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イベントレポート

【2009/6/26(金)ESD研究会<開発教育・ESDにおける国際交流・協力の成果と課題>
アジアにおけるコミュニティ・オーガナイジングの現状~タン・ジョハンから学んだことを中心に~】

  西 あい/上條直美(ESDRC)
日時: 2009年6月26日(金)18:30~20:30
場所: 立教大学12号館 第3・4会議室
題目:

「アジアにおけるコミュニティ・オーガナイジングの現状:タン・ジョハンから学んだことを中心に」

講師:

西 あい (特活) 開発教育協会(DEAR)

司会:

田中治彦(ESDRC)

主催:

立教大学ESD研究センター

協力:

(特活) 開発教育協会(DEAR)

    

 ESD研究センターの事業目標のひとつにESDコーディネーターの養成プログラム開発、養成の仕組みづくりがある。その手がかり、モデルのひとつとして、今回は東南アジアにおけるコミュニティ・オーガナイザーのトレーニングプログラムに参加した西氏の報告に学ぶ。
 トレーニングプログラムの主催は、東南アジアのネットワーク組織であるSEAPCP(東南アジア大衆コミュニケーションプログラム)。その コーディネーターの1人である タン・ジョ ハン氏(1)と日本との関わりを中心に、コミュニティ・オーガナイジングとは何か、ファシリテーターの役割は何かについて考察する。

1.タン・ジョ・ハン氏とDEARのかかわり
 最初にDEARでジョ ハン氏を招聘したのは2007年である。テーマは「持続可能な開発グローカルワークショップ~市民主体による地域課題解決に向けて」。
DEAR関係者で、北海道・さっぽろ自由学校「遊」(2)、沖縄NGO活動推進 協議会(当時、現(特活)NGOセンター)(3)、NPOいきいき小豆島(4)が受け入れとなり、東京(5)を含めて4箇所でワークショップを開催した。
 「市民主体による地域課題の解決」が共通テーマだったが、地域課題は多様で、北海道はアイヌ先住民の課題、沖縄は平和や福祉、 環境問題など多岐にわたる。小豆島の場合には、環境を軸に小豆島をよくしたい、魅力的な島にしていきたいという関心が高かった。東京の場合には、特定の共通課題を絞るのが難しく、参加者が多岐にわたったため、一般的なNGOスタッフ研修になった。
 いずれも2日~3日のワークショップを行ったが、地域課題が明確であればあるほど高い成果を得ることができたようだ。成果とは、「次につながる」かどうか、ということである。
 カマル氏のワークショップでも行動計画を作成するが、大きく異なるのは、ジョ ハン氏の場合には「誰が何をやるのか」という具体 的なことまで決める ところである。最初は参加者はそこまで覚悟を決めて来ているわけではないので、戸惑いは隠せなかった。しかし例えば沖縄の場合、ワークショップの翌日にジョ ハン氏に活動への具体的なアドバイスを求める問い合わせがあったそうだ。親身な個別カウンセリングは重要なコミュニティ・オーガナイジングのプロセスのひとつであろう。短時間のワークショップでは出てこなかった参加者の様々な思いが徐々に表面化した。
 「ふりかえり」も重要なプロセスである。それぞれのワークショップの終了後は、必ず主催者と時間をかけて振り返りを行い、ねらいと参加者の期待の整合性や成果などについて意見交換を行い、4箇所でのワークショップが終わったあとは、全体の振り返りを行った。
 「成果」をはかる基準は、個々のワークショップの単独の成果ということではない。ワークショップはそれぞれの活動のプロセスの一部と捉えられ、長期的なコミュニティ・オーガナイジングのプロセスの中で位置づけられる。それゆえに、プロセスが今どのような段階なのかということとワークショップの開催のタイミングが重要な意味を持つ。例えば小豆島の場合には、ワークショップという形ではなく、ざっくばらんな話し合いや、コンサルテーションがふさわしかったのではないか、という評価がジョ ハン氏から出されたのも、そうした理解による。

2.コミュニティ・オーガナイジング(Community Organizing)のプロセス
 SEAPCPにより2007年に行われた研修は、概念としてのコミュニティ・オーガナイジングとそのプロセスの理解を目的としていた。今年開催されたアドバンスコースは、2007年の研修参加者を対象とし、ファシリテーションスキルのトレーニングを目的としていた。
 基本用語の一般的な理解としては次の通りである。

コミュニティ・オーガナイジング
  ある集団(コミュニティ)が自らの現状改善や問題点の克服、共通の夢の実現、ひいては社会構造の
  変革 を目指し、主体的に活動に取り組む一連のプロセス

コミュニティ・オーガナイザー
  
コミュニティの人々がオーガナイジングを進めていけるよう手助けする人

ファシリテーター
  オーガナイジングに必要なファシリテーションのリソースやスキルを持ち、それを活用できる人

 そしてプロセスの一般的な道筋は、次の通りである。

  ①人々にアプローチする(アプローチ):話しかける、質問する、状況を知る
  ②課題を理解する―何が課題か?(分析)what:人々の理解を助ける
  ③根本原因を明確化する(分析)why:一緒に分析、共通理解を得る
  ④解決策を検討する(戦略)what to do
  ⑤どのようにそれを行うか(行動)how to do-行動
  ⑥ふりかえり、次の分析へ

