強調し、今後も継続してコミュニティーベースの適応策を講じていきたいと抱負を述べた。また、ナカレブ氏は、SPREPでは教育の重要性は認識していたが、これまではハードの側面からの適応策が中心的であったこと、今後は、その適応策の中に教育をどのように統合して行くことが出来るかが課題であるとし、USPやNGOとの連携を深めていきたいと述べた。コロイ氏は、ESDが太平洋地域にとって非常に重要な課題であることを繰り返し強調すると共に、防災などの観点からも、諸機関間連携が重要であることを述べた。竹本氏からは、環境省とSPREP・USP等の機関との連携強化を図っていくことが必要であるとの認識が示された。馬場氏からは、最も困難を抱えている実際の住民の声をしっかりと聞き取ることの重要性が強調され、ローカルレベルの実際の活動を促すためのガイドラインを、政策者、住民、NGO/NPOのそれぞれが集まって作成し、それに従って行動を起こすことが最も重要であるとする意見を示した。そして、関連機関を動かし、コミュニティーベースの活動を支援することが重要であるとの見解を示した。
最後に、小池百合子元環境大臣が来場し、閉会の挨拶を行った。
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