気候変動(温暖化)への対応には、緩和策(温室効果ガスを減らして影響を緩和する)と適応策(影響に対して社会的に適応していく)の2つがあるが、教育が果たす役割は、前者だけではなく、後者においても非常に大きい。人々の生活に与える影響を最小限にするためには、経済・社会活動の面での対処(所得源の多角化や、災害対策としての地域連帯の強化など)が重要であり、総合的な教育活動、すなわちESD的な取り組みが必須だからである。
実際に、気候変動の影響を受けやすい国が行ったニーズ調査でも、教育(意識啓発・知識の伝達・適応のための技術普及、他)が最重要課題の一つとして挙げられている場合が多い。しかしながら、現在実施されている適応策においては、物理的対処(例えば護岸工事などによる高波対策)が中心となっている。この一因としては、教育的手法をどのように活用していくかという知識・スキルが関係者に不足していることが考えられる。
こうした点を背景に、ESD研究センターでは、国際協力機構(JICA)の、「市民参加協力事業」スキームを活用し、太平洋に浮かぶ島国・キリバス国の政策立案者等に対するワークショップを、2009年2月に実施した。この事業は、ESD研究センター・太平洋チームがこれまで行ってきた、キリバス国における環境教育や適応に関する研究活動の一環として位置づけられる。
環礁国であるキリバスは、海面上昇など、温暖化の影響に対して極めて脆弱である。環礁国における脆弱性に対処するには、沿岸部の環境保全が必須であるため、今回は、マングローブの専門家である琉球大学・馬場繁幸教授を招き、マングローブ植林を切り口とした能力開発モデルを例に、教育プロジェクト立案に関するワークショップを実施した。マングローブは防波能力や土壌浸食防止能力に優れ、環境保全効果が高い。一方で、子どもから大人まで植林活動に参加することが可能で、コミュニティの連帯が強まるとともに、発育が目に見えるため、教育効果も高い。
今後、立教大学ESD研究センターでは、日本の援助関係者とも連携を密にして、キリバス国等の温暖化の影響を受けやすい国々における、教育を通じた適応能力構築プロジェクト形成をサポートしていくことを考えている。
キリバス国Taarsu Murdock環境事務次官
Teboranga Tioti次官補と日本側参加者
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