 ただし、オーガナイジングのフレームワークは、単線的な経路を必ずしもたどるわけではなく、行きつ戻りつしながら目指すべき青写真は見失わないようにしながら進む。

 オーガナイザーの 重要な役割のひとつは、 ディスカッションをコミュニティの人々と行うことである。ジョハン氏の最新著書のタイトルとなっている“Walking on water”という言葉は、オーガナイザーの役割を象徴している。水の上は普通歩けない。常識では不可能と思われるようなことでも、ディスカッションを通じて発想を転換し、創造的な方法を見出そうとする ことも、 オーガナイザーの役割である。
 また、ビジョンに到達するためには、チームワークが重要である。というのは、お金も権力もない一般の人が直面する課題を解決しようとするときに、持っている のは「人」の力だけだからである。そのような状況でものごとに対峙しなければならないのであるから、皆がチームワークの重要性を認識するような活動が必要となる 。さらに、役所や警察、企業と交渉するためのスキル、課題の明確化と具体的な解決策を見出すためのファシリテーションスキルなどを身につけるために、オーガナイザーはサポート的なトレーニング、情報提供、外部のサポーター(弁護士など)を確保するなどの役割を果たす。
 また、オーガナイザーはコミュニティにアプローチするときに、まず歩き回って話しを聞いたり、人々とコミュニケーションをとる。わざわざワークショップを開くのではなく、少人数での話し合いや立ち話などを通して人々との関係を作っていく。先日のトレーニングでは、そういう場面を想定したファシリテーション スキルのトレーニングも行った。 例えば、「情報の重要性(情報発信や知る 権利)」についてコミュニティの人々とディスカッションするという場面設定で、水のペットボトルをツールとして使 うというワークを行った。身近なものを使って 平易な言葉で話す訓練だが、とても難しかった。わかりやすく、押し付けでなく、いかに意見を引き出すかという練習であった。
 
課題分析方法の研修では、参加者が「スクウォッター」の住民であると仮定して、そのミーティングの場でみんなで課題分析をするという 設定で、課題分析の練習を行った。 そこでは、警察、ディベロッパー、市役所など様々なアクターを登場させ、具体的なストーリーを作りながらひも を使ってウエビングを行う。すると、最終的にはコミュニティの人々がもっとも多くの影響を受けているということが目に見えてわかる。このような共通認識ができて初めて次に何をすべきか、ということが考えられるのである。行動に結びつかないのは、分析が不足しているからであると考える。
 トレーニングではフィールドワークもあり、オラン・アスリという先住民の住む村を訪問した。
この村では以前から、 政府や企業に土地を奪われ 、森から木が切り出される、という 状況がある。このケースでは、ローカルオーガナイザーは 内部の元小学校教師の女性である。
この女性は、自分の村における様々な課題に気づいてオーガナイジングをはじめた当時、18歳だった。 この村では女性は年長者や男性へ意見を言えない風習があったため、直接自分の問題意識を伝えることができなかった。そこで彼女が考えたのは、小学校の先生という立場を利用して 村に幼稚園を開き、子どもを集めた。そして子どもたちに村の環境が森林開発によって破壊されているという内容の歌を教えた。 子どもたちは家でそれを歌うので 、親 は村の問題に 気づいていった 。また、 籠づくりや有機野菜栽培など の共同作業を一緒にする 中で、女性たちと村の現状についてや、政府の話、企業の話をしていった。それを何年も続けた。そして、きっかけは巡ってきた。ある企業が村に入るのを阻止しようとしてとめられなかったときに、女性グループがうまく政府と交渉し、阻止することができた。女性たちは政府との交渉の仕方、書類の作り方を習得していたのだ。それを見た男性たちが女性に一目置き、初めて一緒に戦うようになった。このケースでは、地域の課題を解決するときに、コミュニティにもともとある伝統的な考え方(偏見など)が障害となっているため、まず村人の意識を変える必要があった。それには長いプロセスが必要とされた。
 地域の文化や先住民の文化は、人々の誇りであり重要だが、ときには価値観を変えたりすることも必要となる場合がある 。
 もう一つ、オーガナイジングを行ったインドネシアのバリ島の事例は、協同組合によるエコツアーの実施である。収奪的な観光 から持続可能な観光 へ転換することを目的に、ある環境NGOが4つの村でオーガナイジングを行い 実現した。この場合、村にはパンジャールという自治会組織のようなものがあり、村がまとまりやすかったという背景がある。 パンジャールの人たちは、何度かのワークショップを経て ローカルオーガナイザーのチームを作り、 トレーニングをした。ローカルオーガナイザーの育成の一事例である。

3.日本での実践:北海道・さっぽろ自由学校「遊」の取り組み
 自由学校「遊」は、設立当初からアイヌに関する学習会、講習会の継続した取り組みを行っていた。 2007年には、アイヌとの本当の意味での共生社会を作るにはどうしたらよいか、本当の相互理解とは何か、ということを話し合うため、「第1回ニサッタ・グス・チャランケ」を行った。その参加者が 後に「アプカシ(強制移住をさせられた道筋を心をこめて歩く、というイベント)」を企画し、 実現した。
 2008年に「第2回ニサッタ・グス・チャランケ」が行われ、 ワークショップの中から具体的な事業を進めるために4つのチームができた。提言チームは、G8サミット直前にアイヌを先住民として認める国会決議がなされたことを受けて、アイヌとしての提言とそのための学習会を行うことを目的とした 。研修トレーニングチームは、 自分自身が社会を変える人になろうということを目的として、若者を対象とした研修を開こうとしている。情報チームは、アイヌの視点からの情報発信を、チャランケチームは話し合いの場づくりを、それぞれが分担して進めることになった。
 ここまで見てきた意味でのローカルオーガナイザー に関して言うと、日本にはそのような人がなかなか地元にいないのではないか。大きなビジョン、視野を持ちながら、「普通の人」が共に課題を解決していく、コミュニティ・オーガナイジングのプロセスを進めることができる役回りの人が必要である。

4.開発教育とコミュニティ・オーガナイジングの学び
 学びには、学びのための学びと行動のための学びがあるとすれば、 コミュニティ・オーガナイジングでは、大きなオーガナイジングの流れがまずあって、ある段階での学びは次の段階につながり、学びそのものがねらいにはならない。次の行動につなげるための学びと言える。開発教育は比較すると、現状は学びのための学びとなっているのではないだろうか。
 コミュニティ・オーガナイジングでは、一部のワークショップを切り取っても意味がなく 、文脈を理解することで初めてワークショップを行う意味が出てくる。開発教育、特に地域の実践者の中には 、地域課題の解決に関心を持つ人が増えてきていると思う。地域で活動している人たちにとっては、開発教育の活動の延長のような形で地域課題への取り組みが自然に始まり、開発問題が取り組みの中に含まれており、具体的で継続的な行動につなげることが可能な環境である。そこにDEARがどう関わっていくのか、という課題がある。帆走 者なのか、沿道から声援を送る人なのか、トレーナーなのか、どういう役割が可能なのかを考えていきたい。

<補足>
2009年度のトレーニングコースのスケジュール
 日程:2009年5月31日~6月8日 9日間
 プログラム:
  1) アイスブレーキング:自己紹介、活動紹介など
  2) 講義と議論: 世界経済危機とコミュニティ・オーガナイジング、ジェンダーとコミュニティ・
     オーガナイジングの
2テーマ
  3) ファシリテーション のトレーニング(手法のトレーニング)
  4)フィールドワーク(2日間)
    都市のスラム、オラン・アスリ、パームプランテーションの3グループに分かれた。
    自分たちが事前に情報を得て からいくが、当地でディスカッションするテーマを自分たちで考え、
    クリエイティブな方法を使用して 住民とディスカッションをすることが課題である。
  5)情報発信 :コストをかけないでできるビデオ編集やインターネットを使った情報発信の方法など
  参加者:東南アジアを中心にアジア各国からNGOスタッフ17名
  感想: 参加者のNGOの人たちは普段からコミュニティの人と接触している人が多いが、高学歴で、
      弁も立つ人たちなので、 ファシリテーションの際に意見を引き出すというよりも、自分たちが
      考えているゴールに導くタイプの人が多かったことが、研修中に明らかになってきた。 ロー
      ルプレイなどで、参加者が順番にファシリテーターの役を行い、ディスカッションが行き詰る
      と、行き詰った理由を振り返る、ということを繰り返し行った 。それにより、自分のファシリテ
      ーションのやり方がなぜうまくいかないのか、ということに気づく。引き出すということが何な
      のか、ディスカッションの結論を出すということとのバランスをどうとるのか、ということを徐々
      に体験的に学んで、参加者のファシリテーションが変化していく様子を見ることができた 。

(註)
(1)タン・ジョ・ハン(Tan Jo Hann) 1962年生まれ。マレーシア・クアラルンプール在住。1991年に東南アジア地域の草の根運動のネットワークであるSEAPCP(South East Asia)を、1993年にメディアを用いた独創的な手法を提供するNGOのKOMASを立ち上げる。2000年には、以前より活動に関わっていた都市貧困層のための運動体PERMASの会長となる。現在、ビルマ、インドネシア、カンボジア、マレーシアなど東南アジア各地で、コミュニティ・オーガナイザーとして活動している。共著『Get Organized! - Stories & Reflections on Community Organizing』
(2)テーマ「ニサッタ・チャランケ 明日のための話し合い」
(3)テーマ「参加とは~東南アジアに学ぼう」
(4)テーマ「気楽な意見交換会ESD編」
(5)テーマ「参加型学習・参加型開発ファシリテーター研修」

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